勇者(反乱者)、市街の乱戦に加勢する
◇ スニード
ムダに体力を消耗してしまった。内側にあった鉄製の門がゴチャゴチャとした仕組みだったから、面倒になって横の壁と外側の門を破壊した。
市街で人狼族が戦っているのが見えたのであせっていた。
対人戦はひさびさ。まだ若い頃は、結晶や鉱物を横取りしようとする連中とよく戦ったが、『勇者』の称号を得てからは、ケンカを売ってくる人間はいなくなった。
だから、レベル不明の人間がどの程度で気絶するかなんて、加減がさっぱりわからない。かといって、力の出し惜しみをしている余裕もない。
ここで状態異常にかかったら終わりだ。たとえ救出されても、治療を受けているうちに、すべての決着がついてしまう。それだけはなんとしてもさけたかった。
冷血卿とかいうレベル78の敵を倒すだけの力が残っているのか、いよいよあやしくなってきた。
地上の場合、全力で戦えるのはせいぜい三分。自然に回復する量は一日でそれと同程度らしいから、要は八時間休んでも、一分間しかのびない。
城壁の上での戦いも、はたから見ている以上に力を使った。数秒間ためた全力の波動を、広範囲に向けて撃ち放つ。得られた結果を考えれば、これは看過できる。問題は防御だ。
瞬間的に爆発させる攻撃と違って、防御はエーテルの消費が大きい。いつ飛んでくるかわからない攻撃に備えなければならないからだ。
相手のレベルが20でもノーガードならそれなりのダメージを食らう。状態異常にかかりやすい俺は、なおさら慎重にならなければならない。
たとえ相手のレベル78だろうと、俺なら半分以下の力で防御できるが、裏を返せば、半分近いパワーを使って、常に防御を展開しなければならない。
残された時間は一分もないと考えるべきか。それに敵はエーテルリングとやらで回復できるから厄介だ。
こんなことになるなら、ここへ来る前に下層へ行って結晶を調達しておくべきだった。
◇
激しい戦闘の行われている中心部へ急ぐ。かなりの数の人狼と魔導士が、入り乱れて戦っているのがわかった。
通りをまがったところで、人狼とはち合わせた。
「待て! 俺たちは仲間だ!」
「例のエスペロという組織か」
「そうだ。遅れてすまない。仲間たちもすぐに来るはずだ」
「……ありがたい」
「ヴェントはどうした」
「長はあの建物で敵の大将と戦っている」
あのレベル78か。ヴェントはそいつと遜色ないレベルらしいが、早く行ってやらないと。
「ひとりで戦ってるのか?」
「敵が希望したのだ。私は長と別れてから、敵のジャマが入らぬよう外を見張っていたのだが、それまで姿を見せなかった敵がいっせいに現れた。遅れて来た仲間たちとともに反撃に出たのだが、徐々に押され始め、仲間たちと離れ離れになり、連携も取れなくなってしまった」
「そうらしいな」
「最初は互角に戦えていた……。だが、私の体力は尽きかけているのに、やつらは疲れを知らない。私が一度しとめた相手が復活していたりする」
「おそらく魔法だろう」
気絶した人間を目ざめさせる白魔法がある。手のひらの刻印からエーテル結晶を強制的に吸収させ、そのショックで目ざめさせるというものだ。
あまり一般的ではない。レベルに見合った大きさのエーテル結晶が必要だし、白魔法を使えるやつは多くない。はっきり言って、自然に起きるのを待つほうが早いんだ。
でも、身近に白魔法を使えるやつがいて、結晶を簡単に調達できる環境なら話は変わってくる。エーテルリングってやつを使ってるんだろう。よく考えたな。
問題はやつらがどれだけの数を持っているかだが……。
「長が心配だ。敵の罠にかかっているかもしれない」
ヴェントも心配だが、こいつらをほうっておくわけにもいかない。ただ、体力のことを考えると、ここで消耗したくない。
目の届くところに、〈電撃〉の魔法をぶっ放しているやつがいる。見たところレベル50以上ある。ああ、あの服装はマスタークラスか。
バターロたちはどうした。別の場所へ行ったのか、それともここへ来る途中に敵に襲われたか。どっちにしろ、あいつらにマスタークラスは荷が重いか。
「わかった。ヴェントは俺にまかせろ。とりあえず、あそこで暴れているやつだけでも片づける」
「あいつは手ごわいぞ」
「わかってる。あいつの注意を引きつけるぐらいの元気は残っているか?」
「ああ、そのぐらいなら……」
「なら行くぞ。のんびりしているヒマはない」
アイコンタクトをかわしてから、敵のいる通りへ飛びだす。人狼はわざと敵の視界に入るように、大回りに進んでいく。
対して俺は、敵の死角から一直線に接近した。敵の注意は前方を横ぎって行く人狼に引きつけられた。だが、すぐに興味を失い、こちらに気づかれてしまった。
敵の放った電撃が不規則に広がっていく。防御に使う力すらもったいない。すこしでも力を温存するため、物理的によけることにした。
これは危険な賭けだ。無防備な状態で魔法を受ければ、感電してしまい、しばらく立つことさえできなくなるだろう。
俺はいっきに飛び上がった。枝葉のようにのびていく電撃を飛び越えて、敵の背後へまわりこむ。着地後にすかさず反転し、敵に回しげりを食らわせた。
宙に浮き上がった敵が数十メートル吹き飛び、路上をころげまわる。敵は地面に倒れたまま、ピクリとも動かなくなった。
やりすぎだった。レベル50というのが頭にあるから、つい力を入れすぎてしまう。魔導士は打撃に弱いから、〈バリア〉を張っていないかぎり、手加減していいのか。
さっきの人狼が近づいてきて、敵の姿をキョロキョロとさがし始める。やがて路上に倒れた敵を発見すると、しばらく警戒するように見ていた。
「あいつはもう心配ない」
「あ、ああ……」
「まあ、魔法で目ざめさせられるから、注意したほうがいいが……、先にあっちを片づけないとな」
交差する通りの先に複数の敵を発見した。使っている魔法を見ると、一人は確実に50を超えている。
考えが甘かった。慢心していた。敵は地上での戦いに特化している。ダンジョンでモンスターと戦うのとはわけが違う。戦い方を根本から改めないといけないみたいだな。




