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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の復活編
5/49

ルニーナ(役人)、ダンジョンに連れこまれる

     ◇ ルニーナ



 この町にはダンジョンの入口が二つあります。スライムが大量発生しているのは浜辺に近いほうで、そこまで彼を案内します。


「そういえば、まだお名前をうかがってませんでしたよね?」


「スニードだ。それが『伝説の勇者』の名前だからな」


 あくまで『伝説の勇者』の設定で通しますか。名前を知らないので、判断のしようがありません。


 だいいち、何十年も石化することなんてありえるんでしょうか。数年前にゴルフポールドで見た石像が彼だったりしませんよね。


「君の名前は?」


「ルニーナです」


「太陽と月か。運命的だな」


「ああ、言われてみるとそうですね」


「ルニーナは冒険者じゃないんだっけ?」


「違いますよ。言いませんでしたか、役人だって」


「ああ、聞いた気がする。魔法が使えるのにもったいないな」


 ダンジョンに向かっている間、スライム大量発生の経緯けいいをざっと説明しました。


「どうも納得いかないんだよな。魔導士の冒険者だっているだろ? 俺の時代はいくらでもいたぞ」


「昔はそうだったのかもしれませんが、今の魔導士は役人をめざしますから」


「役人って……。役所にいてもレベルは上がらないだろ」


「はい。私も役人ですけど、レベルは上がらないです」


「ちなみに、ルニーナのレベルは?」


「計ったのは二ヶ月ぐらい前ですけど、その時はレベル5でした」


「5か……」


 笑いをこらえる彼から、小動物を見るかのような目を向けられます。


 笑われるのもしかたありません。同年代でも低いほうですから。魔法の効果を上げるために、レベルを上げろとよく言われます。


「そのくらいあればいいんですよ。黒魔法が使えないから、モンスターとは戦えませんし。使うのは〈治癒ちゆ〉の魔法くらいです」


 正確には、ダンジョンに入ってモンスターと戦いたくないので、黒魔法を勉強しないですけど。



     ◇



「着きましたよ。ここがそのダンジョンです」


「普通のダンジョンだな。安心した」


 この入口は、海に向かって大きな口を開けています。彼は入口付近を念入りにチェックした後、ダンジョンをのぞきこみました。


「大量のスライム確認。ここが発生源でまちがいないな」


 スライムが暗いダンジョンでかすかに光を放っています。外から確認できるのだけでも、二、三十匹はいます。中の状況を想像しただけでゾッとします。


「よし、中に入って調べてみるか。ルニーナも一緒に来てくれ」


「えっ、いいですよ。私は遠慮します」


「……なんで?」


「勝手に入ると連邦の方に怒られますから」


「なに言ってんだよ。お前らの町のダンジョンだろ」


 怒られるというのは言いすぎでした。嫌味いやみっぽいことをたまに言われるだけです。


「それにダンジョンは誰のものでもない。入るための許可なんていらないし、入ったことに文句をつける権利もない」


 さっしてください。さっき言ったことは口実こうじつです。単純にモンスターの巣窟そうくつに入りたくないだけです。


「『自分たちが管理するから、よけいなことはしないでほしい』ってキツく言われてるんです。私たちはスライムの駆除くじょができませんから、連邦の方に従うしかないんですよ」


「でも、そいつらは管理もせずに、どこかへ行っちゃったわけだろ?」


 それは事実ですが、私たちが追い返したも同然なので、文句を言える筋合すじあいではありません。


「とにかく中に入ろう。スライムが出てくる原因は、俺がつきとめてやるから」


「おひとりで行けませんか? 私はここで待ってます」


「いいから、一緒に行くぞ。せっかく魔法が使えるんだから」


「私、白魔法しか使えませんよ」


「それで十分だって」


 どうして、そんなに連れて行きたがるんでしょう。急にイライラしてきましたし。


「本当に困ります。この前なんか、ちょっとダンジョンのことを口にしただけで、『素人しろうとはすっこんでろ』って小声こごえですごまれましたから。それに私、モンスターが苦手なんです」


「大丈夫だって。モンスターは俺がひとりで片づけるから」


 だったら、ひとりでお願いします。それは引きとめませんし、私も連邦の方に怒られなくて済みます。


「ほら、行くぞ」


 そう言った彼に手首をつかまれ、強引に中へ連れこまれそうになりました。


「待ってください。私がわざわざ中に入る理由ってなんですか?」


「そっちも自分の目で確かめたほうがいいだろ?」


「私、ダンジョンのことくわしくないですから、見てもわかりませんよ」


「……いいから来いって」


 顔が本気です。本性ほんしょうむきだしです。どう考えても別の目的がありますよね!?


「行くぞ!」


「ま、待ってください! 心の準備がありますから!」


 懸命にうったえかけても、彼は聞く耳を持ってくれません。


「だ、誰かー! 助けてくださーい!」


 外へ向かって呼びかけると、彼は足を止めて、私の腕を強く引き寄せました。


「おい、やめろよ。誤解されるだろ」


 おさえた声量ながら、それは怒気どきをふくんでいました。


「じょ、冗談ですよ」


 別種べっしゅの危険を感じたので、なだめるように笑ってごまかします。もう彼の言う通りにするしかないようです。


 ……きっと私の考えすぎですよね?

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