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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
48/49

ヴェント(人狼)、最期の言葉を伝える

話の途中で視点が変わります。


     ◇ スニード



 瀕死ひんしのヴェントを外へ連れだした。胸からの出血がヒドい。息が荒く、表情にも力がない。


 なぜ命を奪う必要があったのか。許せない。それなのに、俺は戦わずに逃げだした。


 本当にこれでいいのか。負けるとわかっていても戦うべきじゃないのか。逃げ帰ることしかできない自分がふがいない。情けなくてしょうがなかった。


 いつからこんな臆病おくびょう者になったんだっけ。若い頃は、自分よりレベルの高いモンスター相手に、無謀むぼうとも言える戦いをいどみ続けていたというのに。


 理由ははっきりしている。状態異常があまりに危険すぎる。あいつにそれを使われたら、また果てしない石像生活が始まる。数時間で目ざめる気絶きぜつとはわけが違うんだ。


 そうだ。俺は大人になった。冷静さを手に入れた。勇気と無謀をはき違えることがなくなっただけだ。パワーの回復を待ち、万全ばんぜんの状態でヴェントのかたきを討つ。


 それこそ、最良さいりょうの道だ。頭では理解していた。でも、くやしかった。グリゾに顔向けできないな。


「スニード、ここでいい」


 ヴェントがかすれた声をしぼりだす。


「もう先は長くない。それより、お前に伝えなければいけないことがある」


 ヴェントを地面におろし、俺はヒザをついた。聞きとどけなければならないと思った。


「『人間を信用するな』。死ぬまでの一ヶ月間、病床びょうしょうの父はその言葉をくり返し口にした。それは里で伝えた通りだ」


 そんな言葉がグリゾの口から出たとは信じたくない。あいつとは誰よりも長く一緒にいたから。だが、あいつは人間に命を奪われたのだから、しかたがない。


「だがな、スニード。父はそれ以上にお前の名を口にした。お前との冒険の日々を語ってくれた。第五階層へ行って数々(かずかず)神獣しんじゅうを打ち倒したことなどだ。衰弱すいじゃくしていた父も、その時ばかりは生き生きとしていた。そして、話の最後をいつもこの言葉でしめくくった」


『冒険に出よ。ダンジョンは広いぞ』


 ヴェントがこちらをまっすぐに見つめてほほえんだ。


「人間と冒険に出た父を非難する者はいた。自業じごう自得じとくだと言う者もいた。だがな。お前と冒険に出たことへの後悔を、父は一度も口にしなかった。それだけは伝えたかった」


「ああ……」


 そうか。グリゾがそんなことを。救われた思いがした。俺もお前との冒険の日々を一生忘れない。お前は初めてできた、かけがえのない仲間だからな。


「これを使え」


 ヴェントが口からエーテル結晶をはきだす。亜人あじんはモンスターのように体内にエーテル結晶を宿す。もちろん知ってはいたが、それを取りだしたのは初めて見た。


「お前ら人間が、我々亜人をモンスターあつかいする一因いちいんでもあるが、こんな時にこそ役に立つんだ」


 軽々(かるがる)しく使う気にはなれない。けれど、これを使えば、今ここでかたきを討つことだってできるか。


「一つ頼めるか。遺体いたいは父も眠るあの泉へほうむってくれ」


「わかった」


「父に伝言はあるか。あの世で会うことができれば伝えよう」


「また一緒に冒険に出よう。そう伝えてくれ」


承知しょうちした。その時は私もともをしよう」


「俺たちの冒険は過酷かこくだぞ」


「……それは楽しみだ」


 ヴェントが力なく笑う。


 それが最期さいごの言葉となった。


 立ち上がって、受け取った結晶に目を落とす。これはヴェントがこの世で生きたあかし。使うには忍びないが、ムダにはできない。


 ふと背後から人の気配けはいを感じた。振り向くと、あいつが近くまでやって来ていた。


 結晶を強くにぎりしめ、右手の刻印こくいんから体内へ吸収する。力と共に、怒りが一気にわき上がってきた。


 あいつにたたきこもう。グリゾ、ヴェント親子の無念むねんを。奪われた二十年という年月の重みを。



     ◇ ミロ卿(冷血卿)



 男を追って外へ出た。あいつがここまでたどり着いたということは、市街における戦いが思うように進んでいない可能性が高い。


 市街の敵は部下たちに一任いちにんしたが、最大のターゲットである人狼じんろうおさをしとめたのだから、私も加勢かせいするのがすじだろう。


 市街にはレベル50以上――マスタークラスの士官しかん十名を中心に、百人以上を配置した。兵の数は敵と変わらないかもしれないが、レベル30以上の精鋭せいえいしか連れて来なかった。


 彼らがやすやすと敗北したとは信じがたい。それができるとすれば人狼の長くらいなもの。やつとは絶対に交戦しないよう、前もって注意しておいた。


 外へ出ると、すぐに男の姿が目にとまった。やつは門をぬけた先にいた。人狼の長を地面におろし、こちらへ背を向けたまま、話しこんでいる様子だ。


「ミロ卿!」


 部下が物かげから現れた。


「どういう状況だ?」


「おそらく、士官は全員敵にとらえられました」


「……全員?」


「はい。誰の無事も確認できない状況です」


 まさか、そこまで追いつめられていたとはな。


 士官と対等たいとうに戦えそうな人狼は、あの長以外に二人確認している。エスペロにもそのぐらいいるかどうかだったはず。この間の戦いで、実質的なリーダーを捕縛ほばくしたしな。


 戦力的に苦戦を強いられても、圧倒されるとは考えづらい。つまり、イレギュラーな存在が現れたということ――。


「誰にやられたのだ」


「人狼ではありません。あとから現れたエスペロのメンバーです。それまでは我々が優位ゆういに戦いを進めていましたから。ただ、その男がケタ違いに強かったんです」


「あの男か?」


「……そうです! あの男です!」


「あの男のレベルはいくつだ?」


「それがおかしくて、たった39しかなかったんです」


「……39? レベル39の男に歯が立たなかったのか?」


「はい……。でも、39だからといって、油断していたわけじゃないんです。なのに、士官がなすすべもなく次々と倒されていったんです」


 それはみょうだな。確かに、レベル10程度の差なら、戦法や経験でひっくり返すことも可能だが……。よほど戦闘技術にけているのか。


「私が相手をしよう」


 さきほどリングで回復したばかりだからフルパワーに近い。加えて、もう一つリングが残っている。


「私もお手伝いしましょうか」


「必要ない。水をさすやつがいるようなら、そいつの相手を頼む」


「わかりました」

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