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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
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ヴェント(人狼)、ケストハーロ市街へ突入する

     ◇ ヴェント



 人間たちがケストハーロと呼ぶ街をおかの上から見渡す。


 北方ほっぽうの地をおかすべく、やつらがあの街を築いたのが数百年前。今まで問題視することはしなかった。なぜなら、地上で得られるものが少ないからだ。


 我々は地上で食料を得なくても生きていける。だから、ダンジョンの縄張りを守ることだけに専念せんねんしてきた。しゅとして近いオオカミと、獲物えものを奪い合うのがしのびなかったという理由もある。


 だが、我々が本来ほんらい得るべきエーテルを、やつらが横取りするようになってからは事情が変わった。ダンジョンのモンスターは目に見えて減り、腹をすかす子らが増えた。


 いよいよ見過ごせなくなり、我々は立ち上がる決断をした。うわさを聞きつけた冒険者たちから、共同作戦を持ちかけられ延期することとなったが、ついにこの日がやって来た。


 我々、人狼じんろう族の誇りをかけて戦う日が――。


おさ。もうそろそろ正午かと思われます」


「……冒険者たちは来ているか?」


「報告は入ってきておりません。まだ到着していないように思われます」


 約束は守られなかったか。父と仲間だったというスニードとかいう男。あの男だけは見込みこみがあると思ったのだが、口先だけだったようだな。


 やはり、人間は信用ならん。


「どうしますか? 彼らを待ちましょうか」


「いや、その必要はない。ただちに出発するぞ」


 丘をかけおり、身を隠しながら林を進む。何ごともなく、城壁のそばまでたどり着いた。


 眼前がんぜんにそびえる城壁を見上げる。思わずうなってしまった。これだけのものを作る技術と心意気こころいきだけは評価したい。


 だが、我々の侵入をふせぐために築いたのだろうが、この程度の壁をのぼることなど造作ぞうさもない。


「手はず通りだ。私について来れるものだけがついて来い。他の者は無理せず、門が開くのを待て」


 懸念けねん冷血卿れいけつきょうという敵の大将だ。受け入れがたい話だが、私に勝るとも劣らない実力の持ちぬしだとか。


 事実、我が里の手練てだれがそいつの手下から返り討ちにあっている。人間――特に、魔法を使う魔導士たちのレベルが、この数年で格段かくだんに上がったのは疑いようもない。


 さらに、魔導士たちは不思議な指輪を用いて、地上でもダンジョンにいるかのような力を発揮するとか。


 それが事実なら、そいつとの対決に備えて、少しでも力を温存しておかなければならない。そのためには仲間の力を最大限に借りる必要がある。


 だから、いたずらに犠牲をだすことはさけたい。できることなら、冒険者の手も借りたい。冒険者たちは我々と数百年にわたって抗争こうそうしてきた仇敵きゅうてきだが、背に腹はかえられない。


 冒険たちは反対側の南から攻撃することになっている。ここからでは状況がうかがえないが、偵察ていさつに向かわせた部下からは報告が入っていない。


 まだここへ向かっている途中で、他の場所で戦っていることは考えられる。もしそうなら、攻撃を遅らせるのは約束をたがえることにもなる。


 私は戦端せんたんを開くことを決断した。



     ◇



「行くぞ」


 城壁の上に立つ敵の配置を確認してから、そばに控えていたブランコとトンドロに呼びかけた。


「「はっ」」


 この二人にだけは、私と共に先陣をきるように前もって伝えておいた。まだ私には遠くおよばないが、いずれ後継者こうけいしゃとなるであろう逸材いつざいだ。


 いっきに城壁へ接近し、やや傾斜けいしゃのあるそれをななめに進みながら、少しずつのぼった。


 我々人狼は、ダンジョンの横壁を走る技術を、子供の頃より身につける。二本足でも四本足でも走れる我々の特性である。


 敵の攻撃が頭上ずじょうからいっせいに降りそそいだ。敵を翻弄ほんろうするように、左右に大きく移動してそれをかわす。直撃はさけられたが、何度か攻撃がかすめた。


 私ならいっきに壁をかけのぼることもできたが、よけいな力を使いたくなかった。また、それができないであろうブランコ、トンドロのためにも、少しでも敵の攻撃をひきつけたかった。


 どちらかはわからなかったが、敵の攻撃に耐えかねて、地上に引き返していくのが見えた。


 私はあっさりと城壁をのぼりきった。下から見た時と同様、上にいる敵はまばらに立っている。最も近くにいた敵は、私の姿を見るやいなや逃げ腰となった。


 猛然もうぜんとかけだして飛びかかる。反撃を受けることなく、一撃で敵をしとめた。すぐに、次のターゲットへ矛先ほこさきを移す。


 一人、二人と敵をたたき伏せていく。恐れをなした敵は、次々と持ち場から逃走を始めた。逃げ場がないとみるや、自ら街のほうへ飛びおりる者までいた。


 たわいない。骨のあるやつなど一人もいなかった。敵の大将以外は、私の足もとにもおよばないか。いや、この分だと冷血卿という男も評判倒れかもしれん。


 ブランコが城壁の上までやって来た。敵がいないのを確認してから、こちらへかけ寄ってくる。


「遅れました。なんの力にもなれず、申しわけありません」


 ブランコが頭を下げる。少し遅れて、トンドロも姿を見せた。


「かまわん。ここをのぼりきっただけでも上出来じょうできだ。それと、お前らにはこれから大暴おおあばれしてもらうぞ」


 城壁の上から市街を見渡す。壁に囲われた場所に、これだけの街が存在するのか。土地は広くないが、ところせましと建物が建ちならんでいる。


 敵の姿はほとんどない。逃げるように走り去っていく一人を発見したくらいだ。どこかに身を隠し、我々を待ちかまえているのだろうか。


 同じく冒険者たちの姿も見当たらず、戦闘が起こっている様子もない。やはり、まだここに到着していないか。


「長、急ぎましょう。敵が態勢を整えないうちに」


「お疲れなのでしょうか?」


「いや、そういうわけではない」


 バカらしい。何を期待しているのだろう。ここへ向かっているかもさだかでない連中だ。気にするだけ時間のムダか。


 街の中央にひときわ目立つ建物が存在する。おそらく、あれが敵の本拠ほんきょだな。とにかく、門を開けて仲間たちを中へ引き入れなければ。


 街へおりる階段のようなものはない。点々(てんてん)と存在し、城壁と一体となった塔から下におりるようだ。


 だが、あんなせま苦しいものに、わざわざ入るのもバカらしい。飛びおりたほうが早いな。


「下におりるぞ」


 近くにちょうど良い高さの建物があり、そこの屋根へ飛び移った。さらに、そこから地面へおりて、城門のほうへ向かった。

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