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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の復活編
9/49

オーガ(モンスター)、町で暴れる

     ◇ ルニーナ



 先まわりするため、高台たかだいにある町まで大急ぎで戻ることにしました。坂道をのぼっていた途中、知り合いのおじさんがかけおりてきました。


「ルニーナちゃん、大変だ!」


 いやな予感が頭をよぎりました。連邦との間で、さっそく衝突が起こったのでしょうか。


 そういえば、これまで派遣はけんされていたのは、役人の方とその従者じゅうしゃの方の二人だけでした。さきほど目撃したのは三人組です。しかも、役人の格好をされた方が二人いました。


 実際はもっと大勢おおぜいを連れてきていたり……。まあ、この間の要求に、そういった内容がふくまれていたので考えすぎかもしれません。


「町で馬鹿デカいモンスターが暴れてるぞ!」


「……モ、モンスターがですか?」


 トラブルでなかったのはさいわいですが、それはそれで一大事いちだいじです。馬鹿デカいと言っているからには、スライムではないってことですよね。


 今日は『伝説の勇者』さんといい、アクシデントだらけです。


「俺は港の連中へ伝えに行ってくる」


「そ、そのモンスターはどこですか!」


 走り去っていくおじさんに呼びかけます。


「役所前の広場だ! かなり暴れているから、行くんだったら気をつけな!」


 役所前の広場って、町のどまん中じゃないですか。どうしてそんなところに巨大モンスターが……。


 あのダンジョンから出てきたわけじゃないですよね。この町にはもう一つダンジョンの入口がありますが、そっちは郊外こうがいにあって、役所からはだいぶ離れています。


 でも、ある意味、絶妙ぜつみょうのタイミングかもしれません。ここはズバッと連邦の方に駆除してもらいましょう。そうすれば、連邦と町の和解ムードを演出えんしゅつできて一石いっせき二鳥にちょうです。



     ◇



 役所前の広場にかけつけると、すでに人だかりができていました。


 集まったみなさんが視線を向ける先に――いました。巨大モンスターです。馬鹿デカいという情報にいつわりはありません。予想以上の大きさです。


 モンスターは猫背ねこぜなのに身長が三メートルぐらいある巨人です。凶暴きょうぼうそうな顔つきと、肌が赤みがかっているところ以外は人間です。あと、腰に布を巻いただけのワイルドな格好をされています。


「ルニーナ先輩! こっちです!」


 声をかけてきたのは役所で働く同僚どうりょう――レルノくんです。私の言うことをよく聞いてくれるかわいい後輩です。


「とんでもないことになってますね」


「今のところ、人の被害は出ていませんけど……、ああいった状況です」


 レルノくんが巨大モンスターのほうを指さします。


 よく見ると、住宅やへいのそこかしこに穴があいています。ちょうど今も、近くの塀を何度もなぐりつけています。その様子には狂気きょうきしか感じません。


 連邦の方たちはまだでしょうか――と思ったら、すでに到着していました。町のみなさんと一緒に見物けんぶつしています。戦おうとする気配はありません。


「連邦の方たちはどうして見てるだけなんですか?」


「あれはオーガっていう第三階層にいるモンスターで、連邦の方では手にえないそうです」


「なるほど……」


 確か、ダンジョンは第五階層まであるんでしたっけ。そうすると、ちょうど中間の階層にいるモンスターということですか。


 連邦の方たちは嵐が過ぎ去るのを待っているようです。そういえば、前任ぜんにん者の方が『自分はスライムを倒せるぐらいの下っぱ役人だから』と謙遜けんそんしていましたっけ。


 私にはどうしようもないので、黙ってながめました。時どき、町のみなさんからどよめきが起こります。曲芸きょくげいのパフォーマンスでも見ているかのような雰囲気です。


「建物ばかりをねらうのはなぜなんですかね」


「大きいからムカつくとか、そんな感じでしょうか」


 モンスターの心理はわかりません。


「冒険者の方って、よくあんなモンスターと戦う気になりますね。あのコブシでなぐられたら、確実に即死そくしじゃないですか?」


「エーテルが身を守ってくれるから、大丈夫みたいですよ。魔法と同じで、なぐられても痛いだけで、骨が折れたり傷が残ったりはしないそうです。まあ、まったく防御していないと危険らしいですけど」


「なるほど……」


 スライムの炎も痛みだけで傷は残りませんからね。モンスターはエーテルのかたまりで、実体じったいのない魔法のような存在だと言っている人がいましたっけ。


「あの、言いづらいんですけど、ルニーナ先輩のお宅ってあそこでしたよね?」


「えっ……、あっ!?」


 大穴があいています。家の玄関が二つになってます。モンスターが今いる場所から少し離れているので、まったく気づきませんでした。


 半年前に買ったばかりなんですよ。古くてせまいの二重苦にじゅうくですけど、職場の目と鼻の先だから気に入ってたのに……。


「ボケッと見てるだけかよ」


「倒せるのはスライムだけか」


 ショックでうなだれていると、連邦の方に対する不満の声が聞こえてきました。でも、直接言ったりはしていません。手も足も出ないのは、私たちも一緒ですから。


「あのモンスター、どうにかできないんでしょうか」


「この分だと、ダンジョンに帰るのを待つしかなさそうですね」


「疲れたらおうちに帰られるんでしょうか。あれだけ背が高いと、ダンジョンの天井てんじょうに頭をぶつけそうですが……」


 そんな能天気のうてんきな会話ぐらいしかすることがなくなりました。


 ここが気に入ったのか、モンスターは広場から離れようとしません。見物にきてきたのでしょう。帰られる方がチラホラと出てきました。


「忘れてました。あれを倒せそうな冒険者の方がいます」


「この町に冒険者なんていましたっけ?」


「今日現れたんです。『伝説の勇者』が大好きな冒険者です」


「……それって、ただの冒険者ってことですよね?」


「それでも冒険者は冒険者です。とにかく、今から呼んできますね」


 私はそう言い残して、彼をさがしに港へ向かいました。

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