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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
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冷血卿(魔導士)、連邦の未来を憂う

     ◇ ミロ卿(冷血卿)



 勝負あった。決着は近い。


 左足を負傷ふしょうした人狼じんろう族のおさは、私の攻撃をよけるのがやっととなっている。それだけに集中し、反撃することをあきらめたように見える。


 私は壁を利用した敵の奇襲きしゅうを回避するため、後方に飛びながら、相手に向かって〈突風とっぷう〉の魔法を放った。相手に対する攻撃ではなく、攻撃を回避するためにもちいた。


 この技は思いつきではない。冒険者との戦いにおいて、敵に接近を許した場合に実践じっせんしたことがある。とはいえ、土壇場どたんばで反射的にそれをできた自分を褒めてやりたい。


 おかげで、敵の攻撃を回避するだけでなく、〈火炎〉の魔法によるカウンター攻撃によって、大打撃だいだげきを加えることができた。


 敵の左足の負傷は痛々(いたいた)しい。だが、私は攻撃の手をゆるめなかった。やがて、二度目の攻撃が直撃した。


「ウオオオオオオ!」


 人狼が断末魔だんまつまのさけびを上げ、床をころげまわった。感服かんぷくするほどの精神力だ。全力の攻撃を食らってもなお、意識を保っているだけでも驚異的だ。


 人狼は片腕だけで起き上がろうするが、それすらできない。敗北を意識するほどの戦いだったのに、均衡きんこうがくずれるとあっけないものだな。


 ダメ押しとばかりに、二、三度電撃を加えた。最後の攻撃ではさけび声すら上げなくなった。


 慎重に人狼へ歩み寄る。まだ力が残っていて、反撃をねらっているかもしれない。念のため、〈マヒ〉の魔法をかけた。人狼はまったく動かなくなった。


 足もとの人狼を見おろしながら、私は腰におびたナイフをぬいた。本望ほんもうではないが、この亜人あじんにとどめをささなければならない。それが絶対命令だからだ。


 ためらいはあったが、両手で持ったナイフを振りかざす。そして、相手の心臓目がけて、思いきり振りおろした。


 突き立てたナイフをぬくと、傷口から血が流れ出てきた。私が非力ひりきだからか、多量たりょうではない。だが、このまま行けば、確実に死ぬだろう。


 私は思った――。これから荒れるな。我々連邦に対して、人狼族は総力そうりょくをあげて抵抗するだろう。


 ただ、私が気がかりなのはそのことではない。その戦いもまちがいなく我々の勝利に終わる。問題は反乱を鎮圧ちんあつしたあとのことだ。



    ◇



 あれは一ヶ月前のことだ。


 人狼族に反乱の兆候ちょうこうあり。私が元老院げんろういんへ報告を行った際、人狼族の長――ヴェントの殺害を厳命げんめいされた。


 たとえ戦わずして降伏こうふくしたとしてもだ。レベル75は高すぎる。見過ごせるレベルを超えている。そんなつまらない理由だった。


 私は思った。もったいない。そして、おろかだ――とも。


 レベル70を超える人間は、連邦の魔導士以外残っていない。少なくとも、我々は確認できていない。つまり、人間にかぎれば、私は対等に渡り合えるの敵を失ってしまったのだ。


 エスペロのメンバーは高くともレベル50台。数が多いだけで有象うぞう無象むぞうの集まりにすぎない。我々にとって脅威きょういではないのだ。


 また、エスペロに関する特別な指示はなく、『できたら、リーダーを捕まえてくれ』としか言われなかった。


 亜人最強とうたわれた敵の死。これから部下たちも張り合いがなくなり、緊張感をたもてなくなるはずだ。それが慢心まんしん堕落だらくをもたらすだけならいい。


 一番の問題は、戦うべき相手を失った連邦という国家が、内向きに闘争心を発揮しかねないことだ。私はそれを恐れている。


 いずれ、新たなが出てくる。だが、それには五年、十年とかかるだろう。しかも、連邦はそれを防止するための体制を着々(ちゃくちゃく)と備えつつある。



     ◇



 その時、入口の扉がバンと押し開けられた。何事かと思い、そちらへ目を向けた。


 男が立っている。外で何かがあったのはまちがいない。男は私の部下ではなく、古風こふうな冒険者の格好をしていたからだ。


 おそらく、エスペロの人間だろう。連中もここまでたどり着いていたのか。アルト城で大敗たいはいをきっし、態勢を整えることさえできないと思っていたのだが。


 あいつがここへ来たということは、私の部下を倒したということだろうか。いや、それほどの男がエスペロに残っていたとは思えない。人狼族と力を合わせればできないこともないだろうが……。


 部下の目を盗んで、ここまでたどり着けただけの可能性もあるか。


 男と目が合った。だが、相手はすぐに目をそらし、床に横たわる人狼へ目をてんじた。すべてをさとったようだ。肩を落としたのがわかった。


 男が歩きだす。こちらへ向かってまっすぐと。堂々(どうどう)とした足どりだ。私におくする様子がまったくないが、不思議と戦意は感じなかった。


 エスペロにはアルト城でしとめたフォルトという男以外、要注意人物はいなかったはず。ギリギリ50台があと二人いたが、もう少し年を取っていたような……。


 ――顔に見覚えがある。そうだ、あの男もアルト城にいた。いきなり通りに飛びだしてきて、仲間を助けるために、私に攻撃をしかけてきた男だ。


 あの時、寒気さむけをおぼえるほどの気を感じた。さらに、奇妙な攻撃の正体はわからずじまいだった。〈突風〉の魔法にも思えたから、連邦の魔導士から裏切り者でも出たのかと勘違いするほどだった。


 男は歩みをとめない。思わず、私のほうが後ずさってしまった。こいつは何をしに来た。戦いに来たのではないか。さぐってみるか。


「戦いの顛末てんまつを聞きたいか?」


 男はさしたる興味を示さなかった。


「きびしい戦いだった。この人狼の戦いぶりは、賞賛しょうさんあたいするものだった」


 男はこちらを一瞥いちべつしたが、すぐに視線を人狼へ戻す。


「手にかけるのは本望ではなかった。なぜだかわかるか?」


 男がこちらを見た。


「この人狼は我々の希望だった。脅威となる敵の存在――共通の敵は、本来なら争い合ってもおかしくない国同士を連帯れんたいさせる。目先めさきの安心ばかり求める老人どもには、それがわからないのだ」


 男は何も答えず、人狼のそばにしゃがみこんだ。私の言葉が聞こえていないようなフリをした。


「すまない。遅れた」


 人狼が目を開ける。しぶとい。まだ息があったのか。


「何度も言わせるな。始めから、お前らの助けなど期待していない」


 人狼がかすれた声で答える。なぜかうれしげだ。


 男が人狼を抱きあげた。戦う気はなしか。賢明けんめいな判断だが、つまらない男だ。ここまで来たことは褒めてやりたいが。


「この場ではかたきを討てそうにない」


「……そうか」


 この場では――か。身のほどを知っているのか、知らないのか。男は無警戒な背中を見せ、立ち去ろうとした。


 あの人狼は虫の息。助かる道はないだろう。だから、見逃してやってもいいが……。


 男の態度が気に食わない。私など眼中がんちゅうにないとでも言いたげだ。


「君は戦わないのか?」


 男は足を止めない。挑発には乗らないか。


「楽しめはしたが、もの足りなかった。どれほど強いのかと期待していたが、肩すかしだったよ」


 男が立ち止まり、わずかにこちらを振り向く。


「結局のところ、私がったのはこの引っかき傷だけだ。亜人最強とうたわれた人狼でさえ、このていたらく。まったく、なげかわしいな」


 男の瞳に闘志が宿る。あと、ひと押しだろうか。


「連邦の未来は暗いと思わないか? 我々が、このあふれ出てくるようなパワーを発散はっさんするには、もはや同士討ちする道しか残されていない」


 お前はどうだ。私に立ち向かう心意気が、お前にはあるか。


 男の顔が怒りにゆがんだ瞬間だった。全身がこわばった。それは瞬時に解消されたが、なんだったんだ今のは。この私が、恐怖でも感じたというのか。


 男が扉から外へ出て行こうとする。不可解ふかかいな男だ。実力を確かめておきたかったが、その勇気にめんじて見のがしてやるか。

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