勇者(反乱者)、関所を襲撃する(後)
◇ ルニーナ
息のつまるような静寂がしばらく続いた後、彼が動きだしたことによって、戦闘が始まりを告げました。
「行くぞ!」
岩かげから飛びだした彼は、すぐに高くジャンプして、一番手前の柵を楽々と飛び越えました。
どこからか〈火炎〉の魔法が放たれます。見当違いの方向へ飛んでいきましたが、それに気を取られていたら、彼の姿を見失いました。
「そっちは様子を見ながら、戦闘に加われ」
バターロさんを皮切りに、前のグループの方たちがいっせいに飛びだし、左右に散らばっていきます。
「「「うおおおお!」」」
敵を威嚇するような、自身を鼓舞するような雄たけびが辺りにひびき渡ります。
すると、敵方からも負けじと大声が上がり始めます。何がなんだかわかりません。声の大きさを争ってるわけじゃないですよね。
様々な魔法が飛びかい始めました。主に〈火炎〉と〈電撃〉です。バターロさんたちが必死にそれを回避しています。
彼はどこに行ったのでしょう。そう思った時、雲の切れ間から太陽が現れたかのように、強烈な光が目につきささりました。
一瞬、彼の姿を視界にとらえました。けれど、動きが速すぎて目で追えません。閃光が走るたびに、そちらへ目を向けますが、その時にはいなくなっています。
この目で確認できるのは地面に倒れこむ魔導士の姿のみです。
他のみなさんも私と同じです。彼を援護したいという思いがあるようですが、動きについて行けず、その場で右往左往するばかりです。
「やっぱり、ウヌオさんはスゴいです。こういうところにいる魔導士は、たいていレベル30は超えているのに、それを赤子の手をひねるように倒しちゃんですから」
そう言ったダンツォくんが、ふと後ろを振り返ります。私も釣られてそちらを見ると、そこには緑色の皮膚をした人型のモンスターがいました。
「なんだ、ゴブリンか……」
ダンツォくんが前に視線を戻しました。さっき遠目に見ましたが、近くで見るのは初めてです。身長が一メートルもないですが、知能が高くて凶暴らしいです。
こちらをジッと見ています。鼻息が荒いです。フー、フー言ってます。ほうっておいていいんでしょうか。
ゴブリンが動きだしました。近づいてきます。そのまま脇を通りすぎていき、関所のほうへ向かいました。そっちはあぶないですよ。誰か教えてあげてください。
「あれ……?」
「どうしました?」
「敵の攻撃がやみました」
「そうですね、静かになりましたね」
閃光が走らなくなりました。他のみなさんも、キョトンとした顔で門のほうをうかがっています。
どうやら、彼は門の向こう側へ行ってしまったようです。門は柵よりもさらに高く、扉はかたく閉ざされたたままですが、彼なら飛び越えられそうです。
しばらくすると、門の扉がきしむ音を立てながら、ゆっくりと開かれていきます。ダンツォくんが緊張した表情で身がまえました。
ところが、門から姿を現したのは彼でした。そして、リラックスした様子で、こちらへ手招きをしました。
警戒しながらも、他のみなさんが門のほうへ向かい始めます。ゴブリンもそれにちゃっかり加わってます。私たちの仲間みたいになってます。
「行きましょう」
私もダンツォくんと一緒にそちらへ向かいます。倒れた魔導士が起き上がらないか、ビクビクとしながら。門の手前側だけでも十数人が倒れています。
門のところまでやって来ました。彼は門柱に寄りかかって休憩しています。先に門をぬけた他のみなさんは、立ちつくしたまま、ぼう然と辺りを見回しています。
おそるおそるのぞきこんでみると、そちら側にも同じくらいの人数が倒れていました。みなさん、思い思いの格好で気を失っています。
「もう全員倒したんですか?」
「ああ」
ダンツォくんの問いかけに、彼があっけらかんと答えます。ただ、その顔には多少の疲れが見えます。
「マスタークラスはいなかったのか……?」
「ん?」
彼が地面に横たわる魔導士たちへ目を向けます。
「そいつのことか?」
彼が指さしたほうを見ると、色の違うローブを着た人が倒れています。一見して偉い人だなってわかります。同じ服装の人をもう一人発見しました。
私は今さら驚きません。レベルがマイナスだったり、彼が普通の冒険者でないと知っていますから。でも、他のみなさんはなかなか現状を受け入れられないようでした。
◇
「ケガ人はいるか?」
彼が呼びかけると、バターロさんが人数を数え始めました。
「誰もいない。ウヌオのおかげだ」
「よし、先を急ごう」
人狼族との間で取り決めた攻撃開始の時刻は正午だそうです。出発前の話では、スムーズに事が運んだとしても、それに間に合うかどうかという話でした。
「ちょっと待ってくれ。こいつらをしばり上げたほうがいい」
「この様子なら数時間は目ざめないだろ」
「いや、助けが来るかもしれないし、はさみ撃ちでもされたら面倒だ」
「それもそうか」
エーテルを用いた攻撃を受けて失神した場合、五時間程度は目ざめません。ほおをたたいたり、ゆすったりしてもムダです。
ただ、エーテルを補給してあげると意識を取り戻します。白魔法を用いて、手のひらから結晶を吸収させるのです。
みなさんで手分けして、縄や引きさいた服で両手両足をしばり、さらに布を右手に巻きつけています。魔導士は右手の刻印がおおわれると、魔法が使えなくなるからです。
小屋の中にあった二つの牢に全員運び入れました。そこは横にもなれないせまい場所だったので、かき集められた落ち葉のようになっています。さすがに同情しました。
見張りとしてその場に三人残すことを決めてから、私たちはケストハーロへ向けて出発しました。




