ヴェント(人狼)、冷血卿と対峙する
◇ ヴェント
誰とも出会うことなく、城門にたどり着いた。
「敵の姿は見当たりません」
「守る価値はないということか」
三人で手分けして付近を確認したが、敵は逃げおおせたあとだった。身のほどを知っているとも言えるが、誘いこまれている気がしてならない。
「この門はどうなっているのでしょうか」
「この塔の中で何かをするのでしょうか」
外側の門はカンヌキでかたく閉ざされているだけだったが、鉄でできた内側の門は、複雑な仕掛けがほどこされ、我々には開ける方法がわからなかった。
「トンドロ。お前はいったん外に戻り、仲間たちが城壁をのぼるのを手助けしてやってくれ」
「わかりました」
ブランコを従えて市街を進んだ。通りの中央を堂々と進んでも、敵はいっこうに姿を見せない。避難した後なのか、住人の姿も見えなかった。
市街の中心地までやって来ると、建物のかげや、屋上に隠れる敵を遠目に発見したが、攻撃してくる気配はなかった。
「張り合いがありませんね」
「好都合だ。さっさと敵の大将の首を取るぞ」
そうは言っても、まだ決めあぐねている。確実に勝利するには、まずはザコを倒すことを優先し、敵の大将は後回しにすべきだろうか。
実力が拮抗しているなら、体力を回復してからでないと心もとない。姿を見せないところをみると、長期戦でこちらを消耗させようとしているようにも思える。
「待て!」
我々の行く手をさえぎるように、ひとりの敵が飛びだしてきた。これまでの相手とは違う。かなりの実力者だと、対峙しただけでわかった。
「お前が敵の大将か?」
「私は違う。貴殿は人狼族の長、ヴェント殿か」
かたくるしい男だ。何かたくらみがあるとしか思えないが、話ぐらいは聞いてやるか。
「だとしたらなんだ。降伏するとでも伝えに来たのか?」
「いや、ミロ卿は貴殿と一対一で戦われることをお望みだ」
「……一対一で?」
ふん、一対一なら勝てるとでもいうのか。おもしろい。どんなツラをしているのか、早く拝みたくなってきた。
「罠ではないでしょうか?」
「もしそうだとしても、返り討ちにするまでだ」
ここはやつらの庭。油断は禁物だが、信じてみるか。
「お前らの大将はどこにいる?」
「天守の大広間でお待ちになっている」
男が近くの巨大な建物を指さす。遠くからでも目立っていたあの建物だ。
男の案内を受け、建物の正面にまわる。門をぬけた先にある大きな扉は、私を迎え入れるように開かれていた。
「ブランコ。お前は外を見張っていろ」
「はっ」
「もし私に何かあった場合、トルドロと二人で仲間たちを指揮しろ」
「……」
「もしもの場合だ。そんな顔をするな」
「……はっ」
「まかせたぞ」
◇
正面の扉から、建物に足をふみ入れる。入ってすぐの場所は落ち着かないほど天井が高かった。
これほど巨大な部屋は初めて見た。第五階層へ初めて行った時の感覚に似ている。空間をムダに使っていると思えてならない。まったく、人間は理解に苦しむ。
部屋の広さはほどほど。一対一で戦うことを考えれば、じゅうぶんだ。我々はフィールドを縦横無尽にかけまわって戦うので、せまい場所では力を発揮できない。
ほどよい高さに張りだした通路がある。たやすく飛び乗れそうなので活用できそうだが、いかにも敵の伏兵が現れそうだ。気をつけなければ。
部屋の中央で男がたたずんでいる。気配だけで敵の大将だとわかった。高レベル特有のそれがあったからだ。
部下を一人も連れていない。不気味な雰囲気だ。私が接近してきているのに、身がまえる様子もなく、おだやかな表情を浮かべている。
「貴様が敵の大将か?」
「そうだ。君は人狼族の長――ヴェントか?」
「いかにも。部下を連れていないのか?」
反応を見きわめよう。口では一対一を望んでいると言っていたが、あやしいものだ。
「亜人最強とうたわれる男との戦いにおいて、部下など足手まといになるだけだ。君も同じ考えじゃないのか?」
実際に私もそうしたが、部下を軽んじるような言葉は口にしたくない。
「私がたったひとりで相手をすると約束しよう。ただ、そちらが仲間を呼んでくるぶんにはかまわない」
「愚弄するな。お前の相手など、私ひとりで十分だ」
男がわずかに口元をゆるめた。緊張しておらず、恐怖を感じている様子もない。表情にとぼしいのに、なぜか喜びに打ちふるえているように見えた。
絶対的な自信があるのか。それとも、戦闘に飢えているだけか。
「戦う前に一つ忠告しておこう」
「なんだ」
「君への殺害命令が出ている」
「……ほう」
「これは大変異例なことだ。君も承知しているかもしれないが、私たちは無益な殺害を控えてきた。それは遺恨を残すことになり、報復を呼びかねないからだ。よほどの重罪人でなければ、我々は見返りを条件に解放してきた」
縄張りをめぐって、やつらと衝突したことがある。それによって部下数名が行方不明となったが、後日、要求をのめば捕虜を解放すると持ちかけられた。
モンスターは狩らない。縄張りを自由に通行させてもらえればいい。悪くない条件だったため、我々は要求をのんだ。すると、約束通り、仲間全員が戻ってきた。
ただ、結果的にそれは過ちだった。やつらは我々の縄張りへ流れるエーテルをせきとめるなど、裏で工作活動を進めていたからだ。愚かにも、我々はそれに気づけなかった。
「光栄に思ったほうがいい。連邦という巨大国家が、君に恐れをなした。存在し続けてはいけない危険人物だと認定したのだ」
「……それは光栄なことだな」
あざけるように返す。だから、どうした。まともに答えるのもバカらしい。
「それを承知の上で戦ってもらいたい。私も命を奪われる覚悟で、君との戦いにのぞもう」
「愚問――。始めからそのつもりだ!」




