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バンドー  作者: シサマ
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第58話 ワン・ネイション・レジスタンス


 6月29日・13:00


 フェリックス社の社長婦人、ナシャーラが教祖を務める新興宗教団体『PRIDE(プライド) OF(オブ) BLOODLINES(ブラッドラインズ)』(以下『POB』)。

 この教団は、ギリシャやスペインなど、ヨーロッパで治安が悪化している地域を中心に信者を獲得し、現在では南米やアジアに至るまでその規模を拡大していた。

 

 

 2045年の大災害後、自然との共存と無駄な開発の削減を至上命題に掲げた統一世界(アース・ワン・ネイション)は、国土の広さに加えて天然資源や兵器などの被害が少なかった事から、暫定的にロシアに拠点が置かれた。

 しかし、ロシアに対抗していたアメリカ合衆国が災害により消滅し、日本や朝鮮も消滅した事で、ロシアの下請け的役割を担っていた中国の権限が増大する。

 

 その結果、ロシア主導の統治は50年間維持され、表向きの平和とは裏腹にテロや犯罪は増加の一途を辿っている。

 そして近年、遂に下請けの立場に耐えられなくなった中国が、反ロシア派の勢力にも力を貸し始めていた。

 


 新興宗教団体『POB』は、統一世界以前にあった各民族の誇りを取り戻し、生まれ故郷の発展に尽くす事を建前上の教義としているものの、真の目的は武力公使も辞さない『ワン・ネイション・レジスタンス』を育成する事。

 その為には、旧アメリカ財閥の末裔と強固な同盟を組んでいるイスラエルの巨大企業である『フェリックス社』が、軍隊や警察に次ぐ勢力を誇る『賞金稼ぎ』の育成機関を掌握し、同時にマフィアやテロリストにも投資する事で、軍隊や警察の武器を収集しなければならない。


 『POB 』と『フェリックス社』の大いなる野望が、今、ここアテネでその正体を現そうとしていたのだ。



 「アテネの信者様は、その熱さ、忠実さともに、世界一の信者様です。本日、私達は重大な使命と決意を持ってこの場所に参りました。いよいよ、戦いの時が近づいているのです!」


 アテネの教堂には溢れんばかりの信者が詰めかけており、ナシャーラは普段にも増して信者を煽動。

 その傍らには、パサレラを病院へ送り出したばかりのメナハムも駆けつけ、SPとともに教祖である母親の警護を担当している。


 「つい昨日、ここアテネで囚人を移送する警察がテロリストの妨害を受けました。更に、テロリストと手を組んだ汚職警官が、警察上層部の要請を受け、かつての仲間達を殲滅させようとしたのです! こんな悪徳を栄えさせてはなりません!」


 ナシャーラのスピーチはいきなり信者達の度肝を抜き、驚愕の余り静まり返る教堂を横目に、彼女は更に言葉を続けた。


 「……そこで悪徳を滅ぼしたのは、心あるまっとうな警察官と、私の夫が経営するフェリックス社が育成してきた賞金稼ぎ達でした。この映像は、まっとうな警察官に協力した勇気ある信者様が命を懸けて撮影したものです。ご覧下さい!」


 フェリックス社が警察上層部とテロリストを利用して自らの野望の実現を目指している、そんな背景など信者達は当然知る由もない。

 そして、フェリックス社の顧問弁護士、アシューレの撮影した映像は、彼自身がテロリストと接触していたカットは巧みに編集され、削除されている。


 信者達の目に映る光景全てが、統一世界の下で腐敗を極めた権力への怒りと、それに対抗する最大の勢力がフェリックス社であると刷り込む事を目的とした、まさにプロパガンダなのだ。


 「……なんて事だ! アテネの警察は役立たずだと思ってはいたが、まさかこれ程とは……!」


 「ギリシャ全体が苦しい中で、私達の税金がこんな事に使われているの!? この世界はもう限界だわ!」


 映像が終了する頃には、信者達の胸に警察組織への、いや、統一世界そのものへの不満が満ち溢れている様子が明らかに窺える。

 ナシャーラとメナハムは互いに顔を見合わせ、満足気な笑みを浮かべていた。


 「……皆様、如何でしたか? この映像の後、囚人はスペインに移送されましたが、そもそもギリシャの悪党をギリシャで裁く事が出来ない程に権力が腐敗し、公的な機関が疲弊しているのであれば、これから世界の悪党がギリシャに集結してしまうのではないでしょうか!?」


 殊更に危機感を煽るナシャーラ。

 これは勿論、信者達の不満と怒りが爆発寸前である事を確信しているからこそである。


 「しかも、今回の最大の責任者であるアテネ警察の署長とアテネの議員達は、責任の所在すら明かさずに平然と業務に戻ろうとしているのです! もはや文書や電話の抗議に効果はありません! 皆様の行動で、ギリシャに巣食う真の悪党を追い出そうではありませんか!」


 「おう! 俺達は誇り高きギリシャ人なんだ! 統一世界の腐ったルールを打ち破る、革命の急先鋒になってやろうじゃないか!」


 神秘的な美貌を歪ませる事すら厭わない、ナシャーラの熱いスピーチに呼応したのは、ギリシャ全土の財政難で仕事にすらありつけず、エネルギーの有り余った若い男性。

 

 貧困と閉塞感は、歪んだナショナリズムを増大させる。

 この歴史の法則に学んだ『POB』の狡猾な戦略が、ここギリシャで遂に確かな効果を上げたのだ。



 6月29日・16:00


 「こんな時間まで付き合ってくれてありがとう。今回の収穫は社員2名だけだったが、久しぶりに筋肉痛になるくらい戦ったよ!」


 ようやく朝からの肌寒さが緩和したアテネの西陽を背中に受け、新入社員のテストを終えたスコット。

 バンドー、ハインツ、ミューゼルとのスパーリングにも応じた彼は今、心地よい疲労感に満たされている。

 

 3人相手のスパーリングはスコットのペース配分もあり、フクちゃんはハインツ VS スコットの勝負はハインツの辛勝と判定。

 しかしながら彼女は、ミューゼル VS スコットの勝負はスコットの勝利、バンドー VS スコットに至ってはスコットの圧勝と、敢えて身内に厳しめの判定を下していた。


 「流石はレジェンド剣士、あんたが万全のコンディションで本気だったら、俺は負けていたかも知れねえ。わざわざ相手をしてくれて感謝するよ!」


 人格者でもあるスコットをハインツは素直にリスペクトし、その隣で憧れの剣士と戦えたミューゼルは、惜敗したにも関わらず感激の余り放心状態になっている。


 「……バンドー君は、元来格闘技が専門で、魔法も少し使えると聞いていたよ。だが、それらに頼ってきたのか、まだまだ剣は力任せな感が抜けていないな。出足の速さには驚いたが、今のままでは、剣士ルールでトップ40ランカーには勝てないだろう。私はこれからもヨーロッパを回って社員をスカウトするつもりだから、今度会った時には、君を少し鍛えたいものだね」


 「……えっ!? いいんですか!?」


 そのキャラクター故か、何かと幸運に恵まれるバンドーは、早くもスコットとの再会を心待ちに色めき立つ。

 しかし、多忙なスコットが敢えてバンドーを鍛えたいと望む背景には、実績あるチームのリーダーとしてのバンドーが、剣士としてこのままではいけないという危機感があるに違いない。


 剣術や格闘技で、あれだけの実力を誇るハインツやシルバにも、魔法の適性はなかった。

 

 リンの魔法は既に世界トップレベルだが、彼女に剣を使いこなせるだけの体力はない。

 

 クレアは剣と魔法が使えるものの、魔力の放出口が利き手にあるが故、同時に両立する事は難しい。


 バンドーは、チーム内でただひとり剣と格闘技と魔法を同時に使いこなす事が出来るが、剣を握ってまだ3ヶ月。

 剣士としての未熟さは否めないものの、裏を返せば総合力でトップレベルの賞金稼ぎになれる伸びしろをまだ残している。


 かつて剣術を極めたスコットにとって、自分が胸を貸した人間をそこそこのレベルで終わらせる事は、己のプライド的にも許されないのだ。



 「……さて、そろそろ帰らなきゃな。バンドー、チームリーダーとしてこれからどうする?」


 ハインツは何やら意味ありげな笑みを浮かべ、自覚を促す様にバンドーへ今後の身の振り方を問いかける。


 「何だよ改まって……。まあ、やっぱりこうして俺の実力を思い知らされると、少し剣にこだわって仕事しなきゃなって思うよ。ギリシャに残っていてもテロリストに狙われるだろうし、まずはアルクマールでクレア達と合流しよう! レディーさん達なら、オランダの仕事もすぐ探せるはずだから!」


 「よし、そう来なくちゃ! スコット、世話になったよ、ありがとな!」


 力強く自身のレベルアップを誓うバンドーに気を良くしたハインツは、伝説の剣士にひとときの別れを告げ、パーティーを先導しながらアテネ空港へと歩みを進めた。



 「……皆さん、あれ、警察署ですよね……?」


 アテネ警察署の周囲には、巨大な人だかり。

 その異様な光景に、普段はそうそう動揺しないフクちゃんも思わず足を止める。


 まだ終業時刻前にもかかわらず混雑している、アテネ市街。

 加えて、街に出てくる人々の表情は怒りや苛立ちに満ちており、その老若男女を問わない顔ぶれも相まって、何やら尋常ではない雰囲気が漂っていた。


 「……まあ、ニュースか何かで警察の闇を皆が知ったんだろうよ。とは言え、年寄りや子どもまで怒っているのはただ事じゃねえかもな……」


 ハインツも事態の把握に戸惑う中、バンドーは後方に詰めかける女性が手にしていたプラカードに注目する。


 「……見ろよ! 統一世界の限界、故郷と民族の誇りを取り戻そうだってさ! これって、あの宗教じゃないか!?」


 バンドーはスペインで共闘した特殊部隊、そして彼等に協力して教団に潜入した賞金稼ぎ、ハドソンとパクから得た情報と目の前の現実を照らし合わせ、事の真相を突き止めた。


 「警察の腐敗は深刻だ! 我々の税金が犯罪者とテロリストの売買に利用されていた真意を、ギオルガトス署長に問いたい! ギオルガトス署長を呼び出せ!」


 解体工事で使われるバールの様なものを持った、見るからに血気盛んな若い男が正門前の警官に詰め寄る。


 「……しょ、署長は明後日からの議会に出席します。今は治安改善政策への準備期間ですから、皆様の前に出る事は出来ません! お引き取り下さい!」


 信者達の圧力と、自らも警察の疑惑を認めざるを得ない後ろめたさからなのか、正門の警官は下手に出ながら騒ぎをなだめる以外に打つ手がない。

 今、迂闊(うかつ)に拳銃をちらつかせて信者を威嚇すれば、火に油を注ぐ事は目に見えているからだ。


 「……フン、なら柵をこじ開けるまでだ! 怪我したくなければ下がっているんだな!」


 男に助太刀するかの様に、鉄パイプを持ったもうひとりの男が正門前に駆けつけ、人目も(はばか)らずに柵を殴打する。


 「……お、おい、止めろよ! 怒る気持ちは俺も分かるけどさ、逮捕されたら意味ないだろ!」


 若い男ふたりの暴走を止めようともしない、信者達の異様なオーラを懸念したバンドーは思わず現場に急行し、手近な男の鉄パイプを自慢の腕力で押さえつけた。


 「くっ、離せ……! ん!? あんた賞金稼ぎだな!? あんたらも同士みたいなもんだろ!? 一緒に戦おうぜ!」


 当然の事だが、この男とバンドーに面識はない。

 だが、バンドー達の格好と雰囲気は一目で賞金稼ぎだと認識出来、加えて彼等は、つい先程見た映像の中で賞金稼ぎ達がフェリックス社に育成されたという、怪しげな情報を刷り込まれたばかり。

 

 彼等にとって、賞金稼ぎが自分達の邪魔をするなど考えられないのである。


 「……統一世界の再編を! 真の悪党に処罰を!」


 「……どわわっ……!?」

 

 集団の後方から威勢良く掛け声が上がり、多くの信者が正門前に押し寄せる。

 その勢いに、バンドーは身体ごと正門の柵まで追いやられていた。


 「バンドー、脱出しろ! 今のこいつらは理屈じゃ救えない!」


 事態を重く見たハインツはミューゼルとともに正門前に駆けつけ、バンドーに向けて手を伸ばして彼を人混みから救出する。


 「……俺達はギリシャ人じゃねえ、お前が善意で動いているのは分かるが、そのちっぽけな善意じゃ誰も救えないんだ! 早くアテネから出るぞ!」


 騒ぎを鎮めようとした自身の行動を恥じなければならない、そんな不条理に顔を歪めながらも、バンドーは仲間達とともにタクシーを拾い、アテネ空港へと逃走せざるを得なかった。



 6月29日・17:30


 アテネ空港に到着したパーティーの目に映ったのは、アテネ警察署付近から立ち上る黒煙。

 新興宗教の信者達の暴走は収まるどころか勢いを増し、テロや自然災害以外で訪れた非常事態によって、アテネ空港は短期脱出目的の乗客でごった返している。


 幸い、オランダ行きの便には僅かな空きがあり、バンドー達はアムステルダムの空港からアルクマール入りする事となった。


 ピピピッ……


 「……ん!? リンからだ!」


 出発ロビーで束の間の安堵を味わっていたバンドーの携帯電話に、リンからの連絡が入る。


 「はい、バンドーです!」


 「……バンドーさん!? 良かった、無事なんですね! 私達もアルクマールに着きましたが、今オランダでもアテネの騒ぎが報道されているんです! ついさっき、シルバ君から連絡が来て、パパドプロスさんの移送先がバレンシアに決まりました。ニコポリディスさんは暫くバレンシアに残って、チームの皆はアルクマールに合流します。バンドーさん達も来て下さい!」


 全ての仲間の無事を確認したリンの声は明るく、その様子を近くで聞いていたクレアやレディーも冷やかしの声を上げているのが分かる。

 抱えていた心のもやもやが晴れ、バンドーにも余裕が戻ってきた。


 「ああ、今アムステルダムへ飛ぶ所だよ! それにしても、ケンちゃんは大事な連絡を、俺より先にリンにしちゃう様になったんだな!」


 バンドーのジョーク混じりのやっかみを受けた、リンの控えめな笑い声が受話器から漏れる。


 「おいバンドー、大人はそうなっていくんだぞ!」


 ハインツの絶妙なツッコミはバンドーのみならず、フクちゃんやミューゼルの緊張も解きほぐし、空港内の澱んだ空気を穏やかに浄化していた。



 6月29日・18:30


 アムステルダム行きの便は、事前にチケットを予約していたものではない。

 宗教団体の信者が警察署を襲うという想定外のハプニングにより、ギリシャ出発を控えていた観光客やビジネスマンは予定を早め、ヨーロッパ主要都市行きの航空機へと殺到したのである。

 

 その結果、バンドーとフクちゃん、ハインツとミューゼルはそれぞれ離れた2席ずつの空席に詰め込まれてしまった。


 「……アムステルダムからアルクマール行きの列車に間に合うか微妙な所だな……。間に合ったとしても深夜になるし、治安も悪いし、初めての街だから道に迷うかも知れない。フクちゃん、今夜は空港近くのホテルにでも泊まろう。ハインツにテレパシーを送ってくれる?」


 「いいですよ」


 満員の機内でスケジュールを叫ぶ訳には行かず、携帯電話のメールを使うのも電波の都合上好ましくない。

 フクちゃんは、殆ど全ての人類が持ち得ないであろう便利な能力を行使し、テレパシーを受け取ったハインツはバンドー達に背を向けたまま大きく左腕を挙げてスケジュールを受諾する。



 『ご搭乗のお客様に緊急連絡です。只今、アテネ警察署を襲撃したと思われる宗教団体の教祖が、全世界に声明を出します。教団が全世界同時中継を希望した為、機内放送でもご視聴出来る様になりました。ご関心のあるお客様は、イヤホンをご装着願います』


 「……何だって!?」


 機内のアナウンスに思わず反応してしまったのは、バンドーとハインツ。

 

 乗客の中からも多少のざわめきは聞こえていたものの、それはこの教団とアテネ警察署が今、ヨーロッパで一番ホットな話題だったからに過ぎない。

 宗教団体『POB』がフェリックス社の傘下にあり、そのフェリックス社の不穏な動きを知っている人間は、世界中でもごく一握りなのだ。


 「……奴等、一体何を考えているんだ!?」


 バンドー達を始め、多くの乗客がイヤホンを装着し、怪しげな宗教団体の声明を全世界に同時中継するという前代未聞のイベントを、固唾を飲んで見守っている。


 【……皆様、初めまして。私は宗教団体『POB』の代表であるナシャーラです。まずはこの度、私達の信者がアテネの警察署に行き過ぎた陳情を行ってしまった事を、深くお詫び申し上げます】


 20代の息子が2人いるとは信じ難い、その妖艶な美貌を全世界に晒したナシャーラ。

 アテネ警察署の一件で、この新興宗教に物騒なイメージを持っていた乗客達からは、そのギャップに驚きの反応が窺えていた。


 【……不幸中の幸いとして、今回の件は信者に数名の拘束者が出ただけで、人的な被害は出ておりません。破損した正門とパトカー2台に関しては、私達が速やかに修理費を支払わせて頂きます】


 イスラエルの企業ではあるが、旧アメリカ系財閥の膨大な資産とともに立ち上げたフェリックス社が、必要経費を出し惜しみする様な真似はしない。

 現実として、これ程手荒な陳情をした信者を警察が逮捕しなかったのは、フェリックス社の援助なしにはアテネが、いや、ギリシャが維持出来なくなっていたからである。


 【……今回、信者が行き過ぎた陳情を行ってしまった背景には、先日、アテネ警察が囚人を移送する際に明らかとなった、テロリストや汚職警官との癒着(ゆちゃく)疑惑があります。アテネに限らず、ギリシャでは長年の放漫財政が祟り、権力の腐敗が庶民の生活を圧迫し続けているのです。そこに関しては、誰も否定する事は出来ないでしょう】


 教堂に招いた報道陣を前にしても、全く荒ぶった様子を見せないナシャーラの話術は、徐々に事の責任をギリシャという地域全体に転嫁し始めている。

 だが、そのクールな美しさに(いささ)かの乱れもないが故、フェリックス社の裏の顔を知らない人間には、彼女のカリスマ性を受け入れる態勢が自然と出来上がりつつあったのだ。


 【……ギリシャに限らず、観光に頼りがちな地域の財政には、先の大災害以前から伝染病などで問題が起きていたはずです。だからこそ、大災害を機に新たな産業を育てる様、リーダーシップを発揮するべき地域が必要でした。この50年間、統一世界のイニシアチブを握ってきたロシアの責任は大きいのではないでしょうか?】


 「そうだ! この女、正しい事を言っている!」


 大災害以前のヨーロッパを知る高齢の男性乗客は、早くもナシャーラの言葉に感化されている。


 【……ロシアを拠点とした統一世界は、災害の反省を元に、無駄な争いや開発を避け、自然との共存を目指しました。確かに、軍備をロシアに集中させ、銃器を軍と警察以外に流通させない政策は、一定の成果を挙げたと言えるでしょう。しかしながら、その反動から増加した小規模犯罪には、軍や警察だけでは全く対応しきれていません。現在、私の夫が代表を務めるフェリックス社が、庶民の有志によって生まれた自警団である『賞金稼ぎ』を体系化させ、職業として若者の受け皿にする事で、辛うじて統一世界の平和が守られているのです!】


 いよいよ強気の持論を展開し始めるナシャーラ。

 ほぼ成り行きで賞金稼ぎとなったバンドーはともかく、ハインツやミューゼルは明確な目標を持って剣士を生業(なりわい)としているだけに、この点に於いて彼女を完全否定する事は出来なかった。


 【……私達は今回の件を真摯に反省し、その上で現在の腐敗した権力と戦う姿勢を改めて打ち出す事を、今ここに宣言致します!】


 「……くっ、奴等、遂に本性を現したな!」


 機内に沸き起こるどよめきが、バンドーの言葉を瞬時に掻き消す。

 その驚嘆の声は、報道陣を前にした映像からも絶える事はない。


 【……勿論、私達は軍隊でもテロリストでもありませんから、暴力革命は望んでおりません。これから更に教義を広め、各地域の腐敗した権力の動きをチェックし、不祥事には厳しく声を上げていく所存でございます。しかしながら、更なる隠蔽を謀る様な組織には、私達と志をともにする賞金稼ぎが、いずれ天罰を下す事になるかも知れません】


 「……志をともにする賞金稼ぎ……。僕達の知らない剣士や魔導士の組織が、他にもあるんでしょうか?」


 カムイやニコポリディスから、フェリックス社の疑惑については聞かされていたミューゼル。

 とは言うものの、彼は宗教団体については全く情報を持たない為、ナシャーラの話にそれ程の危機感を抱いていない様子である。

 

 「……いや、これから作るんだよ。まずいな。仲間が敵になるかも知れねえ……」

 

 ハインツは直感的に、フェリックス社が大金を用いて「体制側」と「反体制側」に賞金稼ぎを強引に分断させようとする危険性を感じ取る。

 この統一世界を庶民ごと混乱に(おとしい)れるには、仮想の敵を作り出す事が何より効果的だからだ。


 【この声明をご覧の賞金稼ぎの皆様、私達に賛同して貰えるならば、是非ともご連絡を! 私達は賞金稼ぎの平均収入を遥かに超える、好条件を用意させて頂きます! 勿論、更なる信者様もお待ちしております! 私達とともに、『ワン・ネイション・レジスタンス』を結成しようではありませんか! ご静聴、誠にありがとうございました】

 

 機内放送の映像が途絶え、訪れる一瞬の静寂。

 しかし次の瞬間、機内はざわめきに満たされ、その中でも好意的な反応が目立っている様に映る。


 「凄い事になったな! あんたら賞金稼ぎなんだろ? アテネのテロリストを退治したって噂を聞いたぜ! やっぱりワン・ネイション・レジスタンスに入るのか?」


 剣こそ機内に預けていたものの、防具を付けたまま搭乗していたバンドー達は、すぐさま素性を見抜かれてしまう。

 周囲の乗客はこの歴史的な瞬間を目の当たりにして、まるで他人事の様に興奮し、無責任な質問を投げ掛けるばかりだった。


 家族と環境に恵まれ、特に不自由なく育ったバンドーと、統一世界の下で運命に翻弄された庶民の望みを同列に扱う事は出来ない。

 

 だが、少なくともチーム・バンドーと「自然の守護者」である女神のフクちゃん、そしてロドリゲス隊長率いる特殊部隊は、フェリックス社がこの世界の救世主になどなり得ない事を知っている。

 暴力革命は望まないという、ナシャーラの声明を鵜呑みにして無邪気な展望を語り合う乗客達を前に、バンドー達は形容し難い気分のまま、アムステルダムへの到着をただひたすらに待ちわびていた。



 6月29日・21:00


 すっかり真夜中のアムステルダム空港に到着したバンドー達は、深夜に強行するアルクマール行きを一旦諦め、空港近くのホテルを探す事に。

 だが、ポルトガルのリスボンでは見つけやすかったカプセルホテルは、オランダのアムステルダムではなかなか見つからない。


 「……あの、バンドーさん。オランダの成人男性の平均身長は180㎝を超えているんです。カプセルホテルなんて窮屈で、ここでは繁盛しませんよ」


 「……え? ……あのさあミューゼル、そんな事知ってるなら早く言ってよ……。あ〜あ、アテネ空港まで来て安心しちゃったから、お金おろすの忘れちゃった……」


 既に15分程歩き回った後、小声で囁くミューゼルの豆知識にうなだれるバンドー。


 「空港側のホテルなら立派なやつが1軒あったが、高かったよな……。オセアニアには長くいた割に、余り稼げなかったし、ギリシャの旅は金ばかり飛んじまったぜ。まあ、手持ちで間に合うとは思うんだが……」


 ニコポリディスが保証したアテネ警察からの謝礼は、まず彼がギリシャに帰国しなければ話が進まない。

 盗難や紛失に備えて普段から現金を余り持ち歩かない賞金稼ぎだが、真夜中に辿り着いたアムステルダムのキャッシュカード事情も分からない為、ハインツも宿代と食事代、そして明日の列車代の計算に頭を悩ませていた。


 

 「……泥棒です! 誰か捕まえて下さい!」


 突然、暗い夜道から叫び声が聞こえる。


 何やら空港の方向から全力疾走する細身の男と、かなり距離を開けられて追跡する、スーツ姿の小太り男。

 月夜に照らされた両者の影は実に対照的で、ホテルの従業員を思わせる服装の細身の男が、どうやら売上金か何かを盗んで逃走しているらしい。


 「くっそ〜! 面倒な事が重なるなあ、もう!」


 少々苛立ちモードのバンドーは、スパーリングでスコットに完敗した腹いせに、この泥棒を剣の練習相手に使おうと考えた。

 

 しかし、気持ちが先走りして重心が上ずってしまっている。

 細身の泥棒は剣を抜いたバンドーの姿に気がつくと、金を奪ったバッグを首にかけ、上着の両ポケットから2本のナイフを取り出す。


 「バンドー、舐めてかかるなよ!」


 泥棒がナイフを投げて攻撃する可能性もある為、ハインツとミューゼルは剣で自身の上半身をガードし、バンドーをバックアップする態勢を素早く整えた。


 「おっと、ナイフは投げさせないぜ!」


 バンドーがスコット相手に唯一通用した、出足の速さ。

 これは今は亡きベルリンの名剣士、シュティンドル直伝の技術であり、バンドーと対戦する相手を驚かせる先制パンチである。


 「そおりゃっ……!」


 あの細身の体格では、自身の剣をナイフで受け止める事は不可能。

 バンドーはそう判断し、剣の合間から攻撃に備える泥棒の2本のナイフごと刈り取る様な、豪快なスウィングを見せた。


 (……君の剣は力任せだ!)


 突如としてスコットの言葉がバンドーにフラッシュバックし、泥棒の素早い動きに剣の軌道がかわされてしまう。


 「……しまった!」


 普段と違い、苛立ちから重心が上がっているバンドーの身体は剣に振り回され、泥棒のナイフは無防備な彼の背中を切り裂いた。


 「……くっ……!」


 防具でガードされてはいたものの、バンドーの脇腹近くに達した傷から、僅かに鮮血が滲んでいる。


 「……あいつ、ただの泥棒じゃねえな。おいバンドー、何やってんだ!? 落ち着け!」


 ハインツはバンドーを叱責し、彼の援護の為に反対側から挟み撃ちを試みるも、フクちゃんに制止されていた。


 「……ここで勝てないようであれば、これからの戦いには耐えられません。ギリギリまで様子を見ましょう……」


 フクちゃんの目は、既に近い未来を見据えている。

 

 フェリックス社の野望がこの世界を包み込み、賞金稼ぎが軍隊や警察と戦うかも知れない、そんな近未来。

 チーム・バンドーを狙うテロリストの存在を含めて、チームリーダーのバンドーには更なる成長が急務なのである。


 (……この娘、自分のお兄さんを突き放せるなんて、凄い……。スパーリングのジャッジの正確さも含めて、ただ者じゃない……!)


 真夜中の戦いの緊張感に背中を焼かれながら、ミューゼルの注意はいつの間にか泥棒からフクちゃんに移っていた。


 「……お前がバンドーか。最近、ヨーロッパで急に名を上げているみたいだが、お前はハイレベルな仲間に助けられているだけの凡人さ……」


 煙草のようなものを2本もくわえている泥棒は、その片方から煙をふかしながら余裕の笑みすら浮かべ、バンドーの剣がギリギリ届かない絶妙な間合いを維持しながら、円を描く様に攻撃の隙を伺っている。


 「あいつ何処かで……そうか! ダブルナイフのファン・ボンメルだ!」


 ハインツはかつて、口元に傷を持ち、ダブルナイフを使いこなす凄腕の賞金稼ぎがオランダにいる……という噂を聞いた事がある。

 だが、その男は誤って武闘大会の対戦相手を死なせてしまい、賞金稼ぎの資格が停止されている間に精神を病み、やがて麻薬に溺れ、オランダの英雄からチンケな窃盗犯に転落したという……。


 「……そんな奴は知らねえな! 勝手に悲劇のヒーローを捏造(ねつぞう)するのはやめて貰おうか!」


 泥棒はハインツの言葉を即座に否定し、くわえていたもう1本の煙草のようなものに、勢い良く息を吹き込んだ。


 「……!? ぐわっ……!」


 煙草のようなものの中に仕込まれていた吹き矢がバンドーの太股に突き刺さり、バンドーの表情は痛みに加えて、形容のしようがない痺れに激しく歪んでいる。


 「どうした!? 助けに来ないのか!?」


 バンドーの懐に素早く入り込み、吹き矢に塗られた麻酔の痺れで走れなくなっているバンドーの心臓に、そっとナイフを押し当てる泥棒。

 この至近距離からの攻撃であれば、防具を突き破ってバンドーの胸にダメージを与える事は十分に可能だ。


 「……くっ! 畜生!」


 バンドーを人質に取られた形となり、迂闊に手が出せないハインツとミューゼル。

 泥棒は自身の勝利を確信したか、バンドーを引きずりながらゆっくりと歩き始める。


 「……よしよし、そのままじっとしてな。その重装備じゃ、足で俺に追いつく事は出来ねえだろうしな」


 少しずつ距離を稼ぎながら、逃走の準備を整える泥棒。

 バンドーの剣を蹴り飛ばし、反撃の隙を与えないこの時点では、彼の逃走は100%成功する様に思えた。


 「……お前はまだ甘いぜ。俺の上半身に吹き矢を撃たないなんてな!」


 バンドーは泥棒に体重を預けながら、片手ずつ相手の手首を全力で握り締める。


 「……くっ、がああぁっ……!」


 バンドーの握力に手首を潰され、泥棒はやむ無く左手を犠牲にしてバンドーを突き放す。

 彼の両手には未だナイフが残されていたものの、相手の利き手で潰された左手を戦いに使う事は難しい状況だ。


 「喰らえっ……!」


 迷いを振り切ったバンドーは、正々堂々と力任せなダイビングで泥棒を押し倒す。


 「……ぐはっ……! 命だけは助けてやろうと思ったが、やむを得んな。結局、ひとり殺せば後は何人殺しても同じなのさ!」


 自分にはまだナイフがある。

 泥棒は右手でバンドーの首筋を切り裂かんと最後の一撃に全てを賭けるが、剣を失ったはずのバンドーの右手にも武器が握られていた。


 キイイィィン……


 闇夜に響く金属音。

 バンドーはゾーリンゲンの武闘大会で、ギリシャの怪しい武器商人、ツィオリスから入手していたナイフを久々に抜いたのである。


 「……くっ……!」


 パワーの差で、バンドーにナイフを弾き飛ばされた泥棒は万事休す。

 自らの身体の上には、足が痺れて殴るしか打つ手のないバンドーが乗っているのだ。


 「……危なくこいつの存在を忘れる所だったよ。ツィオリス、相変わらずバカやってるのかな。全く、サンキューギリシャ、グッバイギリシャだぜ! こん畜生め!」


 「……ぎゃっ!!」


 剣の練習にはならなかったが、想定外のピンチを独力で乗り越えたバンドー。

 溜まった鬱憤を晴らすかの様な全力パンチを泥棒の顔面とボディーにお見舞いし、相手を気絶させる事に成功する。


 「やったなバンドー! 相変わらず力任せだがな!」


 駆けつけたハインツとミューゼルはバンドーに肩を貸し、足の痺れで歩けない彼を介抱。

 後を追うフクちゃんと、小太りなホテルの支配人らしき男は、それぞれバンドーと売上金の無事を確認して安堵の表情を浮かべていた。


 「ありがとうございました! 私、支配人のデヨングです。ウチには細身で髭の従業員がいまして、この人はそいつに変装して来たみたいなんですよ。ほら、この髭とカツラがズレてますよね!?」


 気絶して動けない泥棒に手をかけるのは忍びなかったものの、ハインツはズレたつけ髭を外し、その下に口元の傷がある事を確認する。


 「……ハインツさん、この片方の煙草、変な匂いがします。きっとマリファナですよ。オランダではヘロインやコカインの様な悪質なドラッグは少ないですが、代わりにマリファナが広まっていますからね」


 ダブルナイフ使い、口元の傷、そしてミューゼルの証言による薬物依存症……。

 

 「あっ……この人確か……!」


 素顔を見た瞬間、支配人も驚きを隠さない。

 恐らく、この男がファン・ボンメルで間違いないだろう。


 「……ついさっき、新興宗教とフェリックス社が賞金稼ぎを募集していたニュースを見ましたよ。私には、フェリックス社が正しいのか統一世界が正しいのか、そんな事は分かりませんけど、この人がさっきのニュースを見ていたら、フェリックス社の賞金稼ぎとして、もうひと花咲かせる事が出来たかも知れませんよね……。少なくとも、誰かに必要とされながら……」


 成功すれば、並外れた富と名声。

 失敗すれば、負傷か死か服役か、或いは依存症。

 

 神妙な面持ちでかつての英雄を見下ろす支配人を横目に、賞金稼ぎを謳歌している様に見えるチーム・バンドーはただ、今の所幸運に恵まれているだけなのかも知れない……。


 

 「すみません、俺、足が痺れちゃっているんで、貴方のホテルで応急処置させて貰っていいですか?」


 このデヨング支配人のスーツから判断するに、空港側の高級ホテルが彼の職場に違いない。

 バンドーはあくまで低姿勢で、宿泊場所の確保へ一縷(いちる)の望みを支配人に託した。


 「勿論ですよ! この人にも賞金がついているでしょうし、今晩は皆様を無料で招待させて頂きます! ルームサービスの食事も楽しんでいって下さい!」


 「やった〜!」


 バンドーを冷たく突き放していたフクちゃんも、ちゃっかり笑顔でパーティーの輪に参加。

 ミューゼルはそんな彼女の素性を疑い、勇気を出してその真相に迫ろうと試みる。


 「……フクコさんと言いましたね。貴女は本当にバンドーさんの妹なんですか? その佇まい、冷静かつ的確な判断力……。いや、決してバンドーさんが冷静じゃないとか、的確じゃないとか言ってませんけど、僕にはフクコさんがただ者ではないと感じるんです!」


 遂に、フクちゃんの素性が疑われる時が来た。


 既にバンドーが冷静じゃないとか、的確じゃないとか問題発言連発。

 だが、これがもし、レディーの様なキャラクターに疑われているのであれば、愛嬌で誤魔化しながら嘘をつき続けるのもひとつの選択だろう。

 

 しかし、ミューゼルの様な生真面目タイプはメンタル面に不信感を残す事は避けたい所。

 バンドー、ハインツ、そしてフクちゃんは互いに顔を見合わせ、遂に覚悟を決めた。


 「……よし、分かった。ミューゼル、お前だけには本当の事を教えよう。信じるか信じないかはお前次第だが、絶対誰にも言うなよ。絶対だぞ!」



 6月29日・23:00


 アムステルダムの賞金稼ぎ組合に連絡した結果、ファン・ボンメルには150000CPの賞金が懸けられていた事が判明する。

 

 往年の勇姿と比べると、随分寂しい賞金首と言わざるを得ないが、高級ホテル4人分の宿泊代と食費の合計がほぼ150000CPに達していた為、賞金は全額ホテルに寄付する事となった。

 

 アルクマールに合流さえすれば、パーティーの金庫番であるクレアとも再会出来る。

 宿泊代だけを安く済ませたかったバンドー達にとって、賞金をホテルに寄付すればまさしく両者WINーWINの関係となるだろう。


 

 「……はい、まだ心の整理がついていませんが、フクコさんがただ者ではない事が良く分かりました……。という事は、バンドーさん達はフェリックス社とは対立の姿勢なんですね?」


 フクちゃんの正体は、ルームサービスの高級ディナーに舌鼓を打ちながら和気あいあいと説明されていた。

 

 果たして何処までが真実で、何処までが妄想なのか、ミューゼルには分かっていない。

 だが、いつか彼女の真の力が発揮された時、誰もがこの世の『女神』の存在を信じざるを得ないだろう。


 「ミューゼル、お前もカムイやニコポリディスからフェリックス社の胡散臭さは聞いているだろ? 確かに、ドラッグや武器の密輸に甘い政府や軍も信用出来ねえ。だが、わざわざ金で賞金稼ぎを対立させようとするフェリックス社のやり方は、真剣に平和を考えているとは思えない。お前が奴等の側についた時は、俺達の前に顔を出さないでくれよ。戦いたくないからな」


 ハインツはミューゼルを説得する事もなく、決断は個人に委ねさせている。

 これから先、考え方の違いで昨日の友が今日の敵になる、そんなもどかしさを抱えながら……。


 ピピピッ……


 深夜に鳴り響く、ハインツの携帯電話。

 

 クレア達には既に、今夜のアムステルダム宿泊は伝えてある。

 にもかかわらず、敢えてこの時間に来る電話……。

 

 パーティーは不安に包まれながら、ハインツの携帯電話のディスプレイを覗き込む。

 そこには、こう記されていた。

 

 『ミハエル・カレリン』



  (続く)


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