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二十四話 人には隠し事の一つや二つ、あるものである

 カウロンの修行が始まって、七日が経った頃。


「そういうわけで、明日、ドラゴン退治に行ってもらう」

「どういうわけっ!?」


 唐突な言葉に、シドロのツッコミが炸裂した。


「ちょ、おいおいおいおい。そ、それは流石に無理というか、無茶というか、無謀すぎやしないか!?」

「喧しい。お前に似合った戦い方は、この一週間で叩き込んだだろうが。これ以上俺がお前に教えることは何もない。それに時間は有限だ。いつまでも先延ばしにしていても、仕方ないだろうが。やるべきことは、さっさとやる。これが全てだ」

「いや、だとしても、もうちょっと慎重に動きべきなんじゃないのか? 道具揃えたり、作戦考えたり、身体をもっと鍛えたりって……」


 確かに、この一週間でシドロはカウロンに自分の能力にあった戦い方とやらを教えてもらっていた。それを知る前と後では、戦いへの意識がまるで違うようになり、うぬぼれかもしれないが、少しは強くなった実感がある。 

 だが、それでも、だ。これはあまりにも急すぎる。


「言いたいことは分かる。が、だとしても、時期を考えれば、実行するなら明日しかない」

「時期……? それはどういう……」

「相手のドラゴンは、周期的に弱体化するようになっている。詳細は明日いうが、その弱るのが、明日だ。ゆえに、ドラゴンを倒すには、明日が絶好の機会、というわけだ」

「いやいやいやいや、初耳なんですけど!? そういうのが分かってたんなら、何でもっと早く言わなかったんだよ!!」


 最初に言ってたとしても変わりはしない、などという問題ではない。少なくとも、事前に分かっていれば、心構えやコンディションを最高の状態に保つことができた。戦いにおいて、そんな悠長なことを言ってられない、と言われるかもしれないが、それができるのとできないのとでは、天と地の差なのだ。


「まさか、言うのを忘れてた、とか?」

「………………そういうことだから、さっさと休んで、明日に備えろ。いいな」

「図星か!! 図星なのかこの野郎!! てんめぇ、ふざけんなよ!! ちょっと表出ろやこの野郎ぉ!!」


 などと啖呵を切った数分後。

 シドロは、地面にのされたのであった。




「―――とまぁ、そんな感じで、明日、竜退治することになりました……」


 カウロンにボコボコにされたシドロは、言われた内容をフールに伝えていた。


「何と言うか、急ですね」

「だろう? そう思うだろ? ったく、あの両目包帯野郎、マジ何考えてんだか……」


 大事な情報を先に言っておかないとは。

 そういうことが、命取りになる場合もあるというのに。


「しかし、いつまでもここにいるわけにもいかない、というのも事実。ふんぎりをつけるのも大事なことだと思います」


 フールの言葉にも一理ある。

 準備だ何だと言って、先に延ばしすぎるのは、それもそれで問題だ。それにもう決まったことをいつまでもうじうじと文句を言うのも無意味なこと。

 ここは気持ちを切り替える場面だろう。


「まぁ、マスターにこれ以上、剣の修行をつけることが困難、と思ったからという可能性もなくはないですが」

「ひどいなっ!? ……まぁ、あながち間違ってはないかもしれないけど」


 自分の戦い方とやらには自覚ができてきたし、強くはなったとは思うが、しかし剣術そのものに関しては正直、そこまで成長したとは言えない。

 カウロンもお前にはもう何も教えることはない、と断言していた。

 ゆえに、フールの言い分もある意味正しい、といえるのかもしれない。


「っというより、マスター。聞いてこないのですね」

「? 何をだよ」

「私のことです。一週間前、あの方との会話で、マスターは私に疑問を抱いたはず。正体不明の魔剣。それについて聞きたいとは思わないのですか?」


 それは、カウロンが言っていた言葉。

 本物の魔剣。

 それが意味するところについて。

 ……いや、それもそうだが、もっと根本的な事柄について、聞きたくはないのか、とフールは言っているのだろう。


「アンタは自分のことを、もう話してくれただろ。なら、それで十分だ。まだ話してないことがあるのは確かだろうが……ま、それはアンタが話したくなってからでいい」


 その言葉を聞いて、フールは少しだけ、目を見開いた。


「……驚きました。マスターが、まさかそんなことに気配りできる人物だったとは」

「アンタ、本当に俺のこと舐めてんのな。ちょっとマジで傷つくぞ」

「事実です。普通なら、気になって聞いてくるはずですし」


 それもそうか。

 人間、誰しも隠し事があると分かれば、聞きたくなると言うもの。

 それを敢えて聞かずにいられるというのは、どういうことなのか。

 その答えは、単純なものだった。


「だって、アンタ、聞かれたくないんだろ?」


 フールが聞かれることを嫌がっている。

 シドロが何も聞かないのは、ただそれだけの理由だった。


「人には隠し事の一つや二つ、あるもんだろ。それを無理やり聞き出すほど、俺は野暮じゃない。どうしても聞きたいときは、話してもいいって信頼されるまで、俺が頑張る。それだけの話だ」

「……、」

「んじゃ、伝えたいことは伝えたから、俺はもう寝るぞ」


 そう言って、シドロはその場を去っていく。

 そんな彼の背中を見ながら。


「信頼されるまで、頑張る、ですか……本当に、馬鹿な人ですね」


 フールは、静かにそうつぶやくのであった。

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