勇者(反乱者)、関所を襲撃する(前)
◇ ルニーナ
こんな日がやって来るとは夢にも思いませんでした。
今日、私は連邦という巨大国家に反旗をひるがえします。ついこの間まで、連邦の方と同僚として働いていた日々がウソのようです。
でも、この目まぐるしい状況に、いい加減慣れてきました。そんな自分が怖いです。彼がマヒしやすい体であるように、私の感覚もマヒしてしまったのかもしれません。
夜明け前にたたき起こされ、すぐさま出発です。
私たちは二つのグループに分かれて、ダンジョンを進むことになりましたが、少し距離を取るぐらいだそうです。
ちなみに、彼とは別行動です。彼は前のグループ、私は後ろのグループにいます。ダンツォくんは一緒にいます。彼は私のボディーガードをしてくれているんです。
昨夜、彼からこんな話をされました。
「ダンツォ、お前は無理して戦わなくてもいいからな。後方でルニーナのことを死ぬ気で守ってくれ」
「わかりました」
「俺にもしものことがあったら頼んだぞ」
「はい」
私を死ぬ気で守れだなんて、彼の温かい気づかいが胸にしみます。ただ、私は勘違いしていません。たぶん、ダンツォくんはしています。
一見、感動的な話に思えますが、状態異常にかかったら、私をそこへ連れて行けという指示です。むしろ、遠回しに私へ指示しています。
彼は状態異常にかかりやすいこと、レベルがマイナスであることを、まだ秘密にしています。いまだにウヌオという偽名を使っていますし。
もう私もその名で呼んでいます。ていうか、彼の本名はなんでしたっけ。ノルダピエードで一度聞いた気がするんですが、口止めされたので忘れてしまいました。
◇
「彼女も連れて行くのか?」
出発の前に、監獄で同室だったバターロさんが、私の身を案じてくれました。これが自然な感想だと思います。
「ルニーナさんは〈治癒〉の魔法が使えるスーパー魔導士なんです」
ダンツォくんが代わりに答えます。
ダンツォくんは彼に心酔していますから、私に対する態度も丁重です。彼はスゴい。だから、彼と一緒にいる私もスゴい。そんな感じの理由だと思います。
ダンツォくんはもう彼の言うことをなんでも聞きます。何気ないしぐさや走り方のマネをし始めたり、ちょっと気持ち悪いぐらいです。
ダンジョンはモンスターを倒しながら進みました。今回ばかりは自分の足で進みましたが、ダンツォくんがこまめに結晶を用意してくれたので、体力的には楽でした。
ただ、鍛えていない足が悲鳴を上げています。年寄りみたいことを言いますが、ヒザとか足首とか、節々がスゴく痛いです。
四時間ほど走ったあとのことです。前のグループが立ちどまり、私たちのグループは慎重に距離をつめました。どうやら、敵と遭遇したわけではなさそうです。
「敵が予想以上に頭数を用意していました。関所だけでも三十はいます。マスタークラスを二人確認しました」
「マスタークラスが二人か……」
前のグループは偵察の方から報告を受けていました。
「マスタークラスってなんですか?」
「レベル50以上です。色の違うローブを着ているので、ひと目でわかるんです」
ダンツォくんが教えてくれました。そんなクラス分けがあったんですか。
「冷血卿がいたりしないよな?」
「ええ、見当たらなかったです」
「あいつがいたら全滅だ」
「冷血卿というのは敵のボスです。レベルが80近くあるそうです」
ダンツォくんが聞かないうちに解説してくれました。アルト城で見た、あの人のことでしょう。この間もチラッと名前を耳にしました。
「まあ、冷血卿はケストハーロにいるだろ。あのヴェントっていう人狼族のリーダーを相手にしないといけないからな」
「ヴェントは強いのか?」
「ああ、亜人最強とうたわれるぐらいだからな。冷血卿に匹敵するレベルだと聞いている」
「そこまでなのか」
「情けない話だが、冷血卿の相手をできるのはうちの組織にいない。彼の存在ぬきでは、連邦に立ち向かおうなどと考えもしなかっただろう」
数日前に会った人狼の方は有名な方だったんですか。確かに、ものスゴい威圧感がありました。
「どうだ、ウヌオ。やれそうか?」
「ああ。対人戦は経験が少ないから、勝手がわからないが……。とにかくレベルが高いのは俺にまかせてくれ」
彼は巨大モンスターを目の前にしても平然としていたのに、今は自信なさげな表情をしています。相手が魔導士なので、状態異常の魔法が怖いのでしょう。
「状態異常の魔法を使ってきたりするんですか?」
「……状態異常ですか? 相手のレベルが高いと効果がないですから、接近戦では使ってきませんよ。不意討ちとか、倒した相手の拘束に使うぐらいだと思います」
あまり心配はいらないみたいですね。彼の弱点が知られていれば、話は変わってきますが……。
◇
前のグループにつかず離れずで進むこと数十分。第四階層ほどではないですが、道がだいぶ広くなってきました。
「もうそろそろですよ」
ダンツォくんが不安をあおってきます。私は後ろで見てるだけ、私は後ろで見てるだけと心を落ち着かせます。
前のグループの足どりが、しだいに慎重なものになっていき、そして、ついに全員の足が止まりました。その先に広い空間が見えます。
追いついた私たちは、前のグループがいる反対側の壁に張りつきました。
開けた場所には何重にも柵が立てられ、その向こうに立派な門と小屋が見えます。ダンジョンの中にこんなものを作ったんですか。
魔導士が何人か見えます。すでに配置について戦闘態勢を整えています。おそらく、私たちの到着に気づいているのでしょう。
「俺がいっきに片づける」
「待て、ウヌオ。マスタークラスが二人もいるんだぞ」
「問題ない、俺にまかせろ。取りこぼしたのは頼む。あと、無理はしなくていいから、大声でもあげて、少しでも敵の攻撃をひきつけてくれ」
彼の気持ちはわかります。自分に敵の攻撃が集中するのが怖いのでしょう。状態異常の魔法がひとつでもまざっていたら、一巻の終わりですから。




