異世界兄妹物語
自分、須崎楓はその辺にありふれたごく普通の一般庶民だ。
一人称は自分。友達からは物珍しそうな顔で見られるが、俺とか僕とかいう柄じゃないのでそれを通している。
そして高校に入ってアパート暮らしの悠々自適な一人暮らし、のはずだったのだけれど。
ある日、今日もテレビでも見ながら夕飯を食べようとして床に鎮座していたところ。
急に足元の床が光だし、その光の奔流に飲み込まれてしまった。
気付いた時には目の前に可愛いチェックのワンピース姿のロング髪をしためちゃくちゃ可愛い女の子が何かの本を片手に立っていた。
おかしい。この部屋は自分の部屋だよなぁ。
いつの間にこんな可愛い女の子が侵入してきたんだろうか?
しかも何故かこの女の子、自分の顔を見て何か呆然として、いやなんか今にも泣きだしそうな顔をしているんだけど。
あれ?自分が悪いのかこれ。侵入者は自分の方か?
「……お兄ちゃん」
突然ポツリとその少女が呟いたかと思うと、手に持った本を投げ出し自分を力強く抱きしめてきた。
そしてしゃくりあげるように泣き始める。
く、苦しい……けど、鼻孔をくすぐる女の子の香りが、自分を抱きしめている女の子の柔らかさがその感覚を麻痺させていく。
男としてこの状況はとっても幸せだ。
幸せなのだけど。
さすがに見ず知らずの男女が一つ屋根の下で抱き合うのはまずいだろう。
それになんかこの子、自分の事、お兄ちゃんとか言ってたし。
なんか自分を誰かと勘違いしてやいないだろうか、この女の子は。
とりあえずこの子を落ち着かせないといけないなと思い、頭を撫でてやる。
そうするとピクンと肩が少し跳ね、だんだんと嗚咽が小さくなっていく。
よし、切り出すなら今かな。
そう思い自分は、やっとの思いでこう問いかける。
「キミ、いったい誰なの?」
その言葉にビクンと反応した女の子は、自分の顔を涙交じりの眼で呆然と見上げていた。
まるで信じられない言葉を聞いた、そんな感じの表情だった。
「誰かと、勘違いしていない?自分には妹なんていないんだけど」
「え……。嘘……。私、椿だよ。須崎椿。楓お兄ちゃんの妹じゃない」
涙声で女の子は訴えかけてくる。
曰く、自分は死んでしまったのだと。
曰く、自分を蘇生させるための魔法を彼女は使ったのだと。
結局蘇生の魔法は不完全で。
異世界の自分が召喚されてしまったらしい。
どうなるんだよ、自分の人生……。
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