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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
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ヴェント(人狼)、冷血卿と激突する

     ◇ ヴェント



 向かい合うのはかつてない強敵。自身と遜色そんしょくない力の持ち主と生死せいしをかけた戦いをするのは、これが初めてかもしれない。


 戦闘態勢――四足歩行に入り、慎重に出方でかたを見きわめる。やつが右手をかまえた。魔法はあの手の先からはなたれる。


 右前足を力強くふみだし、いっきに距離をつめた瞬間、やつが広範囲こうはんいに向けて炎を放った。とっさに横っ飛びで回避し、相手の右サイドにまわりこんだ。


 今の一撃を見ただけでわかった。これまで戦ってきた人間とは次元じげんが違う。うかつに接近するのはマズい。特に正面からは厳禁げんきんだ。


 どういった対応をするか、ためしに背後へまわってみよう。相手を見すえながら、一歩ずつ横に移動する。やつはかまえた手をおろさず、こちらの動きに合わせて体の向きを変えた。


 今度は三メートルほど横に飛んだ。すると、牽制けんせいするように炎を放ってきた。あわてて回避し、ちょうど入口の反対側までやって来た。窓からさしこむ光が背中に当たる。


 やつは同じ場所から、ほとんど動いていない。どうあってもそこを動かないつもりか。接近戦をさけるためには、下手へたに動かないほうが得策ということだろう。


 我々の身体しんたい能力は人間よりはるかに高い。魔法を使う連中は人間の中でも低いと聞くから、それをさけようとするのはにかなってる。


 我々はエネルギーたるエーテルの大半を、ほぼ身体能力の強化きょうかに注いでいる。卓越たくえつしたスピードの源泉げんせんはそこにある。


 ただ、それは欠点でもある。魔法のような遠距離攻撃はなく、打撃力が大幅おおはばに強化されることもない。武器となるのはキバとツメで、攻撃力という面では人間より数段すうだんおとっている。


 したがって、私が取るべき戦法はただ一つ。エーテルの消費に気をつけながら、とにかく動いてまとをしぼらせない。そして、敵の攻撃をかいくぐって接近戦に持ちこむ。


 やつの魔法がノーガードのまま直撃したら、ひとたまりもないが、右手をかまえるという動作どうさがあるので、それを確認してからガードを展開てんかいしても遅くはない。


 私はとにかく走りに走った。翻弄ほんろうするようにスピードに緩急かんきゅうをつけ、時には壁を走るなどのイレギュラーな動きも取り入れた。


 やつの対応は的確てきかくだった。小さな炎の球を闇雲やみくも乱発らんぱつしたのだ。四方しほう八方はっぽうへ放たれたそれを回避するため、それに全神経を向けなければならなかった。


 部屋のすみに追いこまれそうな気がして、私は足を止められなくなった。もしかすると、やつの得意戦法にすでに引きずりこまれたのかもしれない。


 この場所は私が動きまわるのにはせまく、やつの攻撃がすみずみまで届く、ほど良い広さであることを痛感つうかんした。


 何度か接近を試みたが、やつはその時だけ大技おおわざをくりだした。まるで私の動きを完全に読んでいるようだ。


 距離の取り方や、接近を牽制する攻撃。すべてが絶妙ぜつみょうすきがない。レベルが高いだけではない。やつは戦闘技術もなみはずれている。


 突破口とっぱこうが見いだせない。このままでいいのか。



     ◇



「スタミナに自信はあるか?」


 ふいにやつが声をかけてきた。


「お前はあるようだな」


「自信はない。だが、私にはこのエーテルリングがある」


 やつが右手の指にはめたそれを見せびらかす。数は三つか。聞いた話では、結晶が消失しないよう魔法で封印ふういんしたものらしい。ただの結晶だとしても、かなりの脅威だ。


「それは使わないのか?」


「それなら、お言葉に甘えようか」


 やつはコブシをにぎって、ブツブツと何かをとなえ始めた。ほどなく、右手周辺でエーテルの光がほとばしった。


 そうだったな。口から飲みこむ我々と違い、人間は手のひらから吸収するんだった。


 やつの顔に活気かっきがみなぎっていく。余裕の笑みまで浮かべた。この回復をあと二回行えるわけだ。かたや、私は回復を行うすべを持っていない。


 だが、このことは私にとって好材料とも言える。力をセーブしながらの戦いだったこちらと違って、やつはずっと全力で戦っていた証明になるからだ。


 どうりで攻撃が激しすぎると思った。いたずらに使っていたわけではないだろうが、回復しなければならないほど、すでに力を使い果たしていたわけだ。


 もう半分も残っていないが、こちらはまだ余裕がある。劣勢れっせいであることに変わりないが、希望が見えてきた。やつは豊富に力が使えるだけで、実力的に遜色ないことが確認できた。


 とはいえ、このままズルズルと戦いが長引けば、ますます不利になっていくのは明白めいはく。リスクを取ってでも決着を急がなければならないか。


 やつの魔法はかまえてから炎がふきだすまで時間がある。そのわずかな時間を利用して、勝負を決めに行くしかない。


 敵の不意ふいをつき、一瞬でも油断を引きだせれば――。


 壁を利用できれば、どうにかなりそうだが、やつはフロアの中央から動こうとしない。なんとかして、そちらへ誘導できないか。


 私はそれを実行に移した。やつの周囲をまわるのをやめ、危険を承知しょうちで正面から接近と退避たいひをくり返す。そして、気取けどられないように、徐々(じょじょ)に壁のほうへ押しこんでいく。


 やつと壁の距離がせばまってきた。近づきすぎると、目論見もくろみがバレてしまう。適度てきどなところでそれをやめ、私は最後のけに出た。


 渾身こんしんの力でジャンプし、やつの頭上ずじょうを猛スピードで飛びこえた。そして、壁を足場に反転して、反撃を受ける覚悟で飛びかかる。


 成功だ。やつの反撃より、私の攻撃が届くほうが早い。


 ところが、やつはわるあがきを見せた。魔法の発動が間に合わないと見て、右手をかまえたまま、後方へ飛んだのだ。


 だが、それはわずかな距離。ジャンプに勢いもない。これならいける。こちらのツメがやつに届くのが先だ。


 その時だった。息が止まるかと思うほどの突風とっぷうが顔にかかってきた。さらに、やつの体が加速するように遠ざかっていく。私のツメはおしくもくうを切った。


 そうか。やつは魔法で風を起こしたのか。


 よくぞ、とっさの判断で。感嘆かんたんしながら苦笑いを浮かべた瞬間、視界のはしで炎がほとばしった。

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