勇者(反乱者)、思いをぶつける
今回も途中で視点が切りかわります。
◇ ミロ卿(冷血卿)
ふいに男が立ち上がった。とうとう人狼の長が事切れたか。男がこちらをチラッと振り向いたが、すぐに前を向いた。
エーテルの光がまたたく。結晶で回復したのか。
「話は終わったか?」
「ああ」
男が振り返った。
敵意を感じるが落ち着いている。奇妙なほど落ち着いている。この存在感は何だ。いまだかつて味わったことがない。なぜか、不思議な気分にさせられる。
レベル39で始末するのは惜しい。後々の楽しみのために、見のがすのも一興か。私と年齢は変わらないようだが、先々の成長は十分に見込める。
「私の部下が君にこっぴどくやられたようだ」
「……」
「それでどうする。相手をしてやってもいいが、君は利口な男のようだ。現に、さきほどは激情にかられることもなく、私に勝負をいどもうとしなかった」
男は何も答えない。じっとこちらを見すえている。戦うかどうかで迷っているのか。
「おとなしく立ち去るのなら見のがそう」
「……余裕だな」
ようやく男が口を開いた。やはり落ち着いている。虚勢を張っているのか。あせりや動揺がいっさい感じられない。私が怖くないのか?
「お前は逃げないのか?」
「……なぜ私が逃げる」
「それなら、ここで決着をつけよう」
「私はかまわないが……」
「お前は何のために戦う」
「……何が聞きたい」
「上からの命令でか?」
「まあ、そうなるかな」
「俺は自分のために戦っている。かつてのダンジョンを、お前らの手から取り戻すためにな」
「……いちおう、理由を聞いておこうか」
「冒険が好きだからさ」
何を言いだすかと思えば。思わず失笑してしまった。
「エスペロのメンバーらしい発想だな」
男の顔つきが変わった。
とっさに右腕をかまえるほどの――ゾッとする何かを感じた。雰囲気からして違う。この感覚はいったいなんだ。私はこの男の何を恐れているんだ。
男がゆっくりと歩きだす。ただならぬ殺気を感じ、私は反射的に〈火炎〉の魔法を放った。男はそれをよけることなく受けきった。
なぜだ――、なぜよけなかった。
今のは小手試し。事実、半分ほどの力しか使っていない。レベル39もあれば、受けきれたとしても不思議ではない。
しかし、よけるそぶりすら見せなかったのが不可解だ。私が手加減することわかっていたとでも言うのか?
私の実力を見誤っているのか。それとも侮っているだけか。
――後悔させてやる。
「図に乗るなよ!」
今度は全力で〈火炎〉の魔法を放った。男は豪炎につつまれ、たちまち姿が見えなくなった。
回避した様子はない。終わりだ。あっけなかったな。たとえ全力で防御していたとしても大ダメージはさけられない。つけ上がった罰だ。
ほどなく、男の姿が現れた。
……なぜだ。男は無傷だ。すずしい顔をしたまま、こちらを見すえている。やせガマンをしているのか……?
男は歩めを止めない。私は追いたてられるように、再び豪炎をほとばしらせた。
しかし、結果は変わらない。男にダメージを負った様子はない。
「……どうしてだ? ありえない! こんなバカなことがあるわけない!」
男が近づいてくる。足がふるえる。息がくるしい。私は後ずさった。気づくと、壁ぎわまで追いこまれていた。
「なぜだ……、なぜお前は平然としていられる……?」
男が私の右手をつかみ上げる。マズい。これでは魔法が使えない。
「私のレベルは78だぞ! その私が全力で攻撃したんだ! どうしてお前はそれを防ぎきれる!」
男が何かを放ち、顔に突風が吹きかかった。
近くにいた部下が失神した。たったそれだけのことで。全身が石のようにかたくなる。つかまれた右手が痛い。息が止まりそうだ。
「俺のレベルは200以上だ」
男が声をしぼりだすように言った。感情をあらわに。怒りにふるえながら。
「に……200……?」
何を言っているんだ、この男は。考えることができない。足がすくんで動かない。
「お前らの頭に伝えろ」
視界のはしで強烈な光がひらめく。そちらへ目を向ける。男の右手が神々しいほどに輝いていた。
「このスニード・ミルフォリオが、地獄の底から舞い戻ったとな!」
男が言ったことの意味はわからなかった。
私はここで死ぬ。ただ、そう思った。
◇ ダンツォ
戦いが終わった。ウヌオさんの活躍によって、俺たちの圧倒的勝利に終わった。
自分は後方でルニーナさんのガードをしていたので、一度も魔導士と戦うことなく、倒した相手を布でしばったりしていた。
かなりの敵に逃げられたとはいえ、マスタークラスの魔導士を大量に捕まえた。これも全員、ウヌオさんが倒したらしい。
これだけの捕虜がいれば、連邦にどれだけの要求をつきつけることができるだろう。少なくとも、アルト城で捕まったフォルトさんたちを取り返せるはずだ。
やつらが逃亡したおかげで、一時的に捕まっていた仲間も全員救出できた。ただ、犠牲者が一人出た。数日前に会った人狼族の長だ。冷血卿との一騎討ちに敗れたらしい。
おたがいの犠牲を減らすため、いたずらに相手の命を奪わない。よほどの悪事を働いたとか、恨みを買ったりしていないかぎり。連邦はその暗黙のルールを破った。
「すまない。ひと足遅かった。助けることができなかった」
「助けられなかったのは我々も同じ。長のかたきを討ってくれたことに礼を言わなければならない。ありがとう」
冷血卿は死んだ。自分はその場にいなかったけど、目撃した人の話によると、ウヌオさんがたった一撃で倒してしまったそうだ。
ウヌオさんに殺す気があったかどうかはわからない。背後に壁があったことが災いしたようだ。冷血卿の死体は建物のぶ厚い壁をつき破り、瓦礫のそばに横たわっていた。
人狼の長の命を奪ったのだから、これは当然の報いと言えるかもしれない。このことで連邦にどうこう言われる筋合いはない。
わかっていたこととはいえ、やはり、ウヌオさんのレベルは39ではない。秘密にしてるみたいだから、あえて聞かないけど。
ここでの戦いは俺たちの勝利に終わった。でも、これで終わりじゃない。きっと連邦は本気で俺たちをつぶしに来る。本当の戦いはここから始まるんだ。
勇者の蜂起編はこれで完結です。
ストックがなくなってしまったので更新を停止します。




