勇者(反乱者一味)、親友グリゾの死を知る
◇ スニード
ダンツォが肩を落としている。かける言葉が見つからない。
ただ、単独でも決行すると言っているあいつらに、俺たちがとやかく言う権利がないのは事実。
ダンツォはやるだけのことはやった。筋は通したのだから、気に病む必要はないと思う。まあ、人狼族とエスペロの協力関係は終わってしまうだろうが。
「待ってくれ」
グリゾのことを思いだし、部屋を出て行ったヴェントを追いかけた。
「グリゾという名の人狼をさがしているんだが……」
「……グリゾという名は、我々人狼の中ではありふれたものだ。それだけではわからない」
見張りからも同じことを言われたな。灰色という意味だから、体毛の色に由来しているからだろう。
「生きているとしたら、年齢は五十くらいだ。この里に住んでいたのはまちがいない」
「……心当たりがある。もう少し情報はないか」
ヴェントの顔つきが変わった。
「レベルが相当高かったはずだ。あと、人間と冒険に出ていた」
それを聞いたとたん、ヴェントは顔をそらして黙りこくった。こちらへ体を向けようともしない。
「おそらく、我が父だ」
「……本当か?」
「父とはどういう関係だ」
「あいつと一緒に冒険へ出ていた」
「……バカな。人間に興味などないが、お前が父と冒険に出ていた年齢とは思えぬ」
「深い事情があるんだ。信じてもらえないかもしれないが、二十年間、石化状態にあった。元々の年齢は変わらない」
「二十年……」
「名前はスニードだ。聞きおぼえはないか?」
グリゾのことが気にかかり、つい本名を口走ってしまった。
「……」
ヴェントは近くの人狼へこう語りかけた。
「長老はどこにいる。この男の言っていることが、真実かどうか確かめたい」
その後、俺は白髪まじりの人狼のもとへ案内された。足腰が弱っているようで、座ったまま応対された。
「おお……、おぼえておる、おぼえておる。お主の顔は忘れもしない。グリゾを迎えに来ては冒険に出ていた。我々の里を訪れる人間など、こやつ以外におらんかったからのう」
「それで、グリゾは今どうしてるんだ?」
「我が父は死んだ」
「……そうか」
ヴェントの様子から予感はしていた。覚悟はできていたが、全身から力がぬけていくようだった。
「二十年前にな」
「……二十年前?」
どういうことだ。どうして俺が石化した直後なんだ。その前もちょくちょく会っていたが、変わった様子はなかった。あいつは元気だった。
「お前ら、人間に殺されたのだ」
しばらく放心状態で何も考えられなかった。
しかし、『二十年前』と『人間に殺された』というキーワードが頭をかけめぐり始めると、居ても立ってもいられなくなった。
「もう少しくわしく話を聞かせてくれ」
立ち去ろうとするヴェントを呼びとめた。
「ついて来い。父の墓まで案内しよう」
ヴェントが振り向きざまに言った。
◇
連れて行かれたのは、歩いて数分ほどのところにあった小さな泉だった。墓標のようなものは見当たらない。
「我々の墓はお前ら人間と異なる。命を落とした仲間はすべてこの泉に葬られる」
グリゾにどんな言葉をかければいいのだろう。別れの言葉を告げられなかったのがくやしかった。
「お前にとって、父はどういう存在だった」
「かけがえのない存在だった。グリゾは俺と肩をならべて冒険してくれる唯一の仲間だったんだ」
俺はグリゾ以外の仲間を作らなかった。正確に言えば、一緒にモンスターと戦う仲間はグリゾしかいなかった。
石化させられた日の二年ぐらい前から、魔導士の『あいつ』と行動を共にすることが多かったが、仲間とは思っていなかった。
別に石化させられことたを恨んで、そんなことを言っているわけじゃない。『あいつ』とは肩をならべて走ることも、一緒に戦うこともなかった。それは冒険の仲間とは言えない。
「グリゾから、よく息子の話を聞かされたよ。『お前が誘いに来るせいで満足に遊んでやれない』ってグチを何度も聞かされた」
「……」
「二十年前に何があったんだ?」
「父は傷だらけの体で里へ戻った。長老から聞いた話では、しばらくお前が姿を見せないのを不審に思って、探しに行ったそうだ。そして、人間どもからだまし討ちにあった」
だまし討ち……。『あいつ』は俺を石化させたことに飽きたらず、そんなことまでしやがったのか。どうして『あいつ』はそんなことを。
悪いやつだとは思わなかった。俺の責任だ。『あいつ』がとんでもないクズ野郎だと、俺が見ぬけなかったからだ。
なぜだろう。そこまでしたあいつが、なぜ俺だけを生かしたのだろう。いくらでも殺すチャンスがあったはずじゃないか。
「死の淵にあった一ヶ月間。父がなんと言っていたか教えてやろうか」
ヴェントの両目に激しい怒りが宿っていく。
「『人間を信用するな』――そう口ぐせのように言っていた。父はお前ら人間を、呪いながら死んでいったのだ」
グリゾをワナにかけた『あいつ』への怒りも当然あった。
ただ、それ以上に強い思いがあった。グリゾとの冒険の日々があざやかによみがえる。襲ってきたのは強烈な喪失感だ。
そうか……。グリゾ、もうお前と冒険できないのか。
二十年――長すぎる年月の重みが肩にのしかかってきた。
◇
ルニーナたちのところへ戻った。二人は里の入口近くで待っていた。
「このまま帰るんですか?」
ルニーナが言った。俺が決めることじゃないから、ダンツォに目を向ける。
ダンツォたちの言い分もわかる。戦力の半分を失ったのなら、作戦続行は不可能だ。負け戦とわかってても戦えだなんて、口がさけても言えない。
ダンツォがひとりで決められることでもないしな。
だが、このまま人狼たちだけに戦わせていいのか。人間と人狼たちの関係は破綻し、連邦と衝突すれば、人狼たちもただじゃ済まない。
「俺たちは攻撃に参加できないって、もう一度伝えに行ってきます」
「待ってくれ。反乱を起こす日は元々いつだったんだ?」
「三日後です。アルト城で仲間を救出した足でブルアルバーロへ向かい、他のギルドと合流する予定でした。でも、俺たちはこんな状況ですし、今となっては、他のギルドの仲間も、無事かどうか自信が持てません」
「三日後……。あまり時間に余裕がないか」
「連邦に態勢を整えさせないように、襲撃から日を置かないようにしましたから。自分も伝令の役目を果たした後は、人狼族と行動をともにして、現地で合流する予定でした」
でも、三日もあればブルアルバーロへ戻って、他のやつらと一緒にケストハーロへ向かうことも可能か。
三人でヴェントのもとへ向かった。
「もう一度確認させてください。まだ確実なことは言えませんが、三日後の作戦には参加できそうにありません」
「それは承知した」
「ただ、今がダメでも将来的には協力できます。だから……」
「何度も言わせるな。始めから、お前らの手助けなど期待していない。我々の力だけで事足りると言っているのだ」
ヴェントの意志はかたそうだ。解決方法はこれしかないな。
「いや、予定通りでいい」
俺が口をはさんだ。ダンツォが驚いた目を向けてきたが、かまわず続けた。
「俺たちも三日後の作戦に必ず参加する」
「何を言ってるんですか、ウヌオさん。そんな約束できません」
「俺が説得する。仮に失敗したとしも、俺がひとりでも行く」
「でも……」
「ヴェント。俺たちは必ず行く。信じてくれ」
「……ふん、好きにしろ」




