プロローグ
ぼちぼち書き進めていきますので、よろしくお願いします。
おかしい。こんなはずじゃなかったのに。
そもそも、転生するなら「中世ヨーロッパ風で剣と魔法の世界」が定番じゃないの?
なんでこんな雪山の山頂にいるわけ?明らかになにかがおかしい…。
*
引きこもり生活も17年目。
凪は既に32年間の人生の半分以上を布団の中で過ごしてきた。自分の匂いに満たされてぬくぬくとしていられたら、それだけで落ち着けた。
外に出るのは、一番人気のない深夜と明け方の境目の頃に、近所のコンビニに食べる物を買いに行くときくらい。足下だけを見つめながら、黙々と歩く。それは食べ物を手に入れるために必要な儀式のようなものだと思っていた。
ハムスターが弾み車で走るのは、目の前に食べる物が無くても、走り続けた先には必ず食べ物があるとDNAにインプットされているからだと聞いたことがある。だから、ハムスターはお腹が空いたら走る。それはハムスターにとって大事な儀式なんだ。
凪はコンビニに向かう自分を、いつもハムスターと重ねていた。とにかく無心に足を動かしさえすればいい。そうすれば食べ物は手に入るから。そう思っていた。
「危ない!」
「えっ?!」
誰かの叫び声が聞こえた気がした瞬間には、もう凪の身体は浮いていた。いや、正確には落ちていた。
深い、深い穴へと。
*
どれだけの時間が経ったのか、ふと我に帰ると、凪は痛みを感じることもなく、暗闇の中に立ち尽くしていた。
穴の中は、暑くも寒くもなく、これといって匂いや音もしない。手を伸ばして辺りを探ってみても、なにも手に触れなかった。
息詰まるほど狭くはなさそうだけど、なにがあるかも分からない真っ暗闇の中へ踏み込む勇気も無い。
凪は、どうしたものだろう…と、自分が落ちてきたであろう上を見上げた。
遥か彼方、頭上高くに丸く切り取られた空のようなものが見える。赤紫色に染まっているということは、明け方だろうか。思ったより時間は経っていないのかもしれない。
それにしても、空を見たのはいつ振りだろう。足下を見てても穴に落ちるくらいだったら、もっと空を見ておけば良かったな。地面ばかり見つめていないで。
そう思った瞬間に、眩い光が凪の視界を奪った。
「う、わ…」
*
衝撃から立ち直った凪の目がぼんやりと視力を取り戻す。どうやら外にいるらしい。頬を冷たい風が撫でていくのを感じる。
夜のようだが、妙に明るい。それもそのはず。足下を覆い尽くす雪が、満天の星明かりを照り返して淡く光っていたのだ。
ファンタジーな光景に全く状況が飲み込めないまま辺りを見て回ると、そこは麓が霞んで見えないほどの高い山の上のようだった。下を覗き込んだ凪は、そのまま吸い込まれそうな恐怖に思わず後退り、あまりの高さにクラクラする頭を両手で押さえた。
深呼吸をして自分を落ち着かせると、今度は手掛かりを求めるように天を仰いだ。空がすぐそこまで迫り、無数に煌く星が掴めそうだ。星が多すぎて、星座も分からない。
「虫取り網を振り回したら大量の星を掬えそう」
突拍子もないことが起こると、突拍子もないことが思い浮かぶものだ。ちょっと錯乱してるのかもしれない。そう思ったときには、凪の腕は虫取り網を振り回していた。
…ちょっと待って。
なんで急に虫取り網が出てきたの?
それよりなにより、この手はなに?
私の両手は頭を押さえているのに!
恐る恐る凪が自分の身体を見下ろすと、そこには確かに虫取り網を握りしめた両手がもう1組あった。
「あ、星が大漁だ…」
虫取り網いっぱいの煌めきを見つめながら、凪は考えることを放棄した。
次回は居場所が明らかに!
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