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二十六話 相手を見た目で判断してると、痛い目をみる

 一つ、訂正しておくことがある。

 カウロンが、ドラゴンがいる場所は、『転移の間』と言っていたが、それは正確ではない。


『先に言っておくと、ドラゴンがいるのは、「転移の間」じゃなくて、その部屋に繋がっているこの通路なんだー。正直、アレを倒すには、結構暴れないといけないけど、そのせいで「転移の間」にある鏡が割れる、なんてことはないから安心してねー』


 道すがら説明をしてくるムイ。

 確かに、彼女の言う通り、ドラゴンの戦いの最中で鏡が割れた、となってしまっては話にならない。そこに対する注意をしなくて済むだけでも、負担はかなり減ると言っていいだろう。

 と、いうより、だ。


「おいムイ。お前、そのドラゴンと戦ったことがあるんだろ? だったら、弱点とか、見当つかねぇのかよ」

『うーん。まぁ、確かに戦ったことは何度もあるよ? でも言ったようにあいつ、魔術が一切通じないんだよなぁ。これでも色々と試したんだけど、全く効かないの。もうマジなんなのーっって思いながら、何度も逃げたんだよねー』


 魔術が一切通用しない。

 それは魔術を扱う者からすれば、確かに天敵といえる存在だろう。


『まぁ、とは言っても、物理攻撃が通用する―ってわけでもなさそうだし。ってか、見た目的に言えば、物理攻撃の方が耐性あるんじゃね? って思うからなー』

「は? おいこらそりゃどういう……」

「お喋りの最中ですが、どうやら見えてきたようですよ」


 そうして見えてきたのは、巨大な空間。まるで、闘技場を思わせるかのような円形の作りをしており、その中央には、巨大な何かがいた。

 さて。

 ここで、わざわざドラゴン、ではなく、巨大な何か、と表現したのには、無論理由がある。


「……なぁ、俺達って、確か、ドラゴン退治にきたんだよな」

『ん? なーに、今更言っちゃってんのよ、シドちん。あったりまえじゃん』

「そのドラゴンって……もしかしなくても、あれなのか?」


 その『あれ』に対し、シドロは指をさし、再度問いを投げかける。

 だが、返ってきた返事は変わらない。


『そうだよ。あれが、ここのヌシのドラゴン、タラスクだよ』

「だよ、じゃねぇ!! あれ、どう見てもドラゴンじゃないじゃん!! どっからどう見てもでっかい亀じゃん!!」


 そう。

 そこにいたのは、一体のドラゴン、ではなく、亀。

 体長は二十メートル前後、と言ったところか。巨大な手足と胴体、何より背中に背負っている甲羅が特徴的な魔獣であった。

 はっきりと、もう一度言おう。

 これは、どこからどう見ても、亀である。


『いやいや、よく見なよ、シドちん。首から先とか、いかにもドラゴンって顔してるでしょ? あと、尻尾とかも』

「確かにそうだが、ドラゴン要素、それだけじゃん!! 翼もねぇし、爪もねぇし!! 亀のようなドラゴンんじゃなくて、ドラゴンの顔した亀じゃんアレッ!!」


 前者と後者は、似ているようで、しかし全く同じではない。

 確かに巨体であることには違いないかもしれないが、相手がドラゴンか亀かでは、戦い方も変わってくるというもの。


「マスター。自分の常識が全てだと思うのは高慢ですよ。世の中には、多くのドラゴンがいる。その中に、亀に似たドラゴンがいたとしても不思議ではないでしょう?」


 フールはこの状況に慌てるそぶりもせず、ただ粛々と受けて入れているようである。順応速すぎないか? と心の中でツッコむシドロであったが、まぁフールだからなぁ、という気持ちもあり、それ以上はなにも言わなかった。


(そういえば、ムイの野郎、こいつの説明の時に一度だけ、『カメ公』って言ってやがったな……)


 そう。既にヒントは出ていたのだ。

 とはいえ、たったそれだけの一言で、この状況を読むのは、流石に無理があるが。


『まぁ、見た目はあんなだけど、強さはマジやばいから。もう言ってるけど、魔術の一切は通用しないから、あたしの攻撃はほとんど通用しないって思ってて』

「いや、そんなこと言われてもなぁ……」


 先ほどまで、ドラゴンが相手だと信じて身構えていたが、相手が巨大な亀となってしまうと、どうにも格が下がったと思ってしまった。

 けれども。

 それが、いかに愚かだということを、シドロはすぐさま思いしるのであった。






 GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!






 雄たけびが、轟く。

 それは、今までに聞いたことがないような、強烈な魔獣の叫びだった。


「な、んだ……」


 魔獣の雄たけびなど、今まで散々聞いてきた。

 だが、違う。

 目の前にいるのは、明らかに違うモノ。

 聞いただけで、恐怖に飲み込まれそうになるほどの殺気。そして、絶対に倒すという覇気。それらが交じり合った声音に、シドロは圧倒されていた。


 そして。

 その声に気を取られていた次の瞬間。

 ドラゴンこと、タラスクの口から、巨大な火炎玉が放たれる


(やばっ―――)


 すぐさま回避したおかげで、火炎玉は難なくかわすことができた。

 だが、シドロは見た。見てしまった。

 火炎玉が地面を抉りながら直進し、壁にぶつかり、ちょっとしたクレーターのようなものを作り出したところを。


「……おい、何だよ、今のは……」

『あのドラゴンお得意の火の玉だね。あれ、直撃するとほんっとうにやばいから。普通の人間は勿論、この階層にいる魔獣のほとんども、あれには耐えきれないから』

「まじかよ……」


 とてつもない破壊力を前に、シドロは思わず体を震わせていた。

 そんな彼を見て、フールは問う。


「どうしました? もうビビリましたか?」

「……はっ。んなもん、最初っからビビってるっつーの」


 そう。ドラゴン退治をすると決まった時点から、シドロはビビっていた。当然だ。ドラゴンは並みの冒険者は無論、上級の冒険者ですら倒した者はほとんどいないと聞く。それを、自分が倒さなくてはいけないと言われたのだから、緊張するな、という方が無理な話。

 死ぬかもしれない。

 シドロは真剣にそう思った。

 強くなった? スキルがある? そんなのが、あれに通用するとでも?

 無理だ。無茶だ。無謀だ。

 何もしていないのに、そう感じてしまった時点で、シドロの勝機は薄い。

 

 だが。

 ああ、だがしかし。

 シドロはこの時、不敵な笑みを浮かべていた。


「やってやろうじゃねぇか……俺はこいつを倒して、今までの自分と決別するっ!!」


 そう。ここにいるのは、もうただの荷物持ちではない。

 戦う意思を持った、一人の冒険者。

 そして今、彼は生まれて初めて、自分の冒険をすると決意したのだ。


「やるぞ、フールッ!!」

「―――はい。承知しました」


 シドロの言葉に、フールは小さく微笑みながら、剣の姿へと変わる。

 そして、彼女の柄を握り、シドロは剣を構えた。


「行くぞ亀野郎!! 背中の甲羅ごとぶっ壊してやる!!」


 宣言した、その瞬間。

 シドロは巨大な亀型ドラゴン―――タラスクに挑んでいったのであった。

祝!! ブックマーク100人突破!!

ありがとうございます! おかげで、執筆の意欲が湧いてきます!!

これからも頑張っていきますので、ブクマ・評価・感想など、応援方、よろしくお願いいたします!!


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