1.悪魔召喚!
カチッカチッ。
規則正しい時計の音が薄暗く、狭い部屋で微かに聞こえる。
部屋の中央には何かの絵が書かれ、それを囲うように円が幾重にも書かれている。
その円の外に一人、立っていた。
黒いローブを羽織り、何かの本を胸元で開けている。
「我が呼び声に答えよ。悪魔召喚!」
男の声で静かにそう言うと。
コミカルな躍りを始めた。
躍りが終わると、男は……。
「我が呼び声に答えよ。悪魔召喚!」
再び同じ事を言った。
そう、この男は何回も踊っては言っている。
「……やっぱ、駄目じゃねぇか!如何にもな古本屋にあったから買ってみたけど全然出てこねぇ!」
この男、名前は『橘 一矢』(タチバナ イッシ)。
二十七歳、独身。
二流大学を卒業後、そこそこの中小企業に就職した社畜。
趣味はゲームや読書。よく居る陰キャ街道爆走中。
収集癖があり、気に入った物を手に入れようと頑張る傾向あり。
「手っ取り早く悪魔たん召喚して、金貰って色々買おうと思ったのに」
そう言いながら男は部屋の電気を付けて押入れに本を飾る。押入れには変な物がたくさん飾られていた。
古そうな銅鏡、人型で背中には羽を着けたタコを頭にした化け物の木彫り、ひびの入った木製の剣。
そんな変な物が押入れに大事そうに飾られている。
この橘という男は、収集癖のお陰で家賃の安いボロアパートで住み、食事も質素…とは言いづらい程に食費を押さえた生活をしている。
現在、押入れで飾っている物に掛けた金額は四百万円ほど。
高いのもあれば安いのもあり。
他者から見ればガラクタだらけ。
それを飾って満足するのがこの橘一矢だ。
先程の狂った行為は悪魔召喚方法と本に書かれていたからやってみただけで、本当に召喚したいとは思っていなかった。
だが、代わりに変な物が出てきてしまった。
ボトッ、という音が部屋の中央から聞こえた。
橘は振り返り、なんの音なのか確かめるために振り返り見る。
そこには、一冊の本と陣の中心から人間の腕が生えていて、それなりに大きな瓶と紙を床に置いている時だった。
「……なにあれ」
人は驚き過ぎると語彙力が低下するのか、それだけしか反応が無い橘。
腕は、直ぐに陣の中へと消えてしまった。
部屋に残された一冊の本と瓶と二枚の紙。
橘はそれらの確認をするまで一時間ほど放心した。