十二話 寝る前って色々と考えちゃうことあるよね
(さて……もうかれこれ彼と一緒に行動して十日ほどたつわけですが……)
就寝時、フールはこれまでのことを鑑みて、色々と一人で整理をしていた。
(正直、ここまで相性がいいとは……。私を持ち上げることもそうですが、人間時でも彼の力は私と相性が良い)
自分を軽くさせ簡単に振るうことができる。それ自体が奇跡と言っていいほどの相性の良さだ。加えて、周りの敵も軽くさせてしまうのだから、戦闘においては一石二鳥だ。
加えて、フールが人間時にも同様だ。シドロが先に提案してきたが、フールも同じようなことは考えていた。そして、結果的には成功という形になったわけだ。
(それに、スキルの使い方も使いこなしている。今までも単に手に持ったモノを軽くする、というのはやってきたでしょうが、手に触れずともモノを軽くさせるということを難なくやってのけている)
モノを軽くさせる、というスキルをずっと使っていたためか、「手に持たずとも使わずとも使える」というきっかけを与えただけで、この有様だ。そういう点においては、才能があると言わざるを得ないだろう。
(剣術については……まぁギリギリ及第点、といったところでしょうか。ずっと荷物持ちだった人に、いきなり剣の達人になれ、というのはあまりに酷なこと。そこは別のところでカバーしてもらうとしましょう)
正直、ここについては今後の課題にはなってくると思うが、しかし現実的に考えて、今すぐ剣術を上達させろ、というのは無茶な話。それよりも、他のところを伸ばしていく形にすればいい。
(カバーするといえば、マスターは本当に体力が凄まじい。正直、私にも分けてもらいたいところです)
自分の体力の無さについては常々思うところがあったフールだが、シドロの人並外れた体力を前にして、より強く思うようになってしまっていた。
あの体力があれば、きっと向かうところ敵なしになれるだろう。
(……いや、よそう。そういうないものねだりをしても無意味なことですし)
そもそも、シドロのスタミナについては、彼が荷物持ちをしてきた結果、身に着いたもの。それを羨ましいと思うのは、お門違いだろう。
と、そこで視線をシドロの方へと向ける。
火の番をしながら、周囲を警戒しているその様は、立派な冒険者の姿……に見えなくもない。
(何というか……本当に、奇妙な人に拾われたものです)
その評価は、きっとシドロからすれば不服なものであろうが、しかしフールにとってはそれが彼の印象であった。
(魔剣という道具に対し、まるで人間を相手にするかのような態度をとるだなんて。しかもこっちは正体不明だというのに。心が広いというか、不用心というか……)
いきなり喋る魔剣を前にして、驚きはしたものの、結局はそのまま自分の剣として受けれいている。そんなこと、本当ならあり得ない話だ。
不審だと思うし、何か裏があるのではと考えるのが自然な流れ。
だというのに、シドロは驚くほどフールの話を聞き入れている。
(ふむ。やはり、馬鹿なんでしょうね)
ひどい言いようだ。
だが、フールがそう思うのも無理からぬこと。よく知りもしない人間の言葉をほいほい聞き入れるなど、本来あってはならないこと。ましてや、ここは『奈落の大穴』の底。何が起こるのか、分からない場所のはずだ。そこで出会った怪しげな魔剣の話をすぐに信用する。
……うん。やはり、どこかおかしい。
(とはいえ、です。個人的には幸運と言えるでしょうね。また、『無能』やら『失敗作』と言われるよりかは全然マシですし)
シドロはフールに対して、そういった言葉を一切使っていない。無論、それは彼にとって、フールが使い道がある道具だからなのだろうが、それでもフールにとっては、自分が必要とされている、というのがどこか安心した気持ちになれるのだった。
(それに、受け答えが一々面白いですからね。とてもイジりがいがあります)
フールのおふざけに、全力のツッコミを入れてくる姿は、正直嫌いではなかった。まぁ、やられている向こうからすれば、ふざけるな、と言われそうではあるが。
(まさか、私が誰かに対して、イジりがいがあるなどと思う日が来るとは……人生、何があるのかわかりませんね)
かつての自分……ここに落とされる前までのフールならば、絶対に考えられないことだった。何せ、かつての彼女には、そんなことを考える余裕など、一切なかったのだから。
(……私がここにおとされて、六百年、か……)
正確には、最低でもそれ以上、ということだろうが。
だが、何にしろ、それだけの年月が過ぎ去っていれば、自分をここに落とした連中はとうの昔に死んでいるだろう。
ゆえに、彼女が連中に対し、復讐をする、というのはできない。
だからこそ、今はとりあえず、小さな主の剣となって、彼の道行を観察させてもらうことにする。
(さて……貴方は一体、どんな道を歩むんですかね……)
そんなことを思いながら、フールは今度こそ、眠りについたのであった。