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二十五話 どんな生き物も卵を産んだら、結構疲れてるもんだよね

 ドラゴン退治当日。

 シドロとフール、カウロンは、『転移の間』に向かっていた。

 ムイはというと、先に『転移の間』に向かい、中の様子を探っている。

 そして、『転移の間』にいく最中、シドロとフールはカウロンから説明を受けていた。


「そもそも、あのドラゴンはここの魔獣ではない。お前達と同じ、『奈落の大穴』に落とされてここにやってきた。ま、その時は卵だったがな」

「卵って……よく割れなかったな」

「ドラゴンの卵は頑丈だからな。とはいえ、誰が何のために、なんてことは当然分からん。だが、生まれた奴は狂暴かつ凶悪だった。ここにいる魔獣連中のほとんどが相手にならないほどに」


 シドロが思うに、ここの魔獣もかなり強い部類に入るものたちだ。それが相手にならない、となれば、相当な相手ということだろう。


「監視者として、俺は奴を放っておくことができず、殺すことにしたんだが……思った以上に厄介でな。ロクに戦うこともできずに、逃がしちまった」


 カウロンの実力は、この一週間で嫌というほど理解していた。

 そんな彼から逃げ切ることができる、というだけでもう危険度がどれくらいかが分かる。


「そして、奴が住処にしたのが、この場所だ」


 そうしてついたのは、一つの入り口。

 何の変哲もない大きな横穴。

 そこにカウロンが手を入れようとした瞬間。

 彼の手に、雷のような白い閃光が迸った。


「まぁ、こういうわけだ」

「いや、こういうわけだ、じゃなくて!! 今の雷、大丈夫なのかよ!?」

「一瞬触れるくらいなら、まぁ平気だ。俺はとある事情から、ここに入ろうとすると、今の雷に邪魔されるとうになってな。おかげで、中に行くことができない。そして、奴はこの『転移の間』に逃げた後、ここ住処としている。しかも、一度も出てくる気配がない」

「出てくる気配がないって……相手は魔獣なんだろ? ドラゴンとはいえ、流石に飢えるんじゃ……」

「そこもまた特殊でな。奴は何故か、飲まず食わずで活動することができる。そこがまた厄介なところだ。おかげで、俺はこの中に入ることができず、奴をしとめることができないでいる」


 自分が入れない場所に、敵が逃げ込み、そしてずっと居座っている。つまり、ある種の籠城をされている、というわけだ。


「狂暴で凶悪、そんでもって飲まず食わずで活動できるドラゴン……だが、そんな奴にも、弱点がある。産卵だ」

「産卵?」

「奴は交配することなく、周期的に一つの卵を産み、世代交代をしている。今いるのは、六十代目ってところか」

「ろ、六十代目って……そのドラゴンって、いつ落とされたんだ?」

「正確には覚えていないが……大体、六百年ほど前だったか」

「六百……!?」


 思わず言葉が詰まる。

 それは、六百年前に卵が落とされた、ということもそうだが、もっと大事なのは、別の点。


「今更だが……アンタ一体いくつなんだ?」

「どうでもいいだろ、そんなことは。とにかく奴は長年、この場所に閉じこもっているひきこもりってわけだ」


 色々とツッコミたいことはあるが、しかし今はドラゴンのことに集中するべきだろう。


「じゃあ、ここにはそのドラゴンが産んだ連中がいるってことか……」

「いや、奴は卵を一つしか生まない。そして、ある程度大きくなれば、産んだ方は死んでいく。だから、ここにいるのは、基本一体だけだ」

「え? でもドラゴンって確か、滅茶苦茶長生きするって聞いたような覚えが……」

「そうだ。だから、奴はドラゴンにしてはかなり短命だ。が、そのせいかどうかは知らんが、強さは絶大だ。いや、この場合、厄介さというべきか」


 短命になったことで、強さを得た、というのは確かに厄介だ。

 しかし、今回に限り、話は違ってくる。


「だが、さっきも言ったが、産卵期になると話は別だ。卵を産んだその後は、体力と魔力がかなり消費している。隙をついて倒すのなら、その瞬間だろう」

「そして今、その産卵期の真っ最中ってことか」

「そういうわけだ。だから、ムイに頼んで、中の様子はもう調べてもらっている」


 などと言っていると、先に中に入っていたムイが浮遊しながら、戻ってきた。


『おまたーっ。中の様子見てきたよー。カーちんの予想通り、もう産卵は終わってた。かなり消耗してるから、やるならいましかナイゼッ!』


 親指を立てながら報告してくるムイ。

 それを聞いて、カロウンは「ごくろう」と言うと、シドロの方へと向く。


「そういうわけだ。あとは頼んだぞ」

「頼んだぞ、じゃなくてっ!! え、説明もう終わり? もっとこう、弱点の説明とかないわけ!? 具体的なアドバイスとか!?」

「ない」

「言い切った!?」

「言っただろ。俺はロクに戦うこともできないまま、奴に逃げられた。色々と調べてみたものの、それでも弱点らしきものはなかった。だから、俺から言えることはもう何もない」


 戦ってもない相手の弱点を教えろ、と言われても確かに答えられないのは当然か。

 不安はかなりある。正直、戦いたくない、というのが本音だ。

 だが、そうも言ってられないのも現実だ。


「言ったように奴を倒すのなら、今しかない。ちなみに、次の産卵時は十年後だぞ」


 十年後。

 それは、シドロにとっては、とても短いとは言えない時間で会った。


「どうします? マスター」

「どうもこうもねぇ……やるしかねぇだろ、こんなの」


 相手は強力なドラゴン。それを倒すとなれば、弱体化している今がチャンスなのは間違いない。

 そして、次の十年後を待つ程、シドロは気長な性格をしていない。


「そんじゃまぁ、行ってくるわ」

「ああ……死ぬなよ」


 そうして、投げかけられた言葉を背に、シドロはドラゴン退治に向かったのであった。

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