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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
37/49

勇者(反乱者一味)、親友グリゾの死を知る

     ◇ スニード



 ダンツォが肩を落としている。かける言葉が見つからない。


 ただ、単独でも決行けっこうすると言っているあいつらに、俺たちがとやかく言う権利がないのは事実。


 ダンツォはやるだけのことはやった。すじは通したのだから、気にむ必要はないと思う。まあ、人狼じんろう族とエスペロの協力関係は終わってしまうだろうが。


「待ってくれ」


 グリゾのことを思いだし、部屋を出て行ったヴェントを追いかけた。


「グリゾという名の人狼をさがしているんだが……」


「……グリゾという名は、我々人狼の中ではありふれたものだ。それだけではわからない」


 見張りからも同じことを言われたな。灰色という意味だから、体毛たいもうの色に由来ゆらいしているからだろう。


「生きているとしたら、年齢は五十くらいだ。この里に住んでいたのはまちがいない」


「……心当たりがある。もう少し情報はないか」


 ヴェントの顔つきが変わった。


「レベルが相当そうとう高かったはずだ。あと、人間と冒険に出ていた」


 それを聞いたとたん、ヴェントは顔をそらして黙りこくった。こちらへ体を向けようともしない。


「おそらく、我が父だ」


「……本当か?」


「父とはどういう関係だ」


「あいつと一緒に冒険へ出ていた」


「……バカな。人間に興味などないが、お前が父と冒険に出ていた年齢とは思えぬ」


「深い事情があるんだ。信じてもらえないかもしれないが、二十年間、石化状態にあった。元々の年齢は変わらない」


「二十年……」


「名前はスニードだ。聞きおぼえはないか?」


 グリゾのことが気にかかり、つい本名を口走くちばしってしまった。


「……」


 ヴェントは近くの人狼へこう語りかけた。


「長老はどこにいる。この男の言っていることが、真実かどうか確かめたい」


 その後、俺は白髪しらがまじりの人狼のもとへ案内された。足腰あしこしが弱っているようで、座ったまま応対された。


「おお……、おぼえておる、おぼえておる。おぬしの顔は忘れもしない。グリゾを迎えに来ては冒険に出ていた。我々の里を訪れる人間など、こやつ以外におらんかったからのう」


「それで、グリゾは今どうしてるんだ?」


「我が父は死んだ」


「……そうか」


 ヴェントの様子から予感はしていた。覚悟はできていたが、全身から力がぬけていくようだった。


「二十年前にな」


「……二十年前?」


 どういうことだ。どうして俺が石化した直後なんだ。その前もちょくちょく会っていたが、変わった様子はなかった。あいつは元気だった。


「お前ら、人間に殺されたのだ」


 しばらく放心ほうしん状態で何も考えられなかった。


 しかし、『二十年前』と『人間に殺された』というキーワードが頭をかけめぐり始めると、居ても立ってもいられなくなった。


「もう少しくわしく話を聞かせてくれ」


 立ち去ろうとするヴェントを呼びとめた。


「ついて来い。父の墓まで案内しよう」


 ヴェントが振り向きざまに言った。



     ◇



 連れて行かれたのは、歩いて数分ほどのところにあった小さな泉だった。墓標ぼひょうのようなものは見当たらない。


「我々の墓はお前ら人間と異なる。命を落とした仲間はすべてこの泉にほうむられる」


 グリゾにどんな言葉をかければいいのだろう。別れの言葉を告げられなかったのがくやしかった。


「お前にとって、父はどういう存在だった」


「かけがえのない存在だった。グリゾは俺と肩をならべて冒険してくれる唯一ゆいいつの仲間だったんだ」


 俺はグリゾ以外の仲間を作らなかった。正確に言えば、一緒にモンスターと戦う仲間はグリゾしかいなかった。


 石化させられた日の二年ぐらい前から、魔導士の『あいつ』と行動を共にすることが多かったが、仲間とは思っていなかった。


 別に石化させられことたを恨んで、そんなことを言っているわけじゃない。『あいつ』とは肩をならべて走ることも、一緒に戦うこともなかった。それは冒険の仲間とは言えない。


「グリゾから、よく息子の話を聞かされたよ。『お前が誘いに来るせいで満足に遊んでやれない』ってグチを何度も聞かされた」


「……」


「二十年前に何があったんだ?」


「父は傷だらけの体で里へ戻った。長老から聞いた話では、しばらくお前が姿を見せないのを不審ふしんに思って、探しに行ったそうだ。そして、人間どもからだまし討ちにあった」


 だまし討ち……。『あいつ』は俺を石化させたことに飽きたらず、そんなことまでしやがったのか。どうして『あいつ』はそんなことを。


 悪いやつだとは思わなかった。俺の責任だ。『あいつ』がとんでもないクズ野郎だと、俺が見ぬけなかったからだ。


 なぜだろう。そこまでしたあいつが、なぜ俺だけを生かしたのだろう。いくらでも殺すチャンスがあったはずじゃないか。


「死のふちにあった一ヶ月間。父がなんと言っていたか教えてやろうか」


 ヴェントの両目に激しい怒りが宿っていく。


「『人間を信用するな』――そう口ぐせのように言っていた。父はお前ら人間を、呪いながら死んでいったのだ」


 グリゾをワナにかけた『あいつ』への怒りも当然あった。


 ただ、それ以上に強い思いがあった。グリゾとの冒険の日々があざやかによみがえる。襲ってきたのは強烈な喪失そうしつ感だ。


 そうか……。グリゾ、もうお前と冒険できないのか。


 二十年――長すぎる年月ねんげつの重みが肩にのしかかってきた。



     ◇



 ルニーナたちのところへ戻った。二人は里の入口近くで待っていた。


「このまま帰るんですか?」


 ルニーナが言った。俺が決めることじゃないから、ダンツォに目を向ける。


 ダンツォたちの言い分もわかる。戦力の半分を失ったのなら、作戦続行は不可能だ。負けいくさとわかってても戦えだなんて、口がさけても言えない。


 ダンツォがひとりで決められることでもないしな。


 だが、このまま人狼たちだけに戦わせていいのか。人間と人狼たちの関係は破綻はたんし、連邦と衝突すれば、人狼たちもただじゃ済まない。


「俺たちは攻撃に参加できないって、もう一度伝えに行ってきます」


「待ってくれ。反乱を起こす日は元々いつだったんだ?」


「三日後です。アルト城で仲間を救出した足でブルアルバーロへ向かい、他のギルドと合流する予定でした。でも、俺たちはこんな状況ですし、今となっては、他のギルドの仲間も、無事かどうか自信が持てません」


「三日後……。あまり時間に余裕がないか」


「連邦に態勢たいせいととのえさせないように、襲撃から日を置かないようにしましたから。自分も伝令でんれいの役目を果たした後は、人狼族と行動をともにして、現地で合流する予定でした」


 でも、三日もあればブルアルバーロへ戻って、他のやつらと一緒にケストハーロへ向かうことも可能か。


 三人でヴェントのもとへ向かった。


「もう一度確認させてください。まだ確実なことは言えませんが、三日後の作戦には参加できそうにありません」


「それは承知した」


「ただ、今がダメでも将来的には協力できます。だから……」


「何度も言わせるな。始めから、お前らの手助けなど期待していない。我々の力だけで事足ことたりると言っているのだ」


 ヴェントの意志はかたそうだ。解決方法はこれしかないな。


「いや、予定通りでいい」


 俺が口をはさんだ。ダンツォが驚いた目を向けてきたが、かまわず続けた。


「俺たちも三日後の作戦に必ず参加する」


「何を言ってるんですか、ウヌオさん。そんな約束できません」


「俺が説得する。かりに失敗したとしも、俺がひとりでも行く」


「でも……」


「ヴェント。俺たちは必ず行く。信じてくれ」


「……ふん、好きにしろ」

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