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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
41/49

勇者(反乱者)、関所を襲撃する(後)

     ◇ ルニーナ



 息のつまるような静寂せいじゃくがしばらく続いた後、彼が動きだしたことによって、戦闘が始まりを告げました。


「行くぞ!」


 岩かげから飛びだした彼は、すぐに高くジャンプして、一番手前のさくを楽々と飛び越えました。


 どこからか〈火炎〉の魔法が放たれます。見当違いの方向へ飛んでいきましたが、それに気を取られていたら、彼の姿を見失いました。


「そっちは様子を見ながら、戦闘に加われ」


 バターロさんを皮切かわきりに、前のグループの方たちがいっせいに飛びだし、左右に散らばっていきます。


「「「うおおおお!」」」


 敵を威嚇いかくするような、自身を鼓舞こぶするようなたけびが辺りにひびき渡ります。


 すると、敵方てきがたからも負けじと大声が上がり始めます。何がなんだかわかりません。声の大きさを争ってるわけじゃないですよね。


 様々(さまざま)な魔法が飛びかい始めました。主に〈火炎〉と〈電撃〉です。バターロさんたちが必死にそれを回避かいひしています。


 彼はどこに行ったのでしょう。そう思った時、雲の切れから太陽が現れたかのように、強烈な光が目につきささりました。


 一瞬、彼の姿を視界にとらえました。けれど、動きが速すぎて目で追えません。閃光せんこうが走るたびに、そちらへ目を向けますが、その時にはいなくなっています。


 この目で確認できるのは地面に倒れこむ魔導士の姿のみです。


 他のみなさんも私と同じです。彼を援護えんごしたいという思いがあるようですが、動きについて行けず、その場で右往うおう左往さおうするばかりです。


「やっぱり、ウヌオさんはスゴいです。こういうところにいる魔導士は、たいていレベル30は超えているのに、それを赤子あかごの手をひねるように倒しちゃんですから」


 そう言ったダンツォくんが、ふと後ろを振り返ります。私も釣られてそちらを見ると、そこには緑色の皮膚をした人型のモンスターがいました。


「なんだ、ゴブリンか……」


 ダンツォくんが前に視線を戻しました。さっき遠目とおめに見ましたが、近くで見るのは初めてです。身長が一メートルもないですが、知能が高くて凶暴きょうぼうらしいです。


 こちらをジッと見ています。鼻息が荒いです。フー、フー言ってます。ほうっておいていいんでしょうか。


 ゴブリンが動きだしました。近づいてきます。そのまま脇を通りすぎていき、関所のほうへ向かいました。そっちはあぶないですよ。誰か教えてあげてください。


「あれ……?」


「どうしました?」


「敵の攻撃がやみました」


「そうですね、静かになりましたね」


 閃光が走らなくなりました。他のみなさんも、キョトンとした顔で門のほうをうかがっています。


 どうやら、彼は門の向こう側へ行ってしまったようです。門は柵よりもさらに高く、扉はかたく閉ざされたたままですが、彼なら飛び越えられそうです。


 しばらくすると、門の扉がきしむ音を立てながら、ゆっくりと開かれていきます。ダンツォくんが緊張した表情で身がまえました。


 ところが、門から姿を現したのは彼でした。そして、リラックスした様子で、こちらへ手招きをしました。


 警戒しながらも、他のみなさんが門のほうへ向かい始めます。ゴブリンもそれにちゃっかり加わってます。私たちの仲間みたいになってます。


「行きましょう」


 私もダンツォくんと一緒にそちらへ向かいます。倒れた魔導士が起き上がらないか、ビクビクとしながら。門の手前側だけでも十数人が倒れています。


 門のところまでやって来ました。彼は門柱もんちゅうに寄りかかって休憩しています。先に門をぬけた他のみなさんは、立ちつくしたまま、ぼう然と辺りを見回しています。


 おそるおそるのぞきこんでみると、そちら側にも同じくらいの人数が倒れていました。みなさん、思い思いの格好で気を失っています。


「もう全員倒したんですか?」


「ああ」


 ダンツォくんの問いかけに、彼があっけらかんと答えます。ただ、その顔には多少の疲れが見えます。


「マスタークラスはいなかったのか……?」


「ん?」


 彼が地面に横たわる魔導士たちへ目を向けます。


「そいつのことか?」


 彼が指さしたほうを見ると、色の違うローブを着た人が倒れています。一見いっけんしてえらい人だなってわかります。同じ服装の人をもう一人発見しました。


 私は今さら驚きません。レベルがマイナスだったり、彼が普通の冒険者でないと知っていますから。でも、他のみなさんはなかなか現状を受け入れられないようでした。



     ◇



「ケガ人はいるか?」


 彼が呼びかけると、バターロさんが人数を数え始めました。


「誰もいない。ウヌオのおかげだ」


「よし、先を急ごう」


 人狼じんろう族との間で取り決めた攻撃開始の時刻は正午だそうです。出発前の話では、スムーズに事が運んだとしても、それに間に合うかどうかという話でした。


「ちょっと待ってくれ。こいつらをしばり上げたほうがいい」


「この様子なら数時間は目ざめないだろ」


「いや、助けが来るかもしれないし、はさみ撃ちでもされたら面倒だ」


「それもそうか」


 エーテルを用いた攻撃を受けて失神しっしんした場合、五時間程度は目ざめません。ほおをたたいたり、ゆすったりしてもムダです。


 ただ、エーテルを補給してあげると意識を取り戻します。白魔法を用いて、手のひらから結晶を吸収させるのです。


 みなさんで手分てわけして、縄や引きさいた服で両手両足をしばり、さらに布を右手に巻きつけています。魔導士は右手の刻印こくいんがおおわれると、魔法が使えなくなるからです。


 小屋の中にあった二つのろうに全員運び入れました。そこは横にもなれないせまい場所だったので、かき集められた落ち葉のようになっています。さすがに同情しました。


 見張りとしてその場に三人残すことを決めてから、私たちはケストハーロへ向けて出発しました。

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