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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
36/49

勇者(反乱者一味)、人狼族の長と面会する

     ◇ スニード



 俺は全速力ぜんそくりょくで逃げた。レベルはこっちのほうが高かったようだが、相手が人狼じんろうだったので、スピードはほぼ互角ごかくだった。


 ただ、俺にとっては勝手知ったるダンジョン。地形を最大限に活用し、トリッキーな動きを駆使くしして、間一髪かんいっぱつで相手の追跡をかわし続けた。


 そして、制限時間の三時間を逃げきった。その時には、もう北方ほっぽうを離れて、ブルアルバーロ付近まで来ていた。


「まだ続けるか? もうここは人間の縄張りだぞ」


「たわけ、もう疲れ果てたか。まだ三時間もたっていないぞ」


「俺は続けてもかまわないぞ」


「そうさせてもらおう」


 グリゾはもの足りない様子だった。俺も楽しかったので、追いかけっこを続行ぞっこうした。


 グリゾは意地いじを張っていた。おたがいにバカだった。結局、まる一日走り続けたかな。逃げながらモンスターを倒して、回復したりもした。


「ほら、お前も回復しろよ」


「情け無用!」


 気づいたら、はるか南にあるインテラプラーモまで来ていた。いい加減疲れたので、お気に入りの場所へ連れて行って、そこで区切くぎりにした。


 そこは『地下の泉』と呼ばれる場所で、巨大な空間に地底湖ちていこが形成され、地上からしみだしてきた水が常時じょうじしたたり落ちる絶景ぜっけいが見られる。


 ここは外海そとうみ内海うちうみをつなぐルート上にあるので、冒険者の行き来が多く、のどをうるおしたり、体を洗っているやつさえいる。


 軽食けいしょくの屋台が出ていたりもするので、ベースキャンプっぽい雰囲気もあるが、モンスターがしっかりいるので、寝泊ねとまりはできない。


「俺の勝ちだな」


「人間。小僧こぞうのくせにすばしっこいな」


「小僧って、お前も同じくらいの年齢だろ。人狼のわりに背が小さいし」


 確か、グリゾの年齢は俺より二つ、三つ上だったかな。人狼は全身に体毛たいもうえているので、その分かもしれないが、基本的に人間よりひとまわり大きい。


「約束は守ってもらうぞ」


「ふん……」


「ここは俺のお気に入りの場所だ。いい景色だと思わないか。あの縄張りにいたら、一生見れなかったかもしれないぞ?」


「ふん、地底湖などめずらしくもない。北方にだっていくつもある。ここより数倍広い場所もあるぞ」


「そこはそこ、ここはここだ。そこまで言うなら、今度連れて行ってくれよ」


「ふん……」


 後日談ごじつだんだが、グリゾは本当に連れて行ってくれた。地上が寒いからか、大量のツララがたれさがっている場所もあって、なかなかの壮観そうかんだった。


「まあ、現時点では俺のレベルが上だったってことだ。あんなところにつっ立ってたら、レベルは上がらないぞ」


「見張りは二時間で交代だ。一日中立っているわけではない」


「俺について来れたのは、お前が初めてだ。いや、正確にはついて来たやつだけどな」


「……」


「どうだ。ヒマな時でいいから、一緒に冒険しないか? 冒険は楽しいぞ。ダンジョンは地上ほど表情が豊かじゃない。朝だってないし夜もない。でも、どこに行っても同じ顔をしたやつはいない。同じ階層だろうとまったく異なるモンスターが出現するんだ」


「……お前はなんのために冒険をする」


「たいした理由じゃない。レベルを上げて、強くなって、第四階層も、第五階層も、ダンジョンのすみずみまで冒険しつくす。わかりやすく言えば、好奇心を満たすためだな」


「ヒマなやつだ。欲もないようだな」


 その日、初めて俺に冒険の仲間ができた。そして、グリゾとの付き合いはあの日まで続いた。



     ◇



 俺たちが近づくと、見張りをしていた人狼が警戒の姿勢を取った。


「あやしいものじゃない! エスペロの伝令でんれいとして来た! 至急しきゅう伝えたいことがある!」


 ダンツォが大声で呼びかけると、見張りは警戒を解いた。


おさのところへ案内する」


 そう言った見張りが里の中へ入っていく。俺たちを里に入れてくれるのか。


 人狼族が里をつくるのは第二階層と第三階層の中間あたり。ひらけた場所に大勢で住んでいることもあれば、せまい穴に一家で住んでいることもある。


 家を建てたりはしない。地下だから、雨露あめつゆをしのぐ必要がないからだ。寝る時はワラのような草の上が多いが、人間と同じようにベッドも使う。


 全部グリゾの受け売りだ。この目で確かめたわけではない。


 まだグリゾは生きているだろうか。期待と不安が入り乱れる。もうダメだ。我慢できない。


「グリゾという人狼はまだ生きているか?」


「グリゾ……ですか?」


「生きているなら、五十歳くらいだと思うんだが……」


 あの日から二十年の歳月さいげつがたっている。人狼の寿命は五十くらいだと言われている。それをわずかに超えているから、年齢的に死んでいてもおかしくない。


 生きていてほしい。俺は願った。


「グリゾという名はありふれておりますので、それだけでは……。この里の者ですか?」


「ああ。レベルがかなり高かった」


「長の父君ちちぎみがグリゾというお名前でしたが……、しかし、あの方は……」


 見張りの人狼はそれっきり口をつぐんだ。


 もう死んだということだろうか。が引いていく。それ以上、聞くことはできなかった。


 せまい通路をぬけると、そこは居住きょじゅうスペースだった。


 結構な人数がいる。大半がこちらを見ている。女や子どもが多い。建物はないが、棚や箱、ベッドといった家具、仕切しきりなどが目につく。ほとんどが木製だ。


 壁のくぼみや出っぱりを有効活用していて、雰囲気はベースキャンプと似ている。


「長を呼んでまいります。ここでしばらくお待ちを」


 見張りの人狼が小さい穴の奥へ入って行ったが、ほどなく戻ってきた。


「申しわけありません。長は見回りに出ておられるそうです。今日中に戻られるかどうかも……」


「どうする。出直すか?」


 ダンツォに問いかける。迷っている様子だ。帰りを待つにしても、近くに町や村がないからな。


「ここでお待ちになっていただいても結構です」


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


「それではお部屋を用意いたします」


 帰りを待つことになったが、長とやらは夜になっても帰ってくることなく、ワラのベッドで一夜いちやを明かすことになった。



     ◇



 翌朝、見張りの人狼に起こされた。昨晩も食事を持って来てくれたし、俺たちの世話係に任命されたようだ。


 人狼にかぎらず、亜人は食事を取らなくても生きていけるが、娯楽として食事を楽しむやつは結構いる。グリゾもその一人だった。


「長がお戻りになられました。至急お話をうかがいたいとのことです」


 案内された部屋には、屈強くっきょうそうな人狼が二人待っていた。


「長、客人きゃくじんをお連れしました」


「ご苦労。お前はさがれ」


 長と呼ばれた人狼には風格ふうかくがあった。格好からして他の人狼と違う。


「この里の長をつとめるヴェントだ。ここにいるのは我が右腕のブランコだ」


 ブランコと紹介された人狼が頭をさげる。


 ダンツォはアルト城における襲撃が失敗に終わったことをげた。


「一週間ほど前に伝え聞いた話か」


「はい」


「なぜ失敗に終わったのだ」


「ケストハーロに向かったはずの冷血卿が、なぜかあそこに残っていました。俺たちの計画がつつぬけになっていたんです」


「噂に聞く敵の大将か。やつはなかなかのやり手のようだな」


「俺たちはエスペロを構成するギルドのうちの一つにすぎません。けれど、戦力的にはエスペロの半分近くなんです。そんな俺たちが壊滅かいめつ的な打撃をこうむったわけですから、あなたたちとの約束を果たせるかどうかは……。みんなで話し合って決めたわけじゃないんですけど、そのことだけは伝えなければならないと思って」


「それならばしかたあるまい」


「……決起けっきは中止ですか?」


「いや、決起は予定通り行う」


「……えっ?」


「始めから、お前らの助けなど期待していなかった。お前らが協力を申し出たがゆえ、やむなく決起を二週間延期しただけだ。元々、我々は単独でも決行する予定だった」


「だけど……」


「仲間を救出したいという思いは理解できるが、大勝負おおしょうぶを前に不要ふよう不急ふきゅういくさを起こすことについて、疑問をていしたはずだ」


「不要不急だとは思いません。アルト城で事を起こせば、敵はそこを守るための戦力をさかなければいけませんし、監獄かんごくの仲間を救出できれば、こちらの戦力だってアップします」


「しかし、失敗に終わったではないか」


「……」


「やつらは我々の地に土足どそくでふみこんだ。そして、我々が享受きょうじゅすべき大地からの恵みをかすめ取っている。そいつらにむくいを受けさせる。我々の頭にあるのはその一点のみ。勝ち負けではない。人狼族の誇りをかけた一戦なのだ。いかなる理由があろうと、引きさがるつもりはない」


 ヴェントが立ち上がった。


「お前らの大将にはそう伝えろ」

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