勇者(冒険者)、ダンジョンを調査する(後)
◇ スニード
しばらく進むと、奇妙な光を発見し、とっさに立ち止まった。
「あの光はなんだ……?」
すこし道をくだった先に、強烈な光を発している場所がある。自然の光ではない。ランプが光っているように見える。
「エーテル灯じゃないですか?」
「……エーテル灯?」
「エーテルを燃料にした最新式のランプです。連邦の方が設置したんですよ。あれで二、三ヶ月は平気で点灯し続けるんです」
「へぇー、そんな便利なものが発明されたのか」
昔はそんなものなかった。だから、第一階層ではよくころんだっけ。冒険者が拠点とするベースキャンプも、ランプのいらない第三階層にあるのが普通だしな。
「でも、黒魔法でしか点灯できないみたいなので、私たちにはあつかえないんですよね」
「魔導士の地位がだいぶ上がったみたいだな」
そばまで行くと、かなりまぶしかった。かたちは普通のランプと変わらないが、炎のそれではなく、太陽のような光を放っている。
明るいな。これは便利だ。ただ、こんなところを照らしてどうするんだ。ちょっと行けば、元の明るさに戻っているし。ダンジョンにランプが置いてあること自体、初めて見た。
不思議に思って辺りを見まわしていると、足もとで何かが光っているのに気づいた。
◇
その場にしゃがんで、近くの穴をのぞきこむ。穴は円形で、大きさは腕が入るぐらい。これはワームがあけたものだろう。
こういった穴自体はめずらしくないが、奥のほうに強い光がある。よく見ると、光は魔法陣の紋様をえがいていた。
「ちょっとこれを見てくれ」
「はい……。これはワーム型ですね」
ダンジョンの穴には二種類ある。モグラ型とワーム型だ。
前者はモグラ型モンスターが掘り進んだもので、一定のかたちをしていないが、傾斜がゆるやかで歩きやすい。今、俺たちがいる場所がそうだ。
後者はワーム型モンスターが掘ったもので、きれいな円形をしていて垂直方向にのびている。
基本的に冒険者は前者を進むが、後者はショートカットに使える。下層に行くほど穴が大きくなるのは共通だ。
だが、今はそんなことどうでもいい。
「そうじゃなくて、奥のほうを見てみろ」
「……何か光ってますね」
「どうしてこんなところにあるんだ?」
「なんなんですか、これ?」
「……お前、魔導士じゃないのか?」
「白魔法しか使えない未熟者なので」
「いや、これは白魔法だから。結界だよ、結界」
「これって結界ですか。小さくてわかりませんでした。いちおう、知識はありますけど、使う機会がないので見なれていないんです」
結界はエーテルの流れをせき止めるために用いる。例えば、ベースキャンプの出入口付近には、それが二重に張られていることが多い。
なぜそんなことをするかといえば、エーテルの存在しない地帯を作りだすことで、モンスターが近づかないようにすることができる。
「ただの結界ではなさそうだな」
結界を張った意図はわかる。ここからエーテルが下層へ流れていかないようにしているんだ。
「もしかして、これが原因ですか?」
「原因の一つだろうが、これだけではないな。もっと奥へ行ってみよう」
◇
さらに進む。すぐに元の明るさに戻った。
エーテル灯とやらは、あの穴の周辺を照らすために設置されたのか。そうすると、結界を張ったのも『連邦の方』ということになる。
だんだんと道が広くなってきた。入口付近にあれだけのスライムがいたんだ。そろそろ第二階層のモンスターが出てきてもおかしくないが、相変わらずスライムだらけだ。
「……奥に何かいるな」
異変を感じ、歩く速度をゆるめる。
「モ、モンスターですか……?」
「まだわからない」
さっきのエーテル灯があるのだろうか。かどをまがった先が明るい。それだけじゃない。急激にエーテルの濃度が上がってきた。
「気をつけろ」
後ろのルニーナに注意を呼びかける。初めての経験だ。なんだ、この奇妙な気配は。レベルの高いモンスターでもいるのか。
かどをまがると、異様な光景が目に飛びこんできた。
「なんだこれは……」
言葉を失った。おびただしい数のスライムが、壁や天井に張りついている。
その先にあったのは――結界だ。ただ、二重、三重に張られていたため、複雑な紋様をえがいているように見えた。
そうか、これが原因か。冷静になってみれば、第一階層のモンスターだけが大発生するとしたら、これ以外に考えられないか。
「ルニ……」
報告しようと思って後ろを振り向くと、ルニーナの姿が消えていた。