勇者(反乱者)、城門を撃破する
◇ ルニーナ
関所をぬけてから一時間あまりで、ダンジョンから地上へ出ました。
ここからケストハーロまではそう遠くないそうです。入口近くで見張りをしていた魔導士が、遠くに見える山のほうへ逃げていくのが見えました。
心持ち身をかがめながら、道ぞいの林をのぼって行きます。あまり意味がないように思えましたが、みなさんがやっているので私もそれにならいました。
やがて立派な城門と、それに連なる城壁が見えてきました。
「あれがケストハーロですか」
「そうです」
ケストハーロの市街は山の中腹にあって、全体が城壁に囲まれているそうです。山のふもとにも町や田畑が広がっているのが見えました。
城壁の上には見張りの姿が複数あります。間隔を置いているので、それほど数は多くありません。十数人くらいでしょうか。
「城壁はアルト城のものより低いですね」
「ダンツォくんはあれを飛び越えられますか?」
「さすがに飛び越えるのは無理ですけど、簡単によじのぼれますよ。まあ、それは上に誰もいない場合ですけど」
普通は無理ですよね。やっぱり、彼が異常なだけですか。よじのぼれるだけでもスゴいですけど。
「コツがあるんですけど、勢いをつけて連続でジャンプするんです。あれぐらいの高さなら三回ぐらいでいけますね。ただ、足をかけられる場所が少なそうなので、かなり難しい部類だと思います」
とても実践できそうにないので、そういう話は必要ないです――ていうか、私もやらされたりしないですよね!?
「あれだけ敵が待ちかまえていると、さすがのウヌオさんでも苦戦しそうですね」
「そうですよね。あそこにいて、ただ見おろしているだけなんてことはないですよね」
その彼は先頭でバターロさんと打ち合わせをしています。
「出入りできるのはあの門だけか?」
「北側にもあるが、山の反対側までまわらなければならない」
彼が城門のほうへ目をこらします。頑丈そうな巨大な門です。ただ、鉄板でふちを補強されていますが木製です。
「城内を見ているやつが多いな」
彼が言いました。言われてみると、こちらを警戒している人より、内側を見おろしている人が多いです。
「もう人狼族との戦闘が始まってるのかもしれないな」
「そうだな。急ごう」
彼がこちらを振り向きました。
「俺が上にいる連中を片づけてから、中に入って門を開ける」
彼らしい大胆で無謀な作戦です。でも、関所での戦いぶりを見ると、簡単にやってのけてしまいそうな気がします。
「あれだけ数がいても大丈夫か?」
「大丈夫さ。下で敵の注意をひきつけていてくれ」
「……わかった」
みなさん、もの分かりが良すぎじゃないですか? なんかもう、親鳥について行くヒナのようになっています。
「ウヌオさん、気をつけてください」
ダンツォくんが声をかけます。
「ああ。お前は門が開くまでここで待ってろ」
しばらくタイミングを見計らった後、彼が城壁に向かって走りだしました。
「ウヌオに遅れるな! 俺たちも続け!」
それと同時に、みなさんもいっせいに飛びだし、左右に散らばっていきます。ダンツォくんが私の手を取って言いました。
「俺たちももう少し近づきましょう」
私たちも林から出ない程度に前へ進みます。
〈火炎〉や〈電撃〉の魔法など、敵の攻撃が飛びかいます。無差別に放たれているので、こちらへもバンバン飛んできます。冷や汗ものですが、今度こそは彼を見失わないようにします。
城壁までは開けた場所であることに加え、彼ひとりだけ前に飛びだしているので、居場所はひと目でわかります。
彼が軽快な動きで魔法をかわしていきます。ある程度城壁に近づいたところで大ジャンプを見せて、直接その上におり立ちました。
「ひとっ飛びでいけるんですか……」
ダンツォくんは意表をつかれ、開いた口がふさがらない様子です。
動揺しているのは他のみなさんも同じです。ぼう然と城壁の上を見上げたり、キョロキョロと彼の姿をさがしている方もいます。
その時、閃光が走りました。例の波動が重低音を立てながら、城壁の上を走っていきます。
それによって、十数メートル離れた場所にいた魔導士すらバタバタと倒れていきます。さらに、彼は疾風のようにかけぬけて行き、敵を残らず倒してしまいました。
敵の攻撃がピタリとやみました。城壁の上に立つのは、もう彼しかいません。一連の動きを見てなかった方は、不思議そうに城壁を見上げています。
そんな方たちを尻目に、彼は下におりるというジェスチャーをした後、城壁の上からいなくなりました。
「もう安全みたいですから、自分たちも行きましょうか」
「そうですね……」
バターロさんのもとへ人が集まりだしていたので、私たちもそちらへ向かいました。
「何がどうなったんだ?」
「ウヌオが上の敵をすべて倒したんだ」
「……もう倒したの?」
「それで今はどこに……?」
まだ状況を把握できていない方が多数いらっしゃるようです。
「開けるぞ! 下がってろ!」
城門のほうから、彼のくぐもった大声が聞こえてきたかと思うと、爆発音がひびき、木片が勢いよく飛び散りました。
城門を見ると、向かって右の扉の下部に、人が通れるぐらいの大穴があいています。ほどなく、彼がそこから身を乗りだしてきました。
「急げ! 人狼たちはもう戦っているぞ!」
「お、おう……」
破天荒すぎます。みなさんリアクションに困っています。
あと、これだけはツッコませてください。城門を破壊するなら、わざわざ城壁を越える必要なかったですよね。




