十五話 話を聞かない奴ってタチ悪いよね
「しっかし。ここに来てそれなりに経つとは思うが……本当に上に繋がる道がねぇな。一体どうなってんだ?」
ここがダンジョンであるのは間違いない。ならば、どこかに上へと通じる道があるはずだ。だというのに、もう半月ほど経つと言うに、その道が一向に見つからない。とはいえ、この階層の全てを探索できたわけでもないのも事実。それなりの日数が経つが、それでも把握できないほど、ここは広大なのだ。
ならばいっそのこと、落ちてきた場所からどうにかして上に上がればいいのでは? という疑問も浮かびそうだが、それはそれで危険だ。確かに、今のシドロには【軽量化】という力があるが、だからといって、断崖絶壁を登れるわけではない。
さて、どうしたものか、などと考えていると。
「……って、何だありゃ。扉か?」
見つけたのは奇妙な扉。
サイズは大きく、高さはおよそ五メートル程。
「もしかして、上に繋がっている扉か……?」
「早計ですよ、マスター。あれが上に繋がってるとは限りません。そんなだから、マスターは背丈が小さく、頭も悪く、年齢=彼女いない歴なのですよ」
「今の一言にそこまで言われるような要素皆無だったと思うんだが!?」
ただ予想を言っただけで、この言われよう。ひどい話である。
しかし、フールの言うように、これが上に繋がっている保証はどこにもない。それはただの予想だ。けれども、もしかすれば、という可能性であれば、ゼロではないのもまた事実。
などと考えていると。
『ま~て~』
不意にどこかから奇妙な女の声がした。
瞬間、シドロは周りを確認する。が、女どころか、人の姿すらどこにもなかった。
『そ~れ~い~じょ~ち~か~づ~く~な~』
けれど、再び聞こえてくる声。
幻聴などではない。間違いなく、誰かが近くにいる。
『こ~こ~か~ら~さ~き~は~、だ~れ~も~~、と~お~さ~な~い~』
そこで、ようやくシドロは声の発生源が、上であることに気づき、そのまま天井を見上げた。
そして、そこにいたのは……。
『い~ま~す~ぐ~、か~え……げほっげほっ。やっべ。この喋り方、マジできついわ。っつーか、面倒臭いし……うん、やめよっか』
などと、いきなり喋り方を変えた、白黒頭の少女だった。
「あれ……女、だよな」
「ええ。女性……正確には少女ですね」
どこからどう見ても相手は女性……いや、少女か。それは確認するまでもないことである。
年齢は十六歳前後だろうか。服装は、かなり派手であり、肩と太ももが露出している。
だが、そんなことはどうでもいい。
「ちょっと聞きたいんだが……あいつ、なんか浮いてない?」
「浮いてますね」
「しかも、どことなく、全体的に半透明になってない?」
「半透明ですね」
「もしかして……『アレ』系なやつ?」
「恐らくは、『アレ』系なやつかと」
シドロはフールに問いを投げかけながら、自分の目がおかしくなっていないことを理解した。
……いや、この場合、理解してしまった、というべきだろうか。
『ふふふ。ようやく気付いたか。そう、アタシはここの門番……じゃなかった。守護者……でもなかった。監視者……は、カーちんのことだし。この場合アタシはなんて自己紹介すればいいんだ?』
「いや、俺達に聞かれても……」
自分のことを紹介するつもりが逆に問いかけてくるとは一体全体どういう了見なのか。
『とにかくっ。アタシはここでこの門を勝手に守ってる美少女幽霊!! ここから先は何があっても絶対に通さないゼッ!!』
「おいおい。自分で美少女とか言っちゃったぞ、アイツ……」
確かに、美少女と言っても過言ではない見た目はしている。フールは傾国の美女と例えるならば、目の前にいる幽霊は活発な看板娘と言ったところか。
っというか、だ。
「俺の聞き間違いじゃなかったら、今『勝手に守ってる』って言わなかったか?」
「残念ながら、聞き間違いではないかと」
「ですよねぇ……」
色々とツッコミどころが多すぎて、最早指摘するのも面倒になってきた。
『そういうわけで、いくぞコラァ!!』
「ちょ、何勝手に戦闘始めてんのっ!? っつか、人の話を聞けぇぇぇ!!」
『フッ、残念だったな。アタシは言葉よりも拳で語るタイプ的な人間だっ!!』
「はた迷惑すぎるだろそれっ!!」
『あっ。拳で語ると言ったけれど、アタシ、どっちかっていうと魔術とかバンバン使うから。そういう誤解はナシの方向で』
「御親切にどうもっ!!」
完全に人の話をロクに聞かず、自分の世界で生きているタイプである。
ゆえに、対応する策は一つしかない。
「こんの……仕方ねぇ。やるぞっ!!」
「はい。大変遺憾ながら、やりましょう、マスター。その代わり、今日の晩御飯はキノコ抜きのスープを出してくださいね。私、キノコ系苦手なので」
「そこは何も言わずにすんなり従ってくれない!?」
などという会話をしながらも、フールは剣になり、シドロは柄を握る。
そうして、彼は人生初の幽霊退治にしゃれこむことになったのだった。