勇者(反乱者)、ブルアルバーロに急いで戻る
◇ ダンツォ
俺たちは人狼族の里をあとにした。
ケストハーロの攻撃に参加すると、ウヌオさんが人狼族と勝手に約束をしてしまった。でも、あくまでウヌオさん個人がした約束で、自分たち――エスペロが守る義務はない。
ただ、ウヌオさんはトロールを一撃で倒すような人だ。そんな人が力になってくれるなら、フォルトさんがぬけた穴を埋めるどころではない。補ってあまりあるかもしれない。
レベル39だというのは気がかりだけど、ただ単にウソをついている可能性もある。自分の目で確認したわけじゃないし、冒険者がレベルを偽ることはめずらしくない。
あの強さを見ると、いくらなんでもサバを読みすぎている気もするけど。
「あんな約束しちゃっていいんですか? 私たちは部外者ですよね?」
ルニーナさんも批判的な考えのようだ。
「ついさっき当事者になったんだ」
「……それに私も加わってますか?」
「心配するなって」
「どういう意味合いですか? あいまいな答えはやめてください」
あいまいにしたまま、ウヌオさんがこちらを向いた。
「仲間との合流場所にまちがいはないか?」
「……はい、ブルアルバーロでまちがいありません」
「二日もあれば戻れるな。すぐにでも出発するぞ」
「それはかまいませんけど、約束はできません。俺、エスペロでは下っぱの下っぱですし、組織の方針に口をだせる立場じゃないんです。それに、そこへ仲間が集まっているかどうかも保証できません」
「それならそれでかまわない。さっきも言っただろ。たとえ俺ひとりでも行く。人狼たちだけに戦わせるわけにいかない」
「でも……」
「連邦の魔導士は第四階層のモンスターより手強いか?」
連邦にはレベル50台の魔導士が当たり前のようにいるし、冷血卿にかぎれば、第四階層のモンスターより強い。だけど、それをもしのぐ力をウヌオさんに感じる。
「俺を信じろ、ダンツォ」
信じようと思った。この人に賭けてみたいと、心から思った。
「わかりました。いえ……、感動しました。エスペロのみんなが行かなくても、自分だけはついて行きます」
「よし、その意気だ。ただ、本音を言えば、もっと仲間がほしい。俺にだって限度があるからな。そこまで時間に余裕はない。急ごう」
◇
いったん第四階層までおりてから、大陸に渡る道を選んだ。
行きと同様、ウヌオさんはルニーナさんを抱きかかえながら進んだ。ただ、走るスピードが二倍近くになっている。ついて行くだけでも大変だ。行きの時はあれでもセーブしていたんだ。
行く手に立ちはだかるモンスターを、ウヌオさんは数メートル離れた場所から倒す。モンスターがこちらに気づいていなければ、その脇を平然とかけぬけて行くので、ヒヤヒヤものだった。
「ダンツォ、拾える結晶は拾え!」
そう指示を出されたけど、走りながら拾えたのは五回に一回ぐらい。急いだけど、その日のうちに大陸へ渡ることはかなわず、また野宿をすることになった。
翌日は朝から走り続け、大陸に渡ることはできたけど、ブルアルバーロにたどり着くのは無理そうだったので、行きの時にも立ち寄った小さな町で宿を取った。
まだブルアルバーロまで距離がある。ただ、朝から走れば、昼頃には到着するはずだ。
ケストハーロ襲撃は明後日。仲間が集まらず、解散している可能性だってある。今はみんながいることを祈るしかない。
◇
朝食もそこそこに、翌日も朝イチから走り続けた。ルニーナさんはウヌオさんに抱かれているのに慣れたようで、赤んぼうのように腕の中でウトウトしていた。
ブルアルバーロの近くまで来たところで、安全を考慮して地上へ出ることにした。北方へ向かう街道が近くを通っているし、ダンジョンにも有名なルートが多い。
そのため、この辺りは連邦の魔道士たちの行き来が多い。道のせまい上層で遭遇したら戦うしかない。地上は地上で危険だけど、逃げ場があるだけマシだ。
ルニーナさんは地上に出てから背中へ移動した。さすがに、人目を気にしたらしい。途中、魔道士をふくむ連邦の一団と遭遇したけど、なんとかやりすごせた。
魔導士の格好をしたルニーナさんが、カモフラージュに役立っているのかもしれない。彼女はとても冒険者に見えない。
◇
昼すぎにブルアルバーロに到着した。
集合場所と言われていた酒場はまだ開いていない。その近くの交差点へ行って、目立つところに立っていたけど、仲間はなかなか現れなかった。
「本当にここなのか?」
「はい……」
ここは連邦の街ではないけど、やつらがいてもおかしくない。
しばらく待っていると、「おい」と背後から声をかけられた。振り返ると、知り合いではないけど、見たことのある冒険者が立っていた。
「フォルトの仲間か?」
「はい」
「こっちだ」
男のあとをついて行く。小さな宿屋の多い通りに入った。
「連邦がかぎまわっているから、アジトを別の場所へ移したんだ」
「みんな無事ですか?」
「無事といえば無事だ。さすがの連邦も、よその国でしかけてきたりしないさ。だが、予定の半分も集まっていない。特にフォルトのとこは数えるほどしか来ていない」
うちのギルドからは三十人以上が反乱に加わる予定だった。やっぱり、みんな捕まってしまったんだ。あそこから逃げられただけでも奇跡だったのかもしれない。
宿屋の一つに入ると、見慣れた顔を見つけた。アルト城から一緒に脱出したバターロさんだ。ヒゲをそったようで、顔がさっぱりしている。
「ダンツォ、無事だったか」
「バターロさんも」
「何度も捕まりかけたけどな」
バターロさんと肩を抱きあって、無事を喜びあう。
「おお、二人も一緒か!」
確か、ウヌオさんたちとは監獄で同室だったんだっけ。
「人狼族の里へは行けたのか?」
「はい、ウヌオさんのおかげで」
「そうか。恩に着るよ。脱獄の時といい世話になりっぱなしだな」
「気にするな」
「それで、人狼族はなんと言っていた?」
「そのことなんですが……、人狼族はこっちが参加するしないに関わらず、予定通り決行するつもりだって」
「……そいつは弱ったな」
「こっちはどういう話になってるんだ?」
ウヌオさんが話に加わってきた。
「みんなあきらめている。もう街を離れたやつすらいる。今の戦力では、ケストハーロにたどり着けるかどうかもあやしいからな」
ウヌオさんの表情がくもる。話を切りだしづらくなった。ただ、決心はにぶっていないようだ。
「話がある。できるだけ人を集めてほしい」




