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十九話 条件をのめって言われたら、即答するのは悪手である

 シドロ達は、男に言われるがまま、彼の住処へとやってきていた。

 住処……というより、住居、と言った方が正しいだろう。

 普通、ダンジョン内は多くの魔獣が生息しており、特にこの『奈落の大穴』の底は、強力な魔獣が多い。そんな場所で、一軒家があるというのは、何ともシュールな光景だった。

 そんな家の中に招かれたシドロ達は、テーブルの席に座って、男と対面していた。


「自己紹介がまだだったな。俺はカロウン。この場所で、監視者をしている男だ」

「監視者……?」

「文字通りの意味だ。訳あって、ここを監視している。ここは、色々と厄介ごとのネタがある場所だからな。それは、お前達がよく知っているだろう?」


 その言葉に、シドロとフールは息をのむほかなかった。


「『奈落の大穴』は、一度落ちれば帰ってこれない場所。それを利用して、色々と捨てていく者が多くてな。人は勿論、中にはそこの魔剣と同じく、人に知られたくないもの、隠したいものを捨てる輩もいる。そのせいで、色々と問題を抱えているわけだ」


 確かに、『奈落の大穴』を利用する連中はそれなりにいるだろう。人ならば、転落死して終わりだが、そうでないもの……例えば、フールのような武器や何か曰く付きの品物であれば、どんどんと溜まっていってしまう。そして、そんなものが多く集まれば、ロクなことにならないのは明白。


「まぁ、それは置いておくとして、だ。まずお前達の現状について話すとしよう。まず、はっきりと最初に言っておくが、この階層に上に繋がる道は、今のところ存在しない」


 その言葉に、シドロは目を見開きながら、待ったをかける。


「ちょ、ちょっと待てよ。そりゃおかしいだろ。ここはダンジョンなんだろ? だったら、上に繋がってる道があるはずだろう?」

「そうだな。では基本的なことから話すとしよう。ダンジョンの構造として、階層王がいるのが知っているか?」

「あ、ああ。その階層の主みたいなやつだろう? そいつを倒せば、下の階層に行けるっていう……」


 階層王。

 シドロが言ったように、ダンジョンの各階層にいる、強力な魔獣であり、それを退治するとさらに下の階層に行くことができるのだ。


「その表現は正確ではない。正しくは、階層王を倒せば、下の階層に繋がるんだ。そして、それは逆に言えば、階層王を倒さなければ、下の階層には繋がらない……そういう仕組みになっているそして、現状、このダンジョンの階層はここまで攻略されていない。よって、上には繋がっていない、というわけだ」


 その仕組みについては、初めて聞かされた。

 だが、そういう理屈であれば、上に行けない、というのは納得だ。何せ、ここのダンジョンは未だに最下層まで攻略されていないのだから。


「しかし、上にいく手段が全くない、というわけではない。一つは、『奈落の大穴』をそのまま上っていく方法。だが、これは論外と言っていいだろう。あの断崖絶壁を登っていくなど、正気の沙汰ではない」


 これについては、シドロ達も同感である。

 あそこから上に帰れるとすれば、それはもう人類のレベルを超越した何かだろう。


「だが、もう一つだけ、方法がある。それが『転移の間』だ」

「転移の、間……」

「地上に繋がる魔術鏡がある場所だ。そこに行けば、お前達は地上に戻ることができるだろう」

「ほんとかっ!?」


 食い気味に反応するシドロ。それもそのはず。自分が帰れる可能性を具大的に提示されたのだ。驚かないわけがない。

 しかし、だ。それがタダで、といかないのが現実である。


「ただし、その場所に連れて行くにはいくつか条件がある。それを飲めば、『転移の間』に連れて行ってやろう」

「……それはまた、随分一方的ですね」

「当然だ。俺は別に交渉をしているつもりはない。そして、無理に頼んでいるわけでもない。やりたくなければ、断ればいい。ただ、言っておくがこの階層はお前達が思っている以上に広い。普通の階層の何十倍もの広さがある。下手をすれば、小さな国一つ分くらいの広さがな。そんな場所で、自力で『転移の間』を見つけるのはほぼ不可能だとは思うが?」


 正論である。

 痛いところをつかれてしまったせいで、フールは何も言い返せなかった。


「(……マスター。どうします?)」

「(どうもこうも、条件ってのを飲むしかねぇだろ。今のところ、俺達にそれ以外の選択肢はなさそうだしな)」


 シドロたちは、ここに来てまだ日が浅い。翻って、カロウンはここの事情に詳しい。ならば、多少危険だろうが、彼らに頼る他ない。

 とはいえ、だ。はいそうですか、と即答するほど、シドロも馬鹿ではなかった。


「分かった。ただ、その前に、条件ってのを教えてくれ。あんまりにも無理難題を言われるのは勘弁だからな」


 言いながら、どんな条件を出されても、同様しないよう、シドロは身構えていた。

 いたのだが……。


「いいだろう。では一つ目の条件だが―――地上に行く際、あの騒音幽霊女……ムイを一緒に連れてってほしい」


 その瞬間。

 あまりに予想外すぎる条件に対し、シドロは呆然とした表情を浮かべたのだった。

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