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二十二話 一方その頃③ 今更

 ダンジョン四十階層にて。

 フローラたちは、魔獣退治を中断し、野営をしていた。


「―――んー……」


 そんな中、クリャルは一人、難しい顔をしながら、唸りながら、食事をしていた。

 それを見たフローラはムッとした表情で問いを投げかける。


「何よ、クシャル。言いたいことがあるならはっきり言えば?」

「いや、なんつーか……いつもの食事とちがうからよ……」

「当然でしょ。今日は私が作ったんだから。何? まずいって言いたいの?」

「そうは言わねぇよ。ただ……」


 フローラが作ったのは単純なカレー。その味は、まかり間違っても、不味い、という味ではなかった。

 そう。不味くはないのだ。

 だが、いかんせん、物足りなさを感じてしまうのもまた事実。

 そして、それは作った本人であるフローラも感じていることでもあった。


「……まぁ、言いたいことは分かるわよ。私の料理なんて、シドロのなんかとは比べ物にならないんだもの」

「そ、そんなことないですよ~。フローラさんの料理だって、おいしいですよ……」

「それでも、シドロよりは劣る……大丈夫。正直に言っていいわよ」


 自虐のような言葉。しかし、それは事実である。


「いくら『収納バッグ』で道具を色々と持ってこれるって言っても、こんな場所であれだけの料理をできるなんて、今更ながら、彼の凄さに驚いてるわ。加えて、設営の準備の速さとかもね」

「うぐ……な、何だよ。それは設営の時に失敗した俺への当てつけかよ」

「そんなこと言ってないでしょ。まぁ、確かに魔獣除けの道具を、準備どころか壊したのはどうかと思うけど」

「けっ。悪かったな。ああいう手先が器用なことは得意じゃないんだよ」

「別に怒ってるわけじゃないわよ。私も、シドロみたいに早くできないんだろうなって思ってだけ」


 設営の準備は、いつもシドロがやっていたこと。そして、その準備の速さがいかに特別なものであったのかを、彼らは今、こうして実感している。


「……本当に、私達、戦闘以外のことは、彼に頼りっぱなしだったのね」

「そ、そうですね……」

「……まぁ、否定はできねぇわな」


 満場一致の意見。

 料理にしても野営にしてもそう。自分たちが戦うことに関してプロであるというのなら、シドロはそれ以外のことについてのプロだった。まさに、縁の下の力持ち。

 そのありがたさを、彼らは今更にして思い知られている、というわけだ。


「いなくなって初めてその人のありがたみが分かる、なんて言葉よく聞くけど、まさか自分たちにそういう立場になるとはね」

「今更戻ってきても、もう遅い、か……そういえば、ナザンの奴はどこ行った?」

「み、見回りに行ってくるって、さっき言ってましたけど……」



 ****



(……今日も前ほどの動きができていなかった)


 野営の場所から少し離れた場所。

 他の仲間に見つからないところで、ナザンは一人、考え込んでいた。

 シドロがいなくなってからの戦闘は、明らかに皆、動きが遅くなっている。そのため、今日も少し難易度を下げた場所にやってきていた。

 が、それは同時に、シドロの影響が自分たちにはあった、という証拠でもあった。


(本当に、あいつがいたおかげで、僕たちが強かったってことなのか……?)


 体が軽い、というのは戦闘において、どれだけ貴重なことなのか、ナザンもよく分かっている。素早くなるし、体力が減りにくくなる。それだけで、戦いが有利になるのだ。

 それは分かる。理解もできる。

 だが、認めたくないという気持ちが未だに大きかった。

 と、その時、誰かがやってきたことに、ナザンは気が付いた。


「誰だ……ああ、何だ、『君』か。どうしたんだい……様子が気になった? 大丈夫だよ。問題ない。ちょっと一人になりたかっただけだ」


 ナザンは『相手』に対し、そっけない態度で答える。

 すると、『相手』の方から、再び質問が飛んできた。


「後悔しているのか、だって……? そんなわけないだろう。ようやく、あのお荷物を追い出すことができたんだ。後悔どころか、せいせいしてるさ。それより、二人の方はどうなんだ? 僕のこと、疑ってる?」


 自分は信用されている。そこに自信はあるし、間違いないと思ってはいるものの、何事にも絶対という確証はない。

 だからこそ、協力者でもあるこの『相手』には、他の二人の様子を伺うことをしてもらっている。


「そうか。今のところは、問題なさそうか。なら、今後も二人の監視を頼む。まぁ、心配はいらないとは思うけれど」


 分かった、と『相手』は答えると、そのまま野営の方へと戻っていく。

 その途中、今度はナザンから『相手』に対し、声をかけた。


「なぁ、君は知っていたのか? シドロのスキルが、僕たちに影響していたことを」


 その言葉に、『相手』は足を止め、振り返り、一言。

 だとしたら? と。

 その言葉に、ナザンは一瞬怒りのようなものを感じた。だが、それが無意味であることを理解し、怒りはすぐさま収まった。


「……いや、何でもない。そうだな。どうだっていい。そんなこと、もうどうだっていいんだ。僕は選択したんだ。あいつを殺すって。殺して、あの人の前から消すって」


 そう。たとえ、シドロが本当はパーティーの強さに貢献していたからといって、彼を排除することをやめていただろうか。

 否、断じて否だ。

 たとえ、彼が本当は強かったとしても。

 たとえ、彼に凄まじい才能があったとしても。

 ナザンはきっと同じことをしていただろう。

 そして、そんなことを考える必要など、どこにもない。

 何故なら。


「もう僕は……後戻りなんてできないんだから」


 だから、ナザンは前へと進む。

 しかし、未だには彼は気づかない。

 その先に待っているのが、どうしようもない破滅であることを。

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