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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の復活編
8/49

定期船、港に到着する

     ◇ ルニーナ



 もう恐怖にえられません。これ以上、先に進むのは危険です。緊張感をただよわせる彼の表情が、それを物語っています。


 彼が前方の光に気を取られている今がチャンスです。


 足音を立てないよう、慎重に後ずさります。そして、彼が死角に入ったと同時に、全力で走りだしました。


 成功です。後ろからは何も聞こえません。私の弱々(よわよわ)しい足音だけがダンジョンにひびいています。


「おい! ちょっと待て!」


 そう安心したのもつかの間、あっさり気づかれました。でも、彼の声が上がったのははるか後方です。わざわざ追いかけてくることなんてないと思います。


「待てって言ってるだろ!」


 彼も走りだしました。怒ってます。どうして必死に追ってくるんですか。そのまま調査を続けてください。やっぱり、別の目的があったんですか!?


 でも、距離はかせげています。少なくとも、入口までは逃げきれるはず――と思ったんですが、軽快で力強い足音が、すさまじい勢いでせまってきます。


 なんて速さですか。甘く見ていました。そういえば、冒険者は常人じょうじんの数倍の速さで走ると聞いたことがあります。


 その時、スライムをふみつけてしまい、足もとで炎が上がりましたが、走っていたのがさいわいしました。


 入口はもう間近まぢかです。ぬくもりのある光が出迎えてくれて――いるんですが、彼の足音と息づかいが、すぐ後ろから聞こえます。もう息がかかるぐらいの至近しきん距離です。


 明らかに、私の走るスピードに合わせていますし。観念してスピードをゆるめました。



     ◇



 入口に到着すると、背後から手首をつかまれました。彼を振り向いてみると、目が完全に怒ってます。眉間みけんにシワが寄っています。


「なんで逃げるんだよ」


 こんな声も出せるんですか、って驚くぐらいの低音です。


「怖くて怖くてしょうがなかったんです。も、もちろん、モンスターがですよ!」


「……」


「……何か発見はありましたか?」


 私はおそるおそる尋ねました。


 「もういいよ。あーあ。せっかく、スライム大発生の原因をつきとめたんだけどなあ。まさか、あんなことになっていたとは」


 急にいじけた態度をとり始めた彼は、わざとらしくため息をついてから、浜辺のほうへ歩きだしました。


「何がわかったんですか?」


 彼と肩をならべて歩きながら、ご機嫌きげんをうかがうように尋ねると、横目でにらみつけられました。


「頼りにしている『連邦れんぽうかた』とやらに聞いてみたらどうだ? まあ、教えてくれないだろうけどな」


「その理由は……?」


「聞いた時の反応を見れば、いやでもわかるだろ」


 つまり、連邦の方のしたことが原因ということでしょうか。


 心当たりはあります。ダンジョンで何かの作業をしているところを、よく見かけましたから。でも、連邦の方がいる時は、こんなことありませんでした。


 それに、町のほうで生活費を負担しているとはいえ、スライムの駆除くじょ無償むしょうでやっていただいてます。わざわざ自分たちの仕事を増やす理由はなんでしょう。



     ◇



 その時、林の向こうを歩く三人組を発見しました。そのうちの二人は見慣れた制服を着ていて、町のほうへ向かっています。


 あわてて浜辺に出ると、すでに連邦の定期船が停泊ていはくしています。水夫すいふの方たちが積み荷をおろす作業を始めていて、おきにつき出た桟橋さんばしを行きかっています。


 大失態だいしったいです。出迎でむかえをまかされていたのに、彼の相手をしていたばかりに……。これで先方せんぽうを怒らせてしまったら、私の責任問題になります。


「デカい船だなあ」


 追いついてきた彼がのん気に言いました。


 これ以上、彼にかまっていられません。早く連邦の方たちを追いかけて、ご機嫌を取らないと。


「なあ。あれに乗れば、連邦とやらに行けるんだよな?」


 なんですか、その自由な発想は。それに勘違いしています。連邦とは複数の国家が連合したもので、特定の国をさしているわけではありません。


「タダで乗れるものじゃないですよ」


「知ってるよ、そのぐらい」


 私の言葉に耳を貸さず、彼は桟橋のほうへ向かいました。お金を持ってる感じじゃないですし、まさか密航みっこうする気じゃないですよね。


 でも、今は連邦の方たちが最優先です。ただでさえ関係がこじれていたのに、このままではさらに悪化しかねません。


 実は先日せんじつ、私たちの町と連邦の間で、一触いっしょく即発そくはつの事態になりました。それは連邦から新たに出された要求がキッカケです。


 その内容はというと、町に常駐じょうちゅうする役人を一人増やし、旧領主の別荘べっそうをオフィスとして使わせろというものです。


 それだけならまだ良かったんです。我が町の名産めいさんであり、主要な交易こうえき品でもあるリンゴの買取価格を、十パーセントも下げたいという要求が、火に油を注ぎました。


 町のみなさんは大激怒。連邦の方を取り囲んで、罵声ばせいをあびせる事態に発展しました。それから一ヶ月間、交渉はこじれにこじれました。


 連邦の方は『本国に持ち帰って再検討する』と、予定をくり上げて帰還することになりました。


 町のみなさんは手荒てあらなお見送りをしました。もう最後のほうは石とか投げつけてましたから。もちろん、私はとめましたよ!


 報復ほうふくとして、連邦が軍を引き連れて攻めこんでくるんじゃないか。そんな不安から、この数カ月間は生きた心地ここちがしませんでした。

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