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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
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勇者(反乱者)、関所を襲撃する(前)

     ◇ ルニーナ



 こんな日がやって来るとは夢にも思いませんでした。


 今日、私は連邦という巨大国家に反旗はんきをひるがえします。ついこの間まで、連邦の方と同僚どうりょうとして働いていた日々がウソのようです。


 でも、この目まぐるしい状況に、いい加減慣れてきました。そんな自分が怖いです。彼がマヒしやすい体であるように、私の感覚もマヒしてしまったのかもしれません。


 夜明け前にたたき起こされ、すぐさま出発です。


 私たちは二つのグループに分かれて、ダンジョンを進むことになりましたが、少し距離を取るぐらいだそうです。


 ちなみに、彼とは別行動です。彼は前のグループ、私は後ろのグループにいます。ダンツォくんは一緒にいます。彼は私のボディーガードをしてくれているんです。


 昨夜、彼からこんな話をされました。


「ダンツォ、お前は無理して戦わなくてもいいからな。後方でルニーナのことを死ぬ気で守ってくれ」


「わかりました」


「俺にもしものことがあったら頼んだぞ」


「はい」


 私を死ぬ気で守れだなんて、彼の温かい気づかいが胸にしみます。ただ、私は勘違いしていません。たぶん、ダンツォくんはしています。


 一見いっけん、感動的な話に思えますが、状態異常にかかったら、私をそこへ連れて行けという指示です。むしろ、遠回とおまわしに私へ指示しています。


 彼は状態異常にかかりやすいこと、レベルがマイナスであることを、まだ秘密にしています。いまだにウヌオという偽名ぎめいを使っていますし。


 もう私もその名で呼んでいます。ていうか、彼の本名はなんでしたっけ。ノルダピエードで一度聞いた気がするんですが、口止くちどめされたので忘れてしまいました。



     ◇



「彼女も連れて行くのか?」


 出発の前に、監獄で同室だったバターロさんが、私の身を案じてくれました。これが自然な感想だと思います。


「ルニーナさんは〈治癒ちゆ〉の魔法が使えるスーパー魔導士なんです」


 ダンツォくんが代わりに答えます。


 ダンツォくんは彼に心酔しんすいしていますから、私に対する態度も丁重ていちょうです。彼はスゴい。だから、彼と一緒にいる私もスゴい。そんな感じの理由だと思います。


 ダンツォくんはもう彼の言うことをなんでも聞きます。何気なにげないしぐさや走り方のマネをし始めたり、ちょっと気持ち悪いぐらいです。


 ダンジョンはモンスターを倒しながら進みました。今回ばかりは自分の足で進みましたが、ダンツォくんがこまめに結晶を用意してくれたので、体力的には楽でした。


 ただ、きたえていない足が悲鳴を上げています。年寄りみたいことを言いますが、ヒザとか足首とか、節々(ふしぶし)がスゴく痛いです。


 四時間ほど走ったあとのことです。前のグループが立ちどまり、私たちのグループは慎重に距離をつめました。どうやら、敵と遭遇そうぐうしたわけではなさそうです。


「敵が予想以上に頭数あたまかずを用意していました。関所せきしょだけでも三十はいます。マスタークラスを二人確認しました」


「マスタークラスが二人か……」


 前のグループは偵察ていさつの方から報告を受けていました。


「マスタークラスってなんですか?」


「レベル50以上です。色の違うローブを着ているので、ひと目でわかるんです」


 ダンツォくんが教えてくれました。そんなクラス分けがあったんですか。


冷血卿れいけつきょうがいたりしないよな?」


「ええ、見当たらなかったです」


「あいつがいたら全滅ぜんめつだ」


「冷血卿というのは敵のボスです。レベルが80近くあるそうです」


 ダンツォくんが聞かないうちに解説してくれました。アルト城で見た、あの人のことでしょう。この間もチラッと名前を耳にしました。


「まあ、冷血卿はケストハーロにいるだろ。あのヴェントっていう人狼族のリーダーを相手にしないといけないからな」


「ヴェントは強いのか?」


「ああ、亜人あじん最強とうたわれるぐらいだからな。冷血卿に匹敵ひってきするレベルだと聞いている」


「そこまでなのか」


「情けない話だが、冷血卿の相手をできるのはうちの組織にいない。彼の存在ぬきでは、連邦に立ち向かおうなどと考えもしなかっただろう」


 数日前に会った人狼の方は有名な方だったんですか。確かに、ものスゴい威圧感がありました。


「どうだ、ウヌオ。やれそうか?」


「ああ。対人戦は経験が少ないから、勝手がわからないが……。とにかくレベルが高いのは俺にまかせてくれ」


 彼は巨大モンスターを目の前にしても平然としていたのに、今は自信なさげな表情をしています。相手が魔導士なので、状態異常の魔法が怖いのでしょう。


「状態異常の魔法を使ってきたりするんですか?」


「……状態異常ですか? 相手のレベルが高いと効果がないですから、接近戦では使ってきませんよ。不意ふい討ちとか、倒した相手の拘束こうそくに使うぐらいだと思います」


 あまり心配はいらないみたいですね。彼の弱点が知られていれば、話は変わってきますが……。



     ◇



 前のグループにつかず離れずで進むこと数十分。第四階層ほどではないですが、道がだいぶ広くなってきました。


「もうそろそろですよ」


 ダンツォくんが不安をあおってきます。私は後ろで見てるだけ、私は後ろで見てるだけと心を落ち着かせます。


 前のグループの足どりが、しだいに慎重なものになっていき、そして、ついに全員の足が止まりました。その先に広い空間が見えます。


 追いついた私たちは、前のグループがいる反対側の壁に張りつきました。


 開けた場所には何重なんじゅうにもさくが立てられ、その向こうに立派な門と小屋が見えます。ダンジョンの中にこんなものを作ったんですか。


 魔導士が何人か見えます。すでに配置について戦闘態勢を整えています。おそらく、私たちの到着に気づいているのでしょう。


「俺がいっきに片づける」


「待て、ウヌオ。マスタークラスが二人もいるんだぞ」


「問題ない、俺にまかせろ。取りこぼしたのは頼む。あと、無理はしなくていいから、大声でもあげて、少しでも敵の攻撃をひきつけてくれ」


 彼の気持ちはわかります。自分に敵の攻撃が集中するのが怖いのでしょう。状態異常の魔法がひとつでもまざっていたら、一巻いっかんの終わりですから。

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