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十八話 目に包帯してる奴って大体強そうだよね

(な、んだ……あいつは……)


 そこにいたのは、長身の男。

 まず目についたのは、黒一色のフード付きの衣装。目元を包帯で撒いており、髪は真っ白であった。年齢は二十代後半、といったところか。

 そして、背中には自らの身長以上の長い剣を背負っていた。


「……マスター。感じてますか」

「ああ……あいつは、やばい……」

「そうですか。流石に鈍感なマスターでも、あの者の危険度が分かるようですね……」


 一言多いフールであったが、今のシドロにはそれに対し、言葉を返す余裕がなかった。

 シドロは戦闘経験が浅い。とても歴戦の剣士、とは言えない腕前だ。

 だが、そんな彼でも分かる。

 今、自分が一歩でも下手なことをすれば、確実に殺される、と。

 そして、それはフールも分かっているようであり、険しい表情を浮かべながら、男をにらんでいた。

 そんな、緊張感漂う中で、だ。


『あっ、カーちん。やっほー』


 幽霊少女は、そんな場違いにもほどがある言葉を口にしたのだ。


「……、」


 カーちん、と呼ばれた男はその呼びかけに一切答えず無言のまま。

 ……かと思われた次の瞬間。


 幽霊少女の体が吹っ飛んでいった。


「……え?」


 思わず、そんな言葉を呟いたのは、シドロ……ではなく、フール。

 それもそうだろう。何せ、彼女はつい先ほどまで、幽霊少女を拘束していた。いや、今現在も、その姿勢はホールドを保ったままである。

 だというのに、フールは何も起こらず、幽霊少女のみが吹き飛ばされた。


「ちょ……今、何が起こった……?」

「分かりません……気づいたら、彼女だけが飛ばされていて……」


 恐らくは、男の方が何かしたのだろうが、そちらも全く動いていない。

 一体全体、何が起こったのか。

 理解不能な状態であったが、しかしそんなことなど知らぬと言わんばかりに幽霊少女は口を開く。


『ごほ、ごほ……ふふ。今日も今日とて激しいツッコミだな、カーちん。けど、もう少し優しくできない? 今の、結構、マジで痛かったんだけど』

「やかましい。言い訳無用。勝手なことをしている貴様が全て悪い」

『えー、それはいくら何でもひどすぎない? もうちょっと女の子に優しくしてもよくなーい? そんなんだとモテないよ、カーちん』

「うるさい。それと、その呼び名はやめろと何度も言っているだろうが」

『え~……じゃあ、カーちゃんでいい?』

「死にたいのか? それとも殺されたいのか?」

『うん。それってどっちも同じ結末だと思うのはアタシの気のせいかな?』


 とんでもない威圧感を持つ男に対し、幽霊少女はまるで怯みもせず、会話を続けていく。正直、シドロにはそれが信じられなかった。

 顔見知りなのだろうが……しかし、それでも些か妙な光景である。


「……で? そしてそこの二人。どうやってここまで来た? 上の階層を突破したわけでもあるまい? 正直に話せ」

「……マスター」


 フールがこちらを見ながら、呼びかけてくる。その目は、逆らうな、と言っていた。そして、それはシドロも同じ気持ちだった。

 頷き、シドロはこれまでの経緯を手短に説明する。


「…………成程。にわかには信じられないが……しかし、そういうことなら納得せざるを得ないだろう」


 男の言う通りだ。崖から落ちたが偶然生き残り、そして偶然魔剣を拾い、ここまでやってきた、なんてことは普通信じられない話だ。

 だが、幸か不幸か、こちらの説明、男はどうやら信じたようだった。


「それで、お前達はこの後、どうしたい?」

「どうしたいって……そりゃあ、地上に戻りたいに決まってるだろ」

「それもそうか……いいだろう。ならば、条件付きでその願い、俺が叶えてやる」

「ほ、本当かっ!?」

「待ってくださいマスター」


 喜びの声を上げようとするシドロに対し、フールが待ったをかける。


「相手が何者なのか分からない上、信用できるかどうかも不明。そんな相手の言葉を鵜呑みにするのは、愚かどころではありません」


 それは何も間違っていない意見だった。

 こんなところにで出会った奇妙な男。しかも、こちらを容易く殺せそうな雰囲気を漂わせている人物。そんな人間の言葉をすぐさま信じるのは愚行としか言えない。


「そっちの女の言い分はもっともだ。だが、俺として貴様らに信用してもらうつもりなど毛頭ない。好きにすればいい。だが、先に言っておく。貴様らは俺の提案に乗らない以上、ここから出ることは絶対にできない」

「それは、どういう……」

「フール」


 と、今度はシドロの方がフールの言葉を遮った。


「ここまで俺達は上に戻る手掛かり一つ、つかめてない状況だ。そんな中で、ようやく会話ができるやつと出会ったんだ。危険かもしれないけど、話だけでも聞いておいて、損はないんじゃないか?」


 危ないのは承知の上。

 だが、ここまで上へ戻る方法は何一つ分かっていない。ならば、危険と分かっていても、飛び込むしか、自分たちにはないのだ。


「……分かりました。マスターがそうおっしゃるのであれば」

「話はまとまったか? であれば、早速細かい話をしたいところだが……ここではなんだ。俺の住処まで移動するとしよう。ついてこい」


 そう言われ、二人はとりあえず、男についていくことにしたのであった。

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