39 ほんせん だいにしあい かいし!
――その日の朝。パスタのおうち。
「は~あ……」
気持ちがいいくらいの桜季の陽気。
今日もメイドはへくちへくち。
玄関の大きな両開きの扉を開けば、眩しいくらいに差し込む朝の陽射し。
腰に差すは、父の形見でもある刀。今日は本選1回戦。
だというのに、彼女の心は天気とは裏腹に、いまいちな曇り空だった。
一歩を踏み出し、扉が閉まる音を背に。
バルコニー下の庇を出て、桜季空の陽光の中に旅立てば、身体を包む温かで麗らかな日和。
門までのそこそこ長い道、鼻腔をくすぐる花蜜の香りは、左右に整備された花壇からだ。
春に芽吹く花は綺麗というより可愛らしいものが多く、彼女は地味にこの通り道を気に入っている。
小鳥たちのために用意された水飲み場では、ぴーぴーと楽しそうに水浴びをする彼らの歌声も聞こえてきて、思わず口角が緩んだ。
なのにどこか困ったような表情に見えるのは、晴れない気分に下がった眉が原因で。
「せっかく、人が本選出場決めたってのになー」
あの偽兄妹の間で何かがあったのは分かった。
自分は所詮外様の用心棒に過ぎないし、所詮は一時の雇われだ。
もしも彼らに拾われなければ、今頃はこんな豪勢な屋敷からスペクタクラに向かうことは出来ず、1人寂しく路上で暮らしているか――否、1回戦が終わった時点で、すごすごと村へ帰っていたことだろう。
誇りの刀の代わりに、みっともない見栄だけを握りしめて。
だから感謝はしている。
この屋敷で、この王都で起きた出来事は、自分に大きな成長の時間をくれた。
文句を言うのは筋違いだ。
そう弁えることができるようになったことすら、彼らのおかげ。
しかし、であるからこそ余計に。
「我儘なんだろうけどさ」
せっかく縁を結んで、こうして本選まで出場をこぎつけたのだ。
少しくらい賞賛してくれてもいいじゃないかと思うのは、子供の拗ねた心だろうか?
リーフィはそう思ってしまったからこそ、こうして何も言わずに外へ出たのだが、収まりきらない感情はこうして口から漏れ出てしまっていた。
「――リーフィ」
だから、背に掛けられた声は意外だった。
あのメンバーの中でも、一番自分に声を掛けそうにない、背筋が伸びるようなきつく高い声。
振り向けば、花壇の手入れをしているのか、しゃがみこんで殆ど影も見えない庭園の中。ぴょこんと飛び出した赤のピッグテールが辛うじて垣間見えた。
「ん?」
「せいぜい頑張りなさい。それなりに見届けてあげるわ」
顔を上げることすらせず。
まるで独り言のような声はしかし、はっきりとリーフィの耳に届いた。
応援する、とは言ってくれない辺りがやはり厳しい少女ではあるものの。
へへ、とリーフィは鼻の下を擦って。
『はっきり言ってあげるわよ。あんたが、その立派な刀に釣り合わない愚物だっつってんのよ』
『お前みたいにぬくぬく育った貴族に、おれの気持ちなんか分からねえよ!!』
思い返せば、
『はっ。二度目のチャンスがあるだけ甘いのよ。……って、これはあたしも同じね』
一番リーフィの成長に寄与したのは、この少女なのだろう。
自分がどう思われても構わないとでも言いたげなあの辛辣な振る舞いからの、これだ。
見届けてあげる。
随分と上からものを言ってくれる。これすら結局、つっけんどんに突き放す物言いに他ならないのだろう。
けれど、不思議と嫌な気持ちではなかった。
それは自分が一方的に恩を受けているという気持ちがあるからか、それとも。
「おう。……おれは、負けねーよ」
「そ」
そう宣言して、笑ってみせる。
彼女の蒼い双眸が、花壇の花越しにちらりと見えた気がした。
だからそっと刀に手をやって、彼女に背を向ける。
目を細めて、空を仰げば気持ちのいい快晴。
「ああ、いい天気だぜ!!」
満開の笑顔と共に、スペクタクラへ向けて駆け出した。
――闘技場スペクタクラ。
『さてお兄ちゃん! 休憩はこのくらいにして、次の試合に行こうと思うんだけど……その前に、一回さっきの試合の話がしたいな!』
『ん? ああ、いいぞ』
第一試合を終えて、少しの間が空いた。
休憩時間と告知されたそのタイミングで、観客たちはめいめい自由に飲み物を買ったりトイレに行ったり。
パスタの提案で、トイレの利用料金は割高になっている。飲み物を買うと割引されるという仕組みは、中々にあくどい発想だった。
それはさておき、もちろん休み時間は観客の為だけのものではない。
フウタやパスタが一息つく他、めちゃくちゃにされたバトルフィールドの整備も必須だ。
そうしてようやく準備が整いつつある段階で、メイドさんがフウタの後ろにやってきて踊り始めたので、「真面目に連絡して」と半ギレした見た目童女により興行再開と相成った。
ちなみにダンスは可愛らしいそれではなく、両手をだらりと下げてステップを踏む、南の方の格闘術じみたそれであった。どこで覚えたのやら。
『第一試合に間に合わなかった人も居るだろうから――』
パスタが休憩時間中に纏めた試合の詳細は、フウタも確認して多少の修正を加え、どんな人にも伝わるように要点を詰めたものだった。
『それで、アイルーン・B・スマイルズの勝利になりました。お兄ちゃん、どうだった?』
『凄い試合だったことは間違いないな』
この場でレフェリーを責めるようなことはしない。
だがフウタは、この休憩時間の間に席を外し、関係者の控室へと足を運んでいた。
試合の最後にプリムが一瞬止まったのは、完全に勝負が決まったからであったこと。
審判たるもの、選手の中央を必ずキープし、目を離さないこと。
動きの速い試合であったから大変だとは思うが、それが審判の仕事であること。
強くは言わなかった。御前試合の経験がある者たちだということであったし、フウタは所詮、ライラックの客人でしかない。
要らぬ齟齬を生む必要はないから、本当は差しさわりの無いことだけを言うつもりであった。
だが――レフェリーたちは、いやに素直に頷いたのだ。
まるで、落ち度を指摘されるのが今日2回目であるかのような。
関係者控室に足を運べる人間で、レフェリーの落ち度に気付くような人物。
邪推する必要はないからと、フウタは一度リーフィの控室にだけ足を運び、そしてこの場所に戻ってきた。
『――双方互角の試合であったことは、見ていた人には十分すぎるほど伝わったと思う。次はどうなるか、俺にも分からない』
『お兄ちゃんにも分からないんじゃ、楽しみだとしか言えないね!』
ただ、とフウタは目を閉じる。
この席からはバトルフィールドがよく見える。そうでなくともフウタの目はかなり良い。
だから見えた。そして、思った。
プリムがあんな風に涙を見せたことなんて、今まで一度も見たことが無かった、と。
彼女があの試合に、実際にどんな意気込みで挑んだのかは分からない。
ただ。
――リヒターくんに限った話じゃないけど。でも私は、闘剣を楽しむ人たちには、みんな楽しんで欲しいって思うんだ。
――きっと私が闘剣士だからだよ。
――だから私の試合も、みんなに楽しんで欲しいし、リヒターくんの試合も盛り上がってほしい。解説兄貴、期待してるよ!
そう笑っていた少女の想いは、あの試合で果たせたと言えるだろうか。
言えない。そんなこと、フウタだって分かる。
この闘技場スペクタクラに懸けていた彼女の想いを汲めばこそ。
涙を見せた彼女が心配になるのは、決してフウタがお節介なわけではないはずだ。
『じゃあみんなー!! 第二試合、始まるよー!!』
童女のあどけない声色。
よくもまあここまで擬態できるものだという感心はおいて、フウタも頷きフィールドへと目をやった。
同時、はちきれんばかりの歓声が沸き起こる。
先ほどの試合の結果が、観客にどう見えていたかは分からない。
確かにプリムを不憫に思う者もいただろう。
だが、闘剣とは誰かの強さが実り、誰かの弱さが露呈する。そういうものだ。
1人に入れ込み過ぎている"ファン"ならともかく、純粋に闘剣を楽しみに来ている者たちにとっては、そう引きずる出来事でもないのだろう。
プリムの涙とて……遠くからはそうは見えない。
ただ、この先"アイルーン・B・スマイルズ"の試合だけは、他とは別種の緊張感がスペクタクラを満たすことだろうが――それもまた闘剣だ。
フウタ自身も切り替えて、次の試合へと目をやった。
第二試合。
対戦カードはフィールド上に表示されている通り。
リヒター・L・クリンブルーム VS リーフィ・リーングライド
こちらも第一試合と同様か、或いはそれ以上に知名度のあるカード。
だからこそ、観客も大盛り上がりだ。
隣のパスタがちらりとフウタを見やる。
準備はいいかと言いたげな視線に頷くと、彼女は魔導器に手を翳して一息。手元に用意したスクロールをちらりと一瞥して、声を上げる。
『それでは、選手の入場です!! まずは――予選通過者、リーフィ・リーングライド!!』
第一試合同様に、大きく左側の入場門に白い煙が吹きあがった。
爆ぜるような音は門の両サイド。注目を浴びるに十分すぎるその大きな爆発音に、観客たちは声を上げて彼女の名を呼ぶ。
リーフィ、と。
『予選での存在感は、アイルーンの戦いとはまた違った意味で記憶に残ったことでしょう!! 2回戦でのイズナ・シシエンザン相手の戦い、そして3回戦での双剣士アロウズとの戦い! 想い出せ、予選であたしたちの心に熱を灯した戦いは、全て彼女の試合であると!!!』
白い煙の中から、ば、と煩わし気に振り払う手。ついで、鋭い顔つきの少女が現れる。
同時、さらに歓声が吹き荒れる。
大人気だ、とフウタは少し驚きに目を見張った。
『見た目は可愛らしくお転婆な少女の風貌。しかしそのキャップを被った少年のような雰囲気から抜き放たれる刀は、まさに達人の刃。彼女の持つ独特の剣技は予選でも強い存在感を発揮した無二の太刀筋!』
声援が聞こえているのかいないのか。
リーフィは、無理に胸を張ることもなく、かといって縮こまることもなく、酷く自然体でフィールドへと歩みを進める。
散歩もかくやという彼女はなるほど、緊張とは既に無縁らしい。
予選を3回繰り返した彼女にとってはもしかしたら、既にこの場所はホームグラウンドになっているのかもしれない。
幼くしてその度胸は、なるほど本選出場者の名に相応しいものだった。
だがそれにしてもフウタが驚くのは、彼女の風体ではなく。
アイルーン・B・スマイルズと同等かそれ以上の、観客の歓声だった。
『――闘技場スペクタクラでは、予選の頃から行われた試合について、観客のみんなの意見を募っています』
だからこそ、突然呟かれたパスタの言葉にフウタも振り向く。
観客たちも、なんのこっちゃと疑問に思う者も多かった。
『予選1回戦の頃は、世界が彼女を知らなかった。リーフィ・リーングライドの名が上がることはなく、刀を使う少女に言及する内容すら1つも無かった』
それはそうだろう、とフウタは思う。事前に知っていた己ですら、彼女の闘剣どころか、刀を抜いたところすら見ていないのだ。
だが観客にとっては違う。存在感を示す前のことなど、彼らは知らない。言われてみれば予選1回戦はどこに居たのだろう。
そんな気持ちが、彼らの大半を占める。
『イズナ・シシエンザン。アイルーン・B・スマイルズ。その名に埋もれていた少女の名前はしかし、2回戦で花を開かせました』
観客の多くが覚えている。
イズナとの戦いを。アロウズと共闘しての、あの大一番を。
『続く3回戦。誰よりも闘技場の熱をもっていったのは、リーフィ・リーングライドその人です。ああ、もう少し分かりやすく言おっか』
努めて軽い口調。
しかし、テンポが変わったからこそ、観衆の耳は彼女に向く。
『――闘技場スペクタクラに寄せられた意見。その中で最も多く名前が挙がったのは、イズナ・シシエンザンでもアイルーン・B・スマイルズでもない。リーフィ・リーングライドの闘剣だ! あいつこそが、今の闘技場一番人気の闘剣士だ!!』
本当か!? とフウタが振り向くよりも先に、爆発的な声量で闘技場を揺らす、観客たちのリーフィへの想い。
『面白いと、楽しいと、熱くなれたと、色んな意見を貰いました。パスタちゃん可愛いっていうのもありました。嬉しいっ。――でも、一番は彼女の試合を見られて良かったというもの。これは、あと3試合するまで帰して貰えないぞ、リーフィ・リーングライド!!』
バトルフィールドに足を踏み入れたリーフィは、何の気なしに闘技場の全てを見渡した。観客席から自分を見る、目。目。目。
「なんだ。王都来るまでに妄想してたより、ずっと……良い景色だ」
にへらと笑うは"闘剣士"。
軽く手を振り、刀を構えるは"枝垂れ桜"。軽く振り抜き、掲げるその仕草はどうしてか。初めて行うはずなのに、人々を魅了する剣の技。
リーフィ・リーングライドは、スペクタクラの闘剣士だ。
『――ですが』
リーフィがバトルフィールドの中央で刀を納め、準備を整えたと同時。
パスタは切り替えるようにそう言った。
『3試合するまで帰して貰えない。きっと、闘技場のみんながリーフィの次の試合を見たいと熱望していることでしょう。あたしも、その1人です。でも、見てる皆と、あたしと、それからリーフィを足してそう主張しても、たった1人によって覆されるのも、それもまた闘剣です』
瞬間、右手の門が爆ぜる。
もうもうと立ち込める白い煙。
映るシルエットに、リーフィに向けるような声援ではなく、どよめき、あるいはざわめきが場を満たす。
『王国に住まう人であれば、クリンブルームの名を聞いたことがない、などということはあり得ません。王都であれば猶更です。王国四家にあげられる名家であり、唯一王家と血縁がないまま、友誼でもってこの国に仕えてきた家。しかしこう言った方が、知っている人も多いでしょう。先の戦争において最もその武名を上げながら、終結間際に戦死を遂げた英雄ランダー・クリンブルーム様の家であると』
煙の中から現れるは、1人の青年。
『リヒター・L・クリンブルーム。登録されている選手として、平等に扱えとのご指示が出ていますので、ここでは選手として扱わせていただきますが……ランダー様の後を継ぐ彼もまた、並み居る武人をなぎ倒す生粋の剣士でありました』
片手には鞘を持たぬ武骨な剣、グラディウス。
『しかし最早戦争とは無縁の時代の到来。彼は武よりも、国に尽くす為の別の力を求めました。その結果が、財務卿リヒター・L・クリンブルームであることは、王都に住む人であればご存知のはず。その手腕は、こうしてスペクタクラという場に皆を集め、この催しを支えていることからも明らか』
一般の観客たちは、リヒター・L・クリンブルームにどう声を掛けたものか、どう声援を向けたものかと、困る部分もあったのだろう。
ざわざわと、先の熱とは別種の騒音の中――しかし優待席付近は違った。
「卿ーーーー!!!! クリンブルーム卿ーーーーーーー!!!」
「リヒター様ああああ!! やってしまってください!!!」
「り・ひ・たー! り・ひ・たー!!!」
先ほどまで静かに試合を観戦し、「なるほど闘剣とはこういうものなのですなふむ」などと紅茶を片手に言葉を交わしていた連中が総立ちである。
「貴様ら!! もっとリヒター様に声援を送れ!!」
「ふふふ、私は一般席に複数席を買い、鼓笛隊を用意いたしました。ご覧ください」
「私も当然、付近の席を手配しました。見なさい、あの雄々しいクリンブルーム家の紋章を掲げる一角を」
どんどんどん、と戦陣の太鼓が鳴り響く。
熱烈なコールは伝播して、一般席にも徐々に波及していく。
そうしてしまえば、あとは数だ。
どれだけ声を上げても、50000人全員を不敬罪にすることなど出来まいとばかりに大きなリヒターコールが観客を包んだ。
――彼に恩がある人間は、決して貴族だけではない。
だが、そういったものは総じて、彼に声をかけることなどできるはずもなかった。立場も違えば、会えることもない。
であればこそ。観客たちの声には自然と熱が入る。
『元々、出場する気すら無かったと、彼は言います』
その言葉に、スペクタクラが一段音のトーンを下げる。
『闘技場さえ順風満帆に回ればそれでいい。自分はこれからも仕事を全うしよう。しかし、そんな彼を説得したのが、プリム・ランカスタでした。貴方の腕があれば、決して武闘大会で優勝することも夢ではないはずだ。なのに、出場を断念するとは、勿体ないと』
なんという美談だろうか。
耳を傾ける観衆に、ことさら感情をこめてパスタは続ける。
『類稀な武人でもあるリヒターは、決してその剣を振るおうとはしなかった。それは、自らの剣が戦いの剣であり、闘剣のそれではないと分かっていたからでしょう』
忙しいからだとは、誰も思うまい。
『ですが、リヒターの周りに居る、彼を思う人々の作った花道が、このスペクタクラに通じていました。それは、彼がここに立ってしまえばあとは優勝するのみ。皆がそう信じている証拠でもあります』
貴族だから、平民だから。
その垣根を超えた、パスタの語るエピソード。
平民であっても分かる。惜しい人を舞台に送るため、努力する影の者たちが居るのだと。
『しかしそれでもリヒターは、難色を示したままでした。武人として皆が競う中に、貴族などが入っても遠慮するだけだろうと。ましてや、八百長を疑われるだけだろうと。確かに、クリンブルーム家は高名な家。その当主たる彼に刃を向けることを躊躇う武人の姿は、想像できます。ですが、風向きが変わったのは、入場の直前でした。彼はあたしに、言いました』
パスタの語る言葉の全てに、理解が出来る。納得がいく。
なるほど確かにリヒターならば、そう人々を想うだろう。
だが、風向きが変わったとの一言に皆が耳をそばだてる。
『たった一言』
息を吸い、告げる。
『負ける理由がなくなった、と!!』
おおおおおおおお、と盛り上がるスペクタクラに畳みかける。
『――彼をここに導いたのは、護衛でもあったプリム・ランカスタでした。その彼女が涙の敗退をした今、彼女の望む"楽しい闘剣"を、代わりに皆に魅せつけてやらねばならないと!!』
脚色凄いな、とリヒターは半眼で実況席を睨む。
だがパスタは気にしない。
『人を真に想う武人であればこそ、人の為に剣を振るう。――ご安心ください、みなみなさま! どちらが勝っても、きっとあたしたちに夢を見せ続けてくれることでしょう!!』
吹き荒れる歓声は地鳴りの如く。
そんな中、ふう、とリヒターは息を吐いた。
「あんなことを言っているが、気にするな。試合に集中しろ」
視線の先には、刀の柄に手をかけたリーフィ。
「気にしねーよ。おれだって、負けられない」
「そうか」
レフェリーが構える。
盛り上がりに盛り上がる歓声の中。
『本選、第二試合。リヒター・L・クリンブルーム対リーフィ・リーングライド!! 試合開始!!』
刀を構える少女が言う。
「桜花一刀流次期師範、リーフィ・リーングライド――行くぜ!!」
剣を軽く振るって、青年が告げる。
「ランダー流決闘術免許皆伝、リヒター・L・クリンブルーム。……ただ」
リーフィが構えると同時。
「気にするな、とは言ったが」
一瞬で姿の掻き消えたリヒターが、勢いよく"枝垂れ桜"をかち上げた。
「あの腹立つ実況の言っていることは――全て事実だ」
リーフィが驚愕に目を見開く中、第二試合が始まった。





