二十三話 今更だけど、剣の達人とかって人間やめてるよね
とまぁ、そんなこんなで、シドロはカウロンに鍛えられることとなった。
何でだよ、などと思っていたシドロであったが、しかし自分に剣の実力がないのは重々承知している。ならばこそ、鍛えてもらえるのならば、ありがたい話である。
……などと思っていたのは最初だけ。
「ぬぉぉぉおおおおっ!!」
大声を上げながら、シドロは走っていた。
しかし、それは走り込みの修行、などではない。
今、シドロとカウロンは模擬戦という形で戦っていた。
場所はカウロンの居住区から少し離れた場所。二人っきりの修行。だがしかし、その光景はどこからどうみても、修行でも、模擬戦でもない。
言うならば、追いかけっこのような形。
ただし、その追いかけっこは命をかけているわけだが。
「そら。逃げてばっかりだと、修行にならねぇぞ」
いいながら、カウロンは剣を一振りする。
と、同時に、シドロの真横の地面が十メートルほど抉れていった。
(一振りで地面が十メートルくらい抉れてるんですけどっ!! え? 何? 何なの? 剣の達人って、そういうの普通にできる連中なの? 人間やめてるの?)
強い剣士が、巨大な魔獣を一刀両断する、なんて話はよく聞いていた。仲間であった、フローラもそうだ。だが、彼女の場合は【烈風】というスキルがあるからこそ。
しかし、カウロンは最初にこう言った。
『お前の剣の実力を見る。だから、互いにスキルは無しだ』
それが本当ならば、カウロンはスキルを使っていない。それでこの威力。
うん。やっぱり人間やめてるわ。
「はっきり言おう。お前には剣の才能がない」
「本当にはっきりだなオイ」
剣の修行……もとい、死のおいかけっこの後、言われた一言がそれだった。
まぁ、けれどカウロンの言い分は尤もだ。先ほどの模擬戦では、ほとんど逃げることしかできていなかった。無論、攻撃も何度か仕掛けたが、そんなものは目の前の化け物には通用するわけがなかった。
「剣の振り方、捌き方、その他諸々の基本はできている。そのことを鑑みれば、そこらにいる素人剣士よりは幾分かマシだろう。だが、結局はそこどまりだ。体格、スキル、身体能力からして、お前は剣士には向いていない」
「言われなくても……それくらいは当の昔に自覚してるっつーの」
小さい頃は、剣士に憧れていた頃もあったが、しかし自分にその才能がないと気づくには、そんなに時間はかからなかった。
「だが、お前のスキルが優秀なのも事実。加えて、体力もかなりある。手加減をしていたとはいえ、俺の攻撃をこんなに長く逃げ切れた奴はいない。剣の才能はなくとも、お前にはお前にあった才能がある。それに応じた戦い方をすればいい」
「う、うっす……」
剣の才能はなくとも、お前にはお前にあった才能がある。
それは、シドロが今まで誰にも言われてこなかった言葉であった。
と、そこでふとシドロの頭に一つの疑問がよぎった。
「……そういえば、気になったんだけどさ。本物の魔剣って、ありゃどういう意味なんだ?」
ドラゴンの話になった時、カウロンはフールのことを『本物の魔剣』だと言った。
この世界には魔剣が存在する。それこそ、街一つ吹き飛ばすほどの強い魔剣もある。一方、フールは絶対に壊れない、頑丈な作りをしている以外は、そこまで突出した能力があるわけではない。
それを指して、『本物の魔剣』というのは、一体どういうことなのか。
「……逆に聞くが、お前はあの魔剣について、どれくらい知ってるんだ?」
「どれくらいって……滅茶苦茶口が悪くて、マスターとか言ってくるくせに全く敬意とかなくて、隙さえあれば、毒づいてきたり、こっちをからかってきたり……」
「そうじゃない。あの魔剣の特性についてだ」
「特性……硬くて、壊れにくくて、重い魔剣としか……あ、あと人間の姿になれるとか」
「人間の姿になれる、か……」
「な、何だよ、その意味深な口調は。何か知ってんなら教えてくれよ」
「無理だな」
「即答!?」
ここまで話しておいて、何も話さないとはこれいかに。
などと考えていると、それを読み取ったかのように、カウロンは語る。
「さっきのは俺がつい口を滑らせた。そんな俺が言うのも何だが、本人が口にしていないことを、勝手に喋るのは筋違いだろう。だから俺はこれ以上何も言わん。聞きたきゃ自分で聞け」
「じ、自分で種撒いておいて、よくそんなこと言えるのな」
「なんとでもいえ。そら、休憩は終わりだ。続きだ。お前の剣の実力は分かった。だから、次は体力についてだ。お前がどこまで動けるのか、限界を見極める」
「見極めるって……具体的には?」
「ぶっ倒れるまで追い込む。それだけだ」
「え、ちょっと待って? 流石にそれはやばいと思うんだが? ってか、もうちょっと休みたいんだがってぬぉぉぉおおおおっ!! いきなり斬りかかってくるなぁぁぁぁぁあああああああああっ!!」
そうして、話は終わり、再び修行へと戻されるシドロ。
だがしかし、彼の中には、未だフールについての疑問が残っていたのであった。
そして、思う。
一体、彼女は何者なのだろうか、と。