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十四話 一方その頃② 異変

 ダンジョン四十五階層。


 ナザン達一向は、そこで巨大な蛇と戦っていた。

 グランドスネーク。ダンジョン内でも強力な魔獣である。その全長はおよそ十メートルであり、人間など人飲みにしてしまう。

 B級クラスの冒険者では相手にならない。

 けれど、ナザン達はA級クラス。今まで何度も討伐してきており、問題なく倒せる相手だった。

 ……だったのだが。


「クシャルッ!!」

「ちっ、イリナッ!! 治癒頼む!!」

「はいっ!!」


 負傷したクシャルに対し、イリナが即座に治癒をかける。

 彼女のスキル【治癒】は、その名の通り、対象を治癒することが可能だ。そもそも、スキルというのは、その名を聞けば能力が分かるようにされているのだ。


「イリナ、悪いけど、こっちにも!!」

「は、はいっ!!」


 言われ、イリナはフローラにも同じく、治癒を施した。

 イリナの治癒の能力は一級品だ。そのおかげで、クシャルもフローラも即座に傷が治っていく。

 だが、しかしこの状況はあまりよろしくないものであった。


「何やってるんだ二人とも!! そこまで手こずる相手じゃないだろ!!」

「分かってるっての!!」


 ナザンの言葉に、クシャナは思わず叫んで答える。フローラも、言葉は返さなかったものの、クシャルと同じ気持ちであった。


「ああ、くそ……調子悪いなオイ!!」

「同感!!」


 言いながら、クシャルは槍を、フローラは剣を構え、そのままグランドスネークに斬りかかっていった。

 不調ではあるものの、しかしそこはA級冒険者。その斬撃は、確実に敵をとらえていた。

 クシャルのスキル【疾走】はその名の通り、尋常ならざる速度で行動できる能力。

 そしてフローラのスキル【烈風】は剣などで激しい風を斬撃として飛ばせる能力。

 その二人が前衛に出て、そしてナザンの支援魔術も加わることで、彼らはパーティーとして機能している。

 そうして、一向は何とかグランドスネークを討伐に成功したのだった。


「ふぅ……とりあえず、何とか倒せたな」

「ええ」


 息絶えた巨大な蛇を前に、クシャルとフローラは汗をぬぐう。

 いつもなら、この程度の相手に汗などかくこともないというのに。


「二人とも。ちょっといいか」


 などと、ナザンはどこか険しい顔を浮かべながら、二人に話しかける。


「今日はどうしたんだ。動きが緩慢になってるぞ。それにいつもより遅く感じる。一体どうしたっていうんだ?」


 これが一人だけなら、ただの体調不良で済まされたかもしれない。だが、フローラとクシャル、二人となれば話は別だ。


「……まさか、まだシドロのことを引きずっているのか?」


 さらに顔をしかめるナザンに対し、クシャルは「はっ」と鼻で笑った。


「ちげぇよ。俺らは仮にも冒険者だぞ? そして今はダンジョンにいる。戦いでミスったら即座にあの世にいくこの状況だぞ? それくらいの気持ちの切り替えくらい、できてるっての」

「じゃあ、今日の動きは一体なんだっていうんだ?」


 再度の問いかけ。

 それに対し、クシャルはどこか苦虫を噛むような顔をしながら、答える。


「……言い訳したかねぇが、なんつーか、身体がやけに重いんだよ。ダンジョンに来るときは、いつも身軽に感じてたんだが、今日は軽いどころか、重たくて仕方ねぇ」

「私もよ。動けないってほどじゃないけど、それでもいつもの十全な速さで動けないのは事実ね。っというか、それは貴方も感じてることなんじゃないの?」

「……、」


 フローラの言葉に、ナザンは答えない。が、否定ができないのが何よりの証拠だった。

 ナザンやイリナは後衛。そのため、クシャルとフローラに比べて激しく動いてはいない。だが、それでも自分たちの体がどこかいつもより重いことには気づいているはずだ。


「で、でも、どうしてそんなことに……? 私達、何か変なものでも食べたんでしょうか?」

「んなわけねぇだろ。そもそも、俺ら朝食別々だっただろうが。っつか、正直、身体が重いと感じたのは今日じゃなくて、ちょっと前からだし」

「ちょっと前って……もしかして……」


 それがいつなのか、考えればすぐに分かる。

 すなわち、シドロが崖から落ちたその日。つまり、彼がいなくなった後から、というわけだ。


「……もしかして、シドロのおかげだった、とか?」

「……どういう意味だい? それ」


 フローラの独り言に、聞き捨てならないと言わんばかりに、ナザンが口を挟む。


「彼の【軽量化】の力で、私達は身軽に動けてたんじゃないって話よ」

「そんな馬鹿な。もしそんな力があるんだったら、何故彼はそれを話さなかった? 隠す必要なんてどこにもないだろ」

「彼がそれを自覚していなかったら? 無意識の内に発動させてたから、彼自身も気づいていなかった」

「バカバカしい。そんな力、彼にあるはずがないだろう。そして、たとえそうであったとしても、もう彼はここにはいないんだ。どうしようもないだろう」


 ナザンの言う通り、それらはあくまで憶測でしかない。確固たる証拠はなく、肝心のシドロはもうおらず、ゆえに証明できない。

 だが、しかし。

 ナザンの言葉にはどこか、必死に否定したがっているように思えたのは、気のせいだろうか。


「あ、あの。今日はもう魔獣退治はやめて、野営の準備しませんか?」

「……ああ、そうだな」

「ええ。そうしましょうか」


 イリナの一言で、その会話は終了した。

 だが、それで問題が片付いたわけでない。むしろ、心のどこかでひっかかりを覚えてしまっている。

 特に、ナザンについては。


(あいつのおかげだった、だって?)


 その言葉が、どうしようもなく、彼には気に食わなかった。

 そして、ナザンは静かに己の拳を強く握りしめる。


(そんなことはない……そんなことは、あり得ない……あいつは無能で、お荷物で、厄介者だったんだ……だから、僕は、あいつを、あいつを……)


 まるで、自分に言い聞かせるかのように、心の中でそんなことを呟きながら、野営の準備にとりかかったのであった。

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[気になる点] >「彼の【軽量化】の力で、私達は身軽に動けてたんじゃないって話よ」 「そんな馬鹿な。もしそんな力があるんだったら、何故彼はそれを話さなかった?  隠す必要なんてどこにもないだろ」 パ…
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