王城散歩"オルバ商会"
フウタ・ポモドーロ。
律国満願州出身。
相手の技術を模倣し、上回る孤高の戦士。
第一回武闘大会優勝者。
――スペクタクラ・オン・ザ・ミッドウェイ第1回――
――パスタのおうち。
「……えーっと、つまりどういうことだ?」
「新聞社に対抗ってわけじゃないけど、スペクタクラの闘剣士にフォーカスした記事でも作ろうかって話が持ち上がったのよ」
ソファでランディを投げては掴み、投げては掴みを繰り返していたフウタが何の気なしに問えば、ベッドに転がって素足をぱたつかせていたパスタがそう答えた。
なんだか日に日に商会のトップとしての威厳が薄れ、フウタもこの部屋に対して馴染み始めている気がしたがそこはそれ。
せっかく可愛らしい爽季用のワンピースなのだから、ベッドで皺を作るのもいかがなものかと思うフウタだが――そこはそれ様々な事情があるのだと、彼が知る由もない。
単純な話だ。可愛い服を身に着けたはいいが、彼を相手に張り切り過ぎてめかし込んだと思われるのも癪だという。
それだけの話である。
さておき。
「ふーん……?」
「だからぁ」
うつ伏せで抱きかかえていた枕から、埋めていた顔を横にしてフウタを見やる。
面倒臭そうなその表情は、どこか羞恥も混ざっているように見えて、フウタは首を傾げた。
またパスタちゃん案件なのか? とのその疑問は、すぐさま的中することになる。
「とりあえず第一回チャンピオンを取材して、第二回の宣伝に撒こうって話。もちろんあんただけじゃなくて、他の闘剣士もやるけど」
「なるほど……効果がいまいちわからないんだけど、どういう質問をするんだ?」
「ただのパーソナリティの掘り下げ。でも、闘剣士がどういう生き方をしてきて、どうして優勝したいのか、その気持ちを知ることが出来たら盛り上がるでしょ。そういうこと」
「あー……ロジックは解説兄貴と同じなのか」
「むしろその上位互換? まあ、文字読めるヤツに限るけど」
「結構多いだろ、王国は」
「まあ、そうね。文字も他国に比べたら簡単だし」
解説兄貴の存在。
それは第一回武闘大会で如何にフウタを皆の好きな選手に育てあげるかという命題を前にパスタが完成させた手段だった。
得意な読み取りの技術を元に、観客にとっての闘剣を一段階さらに楽しいものへと引き上げる存在として、彼は1つの立場を得た。
入場前の選手紹介とも似たようなことが言えるだろう。
この闘剣士が、どういう強さとバトルスタイルを持っているのかという目で得られる情報以外に。
親しく話すことも無いであろう、隔絶された客席とフィールドでありながら。友人かのように相手を感じられるからこそ、応援というのもしやすくなる。
だからそれをさらにもう一歩踏み込んでみよう。
なるほど理解の出来る企画であり、フウタとしても否定する理由はない。
気になるところがあるとすれば。
「なんだってそんな不満げなんだ」
「………………まぁ、うん」
「お前がそんな顔するのってだいたいパスタちゃん案件じゃねえか」
「パスタちゃん案件よこれも」
「俺の取材では?????」
雲行きが怪しくなってきた、と眉をひそめるフウタに対し、ベッドをころりと一回転するパスタ。
「元々パスタちゃん部門のトップが、『パスタちゃんのパーソナリティを公開しましょう!! スリーサイズとか!!!!』とかほざきやがったのが最初よ」
「そこから生まれた企画なのかよこれ」
「とりあえずその馬鹿は天日干しにしておいたけど、会議で意外と話がもつれた」
「もつれてたまるか」
「……言いたいことは分かるのよ。要は新聞を私物化するっていうブレイクスルーが生まれたわけで。その発想自体は悪いもんじゃないからこの……」
「有能って、罪だな」
「ほんとにね。うん、なんか何気に真理な気がするわそれ」
はぁ、と小さくため息を吐くパスタちゃん。
9歳児の背中から漂っていい哀愁ではないなと思ったフウタだが、それは流石に口には出さないでおいた。
今度美味しいカップケーキでも買ってきてあげようと、心に決めるのだった。
そのカップケーキ買いに行っている姿が目撃され、メディアの前やスペクタクラでは不愛想なお兄ちゃんが妹のためにうんぬんかんぬんと話題になって大変なことになるのはまた別の話。
「なんとか、スペクタクラのメインはパスタちゃんではなく闘剣であるって話に持ってって、闘剣士それぞれのパーソナルに突っ込んだネタなら今後に活きるってことでこの企画よ」
「新聞を私物化するってのは?」
「オルバ商会では新聞扱ったりしてないのよ。情報1つ売るにも国の許可を得る必要があるし、そもそも情報をそのまま売るより元手に計算して流行るもん売った方が得。それが今までの当たり前。ただ」
「ただ?」
「"闘剣士"にフォーカスした、カジュアルな新聞なら? ちらしみたいな勢いで撒けるものなら? ――それはスクロールの代金なんて一瞬で回収できる、商会の自由な情報ツールになる」
新聞と銘打つならば、王都や王国で起きた物事をそれなりのペースで刊行し続ける必要が"あった"。正確には、そういうものだと思い込んでいた。
ネックは多く、国や貴族の不利益になることは書けない。検閲も入るし、儲けも少なかった。
だが、国の許可を必要としない情報だけを取り扱うならどうだろうか。
今まではそんなことをしてもどこにも需要は無かったが、今は誰もが興味を持つ"スペクタクラ"という存在がある。
ここにフォーカスした専門誌を作ってしまえば、商機はある。
それを、パスタちゃん部門のトップが図らずも見つけてしまった形であった。
「なるほどなあ……それで、この。なんだっけ」
「スペクタクラ・オン・ザ・ミッドウェイ」
「で、闘剣士の掘り下げをやる、と」
「そういうことよ」
「すげえこと考えるなぁ」
話の内容は、説明さえされれば理解はできる。
だがそのパスタちゃん部門から出た突拍子もない意見から、この結論に至る会議そのものがフウタからすれば別次元だ。
アホな意見も言える。
その上で本質を読み取る。
いかに発案者が天日干しにされようと、十分に意義のある時間だ。
それを作りだしているのは、1人1人の幹部と、そして。
「ハンドリングが面倒ったらありゃしないわ」
呑気にそこで転がっている、このボスなのだろう。
「で、その取材はいつやるんだ?」
「…………」
ボスのぶすっとした表情。嫌そうな視線がフウタに突き刺さり、彼は首を傾げた。
別に、不興を買うようなことは言っていないはず。
口元を枕に埋めて、彼女は言った。
「今よ」
「え、今? お前と?」
「他のヤツに任せて変なこと言われても困るし」
「……まぁ、別に良いけど。メモもしないで憶えてられるのか?」
「あんたとは頭の出来が違うのよ」
「あー……そう……」
それならそれで構わない。パスタなら悪いようにはしない――というより、それこそきちんとハンドリングして記事にしてくれるはずだ。
だからこそ彼女の不愉快の原因が分からなかったのだが……その理由は、彼女の一言目で察した。
「……ぅ」
「なんだよ、そんな躊躇うのかしょっぱなから」
「………………」
目を逸らして。くりんと転がって背を向けて。
また戻ってきて。
フウタとは全く関係ない方角の壁を睨みつけながら、彼女は言った。
「……フウタ選手にとって、妹さんの存在はどんなものですか」
「………………は?」
「仕方ないでしょ!!!!」
パスタが跳ねた。
勢いよくベッドに座ると、ばんばん布団を叩きながら叫ぶ。
「闘剣士それぞれ差別化!! あんたの個性はその模倣とチャンピオンと――あとパスタちゃんのお兄ちゃん!!!!!」
「……王都のみんなが聞きたいのはそこだと」
「そーよ!! うがあああああああ!!」
「じゃあもう他の人に頼めばよかったんじゃ」
「他のヤツに頼んであんたが変なボロ出したり余計なこと言ったりするの防ぐためにあたしが直々にやってんでしょうが!!!」
「…………おつかれ」
「ほんとよ!!!!!!!!!!」
なんのかんの言って、ボスではありこそすれ彼女はもうオルバ商会の人間ではない――ということになっている。
ならその彼女がわざわざフウタに、という時点でイレギュラーな事態なのは分かり切っていたこと。
随分と大変な役回りだと眉を下げながら、フウタは考えた。
「――共犯者、ですかね」
その呟くような言葉に、温まっていたパスタが顔を上げる。
苛立ち半分、冷静になろうとしている理性半分。
そんな彼女の表情は、今までにも何度となく見てきた。
「公国のコロッセオでの頑張りは……うん、1人で必死だった。誰の為かって言われると、俺1人の為ではなかったけど。でも、やっぱり戦っているのは1人だった」
"無職"でも戦えるのだと。それを、同じ"無職"や、"無職"だったヤツに示したい。
その一心で頑張っていた。けれど、それはやはり孤独の闘いだった。
自分から誰かを頼ったわけではない。もしかすると、"救ってくれる存在"は居たかもしれない。しかしフウタはそれを拒んだのだ。救われて仕舞いなら、頑張った意味なんてどこにもないと。
それで追い出されて――王都に来て。
どこにも行けずに死ぬところを、本当の意味で救われた。
自分にも居場所があるのだと、そう思えた。
――チャンピオンになってみたいんです。
その願いを、まさか本当に実現しようとするとは、思っていなかったけれど。
――八つ目の海を征するよりは、楽勝だよ。
その願いを、また叶えて貰うためにも。
自分が守る王座は、素晴らしいものにしたかった。
そのフウタの願いを――形にしてくれたのが目の前の彼女だ。
「公国では限界を感じてた。どうすることも出来なくて――そのまま散った。スペクタクラでこうして王者になれたのは、他でもないパスタのおかげだ」
「……」
「頭の回らない俺の代わりに、本当に色々と頑張ってくれて。身体も張って。だから、こいつの頑張りに応えなきゃって気持ちが、俺の背中を押してくれた。だから、こいつは」
目を丸くした、呆けたような顔の彼女に向けて言う。
「俺が王座を奪ったと言われるなら、それはきっとこいつと一緒に奪ったもの。だから、共犯者だ」
「……」
ふぅ、と息を吐く彼女。力なくベッドに倒れて、枕にもう一度顔を埋めた。
「だめね」
「ダメか……」
「うん、ダメ。素直すぎてヒールっぽくないし……パスタちゃんは賢いけど賢しいわけじゃない」
「あー……確かにお前のプロデュースも考えないといけなかったか。すまん」
そう、頭を掻くフウタはやはり取材というものを分かっていなかった。
自分の想うところを素直に告げた。だからこそ、他の人間に聞かせてしまえばボロが出るというものだ。
自分が聞いて正解だった、とパスタは思う。
「この質問については……そうね」
ふ、と口角を緩めて。
彼女は笑う。
「"かわいい妹"って、伝えておくわ」
その答えは、誰に伝える必要もない。
某プロレス団体のオンザロードがめっちゃ好き。





