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二十一話 ドラゴンは、いつの時代も最強なのである

 ドラゴン。


 それは、魔獣の中でも最高クラスの強さを誇っており、たった一体で村を、街を、個体によって、国すらも破壊できると言われている、まさに最強の魔獣。

 冒険者にとっては、死の象徴とまで言われており、出会えばただでは済まないとされている。


「ど、ドラゴン退治って……アンタ、マジで言ってんのか」

「ああ。随分前から『転移の間』に居座っていてな。そいつのせいで、鏡を使うことができなくなった」


 ドラゴンが居座っている……正直、想像するだけでぞっとしてしまう。それだけ、ドラゴンという魔獣は人々に恐れられているのだ。


「あの……失礼ですが、貴方がドラゴンを倒す、ということはできないんですか?」

「その疑問は尤もだが、生憎と俺はちょっとした誓約であのドラゴンを殺すことができん」


 誓約、とカウロンは言った。

 それがどういうことかと聞き直す前に、彼は言葉を続ける。


「加えて言うなら、あのドラゴンは魔術が通じん。いや、正確に言うなら、魔術耐性が異様に高い」

『そうなんだよねー。あたし、何度かあのカメ公とやりあったんだけど、こっちの攻撃なんっにも効かないの。ほら、あたしの攻撃手段って魔術じゃん? つまり、あいつはあたしの天敵なんだよねー』

「か、カメ公……?」


 それはまた、一体どういう意味なのか。

 ドラゴンに対して、カメというあだ名をつけるとは……正直理解ができなかった。


「そういうわけだ。だから、今まであのドラゴンに何もできずにいたが……ここに来て、お前達がやってきた」


 自分は手が出せず、ムイでは歯が立たない。

 そんな、どうしようもない状況下でやってきたシドロとフールは、彼らからすれば、ある種のチャンスだったのだろう。


「お前のスキルとそっちの魔剣。その二つがあれば、ドラゴンを倒せるかもしれん」

「倒せるかもしれんって……いやちょっと待ってくれよ。ドラゴンの皮膚って滅茶苦茶硬いって聞いたことがあるんだが……」

「ああ。その通りだ。奴らの鱗はそんじょそこらの武器じゃ通用しない……だが、お前の魔剣なら話は別だろう? 何せ、そこにいるのは、本物の魔剣(・・・・・)なんだからな」

「本物の、魔剣……?」

「すみませんが」


 瞬間。

 空気が一瞬で凍った。

 たった一言。フールのその言葉で、場の雰囲気は一変し、シドロの背筋は震えあがった。


「うちのマスターに余計なことを吹き込まないでください」


 相変わらずの無表情。

 だが、その瞳の奥には、どこか怒りのようなものを感じ取れた。

 フールは理解している。目の前の男が、自分よりも格上であることを。だが、それを差し引いても、今、彼女は静かに怒ることを選択した。

 つまり、それだけ今の発言は、彼女にとって掘り出されたくない代物だった、というわけだ。


「……成程。今のは藪蛇だったか」


 一方のカウロンはというと、シドロの方を一瞬見て、成程、と言わんばかりの表情を浮かべる。どこか納得したようなその態度に、シドロはまゆをひそめた。


「今のは失言だった。忘れてくれ……それで、話を戻すが、とにかく、お前ならドラゴンの鱗は斬れる。そうだろう?」

「……ええ。私は頑丈さに重きを置いて作られましたが、切れ味に関しても自信はあります。そのドラゴンが、どれだけの鱗を持っているかわかりかねますが、恐らく大丈夫でしょう」


 フールは剣としての頑丈さは無論、切れ味に関しても超一級品であることは、シドロも知っている。恐らくではあるが、きっとドラゴンにも通用するだろう。


「ただ、問題が一つあります。確かに、マスターのスキルは強力です。そのおかげで、ここに来るまで魔獣を難なく倒せてきました。が、それは相性が良かっただけの話。相手がドラゴンだと、話が違ってきます。マスターは体力はずば抜けていますが、剣技においては多少できる程度。ドラゴン相手となれば、少々不安があります」

「うぐ……」


 言われ、しかしシドロは何も言い返せない。

 事実、ドラゴン相手に英雄や勇者のように剣一本で相手をする自分の姿など、想像できない。今は【軽量化】があるとはいえ、それでも不安なのは同じこと。何せ、相手はあのドラゴン。たとえ体を軽くさせても、何が起こるか分からない。

 しかし。


「ふむ。そうか……しかし、それも問題はないだろう」

「言い切りますか。その根拠は?」


 何とかなると言わんばかりのカウロンに、思わずフールは問いただす。その点については、シドロも同じ気持ちであり、何が理由で、問題はないと言えるのだろうか。

 そんな彼らの問いに対し、カウロンは端的に答える。




「根拠も何も、俺がそいつを鍛えてやればいいだけの話だからな」

「……………………へ?」




 この瞬間。

 シドロは、己が地獄の日々を送ることが決定したことを、まだ知らなかったのであった。

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