勇者(反乱者一味)、親友グリゾとの出会いを思いだす
◇ スニード
小さな町の宿で一泊してから、再びダンジョンにもぐった。
ここまで来れば、北方はそう遠くない。外海側なら、連邦の警戒はキツくないという話だったが、用心して第四階層までおりることにした。
「ケストハーロは完全に連邦の支配下にあるってことだな?」
「はい。昔は誰が支配しているのかもわからない状態だったらしいですけど」
ケストハーロは北方で人間が住んでいる数少ない街の一つだ。そこ以外の街の名前を俺も知らない。
一、二度行ったおぼえがあるけど、印象に残っていない。あそこは冒険者が少なかった。北方は人狼族とトラブルになりやすいからな。
人狼族はいくつかの勢力に分かれている。最大勢力の里はケストハーロの北西にある。ダンツォたちエスペロが手を組んだのは、そこの里の人狼族だった。
とある理由で、俺はその里をよく知っている。目をつむってでも行ける。そんな大きな口をたたけるぐらい、ひんぱんに通った。そこへは仲間を迎えに行っていた。
人狼族はダンジョンに里をつくる。地上で動物を狩ることもあるようだが、人間と違って、モンスターを狩っているだけで生きていけるからだ。
人狼族というより亜人全般がそうらしい。エーテルだけで生きていける。それが人間と亜人の最大の違いだ。どっちかといえば、俺は亜人タイプのほうが良かった。
猫族とか、ドワーフとか、オークとか、亜人の大半がダンジョンで暮らす。そして、厳寒の地、山奥、海底付近など、人間が近づかない場所の地下に里をつくる。
人狼族が多いのは北方だ。他の亜人は近づかない。人狼は強いし結束力が強い。熊族もそこそこいるが、群れることがないので、人狼族が幅をきかせている。
今はどうか知らないが、人間と人狼族は仲が良くない。人狼族の里へは近づくなと、たびたび注意された。
俺が生まれる前の話だが、人間が北方に進出した時には、大きな戦争となったそうだ。俺が若い頃には、まだ険悪な雰囲気が残っていたっけ。
◇
この日は朝から走り続けていたが、その日のうちに人狼の里へたどり着けそうになかったので、宿を探すために早めに地上へ出た。
しかし、ケストハーロからも離れているし、人狼の里がそう遠くない場所にあるからか、町や村を発見することはできず、しかたなく野宿をすることになった。
「ルニーナ、疲れてないか?」
「ずっと運んでもらってますから、疲れてはいませんよ」
ルニーナのご機嫌を取っておいた。夏だから良かったけど、冬だったらどうなってたことやら。
翌日、明け方からダンジョンにもぐり、夕方前に人狼の里の近くまで来ることができた。
「もうそろそろ着くぞ」
「大丈夫なんですか? 人狼族はかなり縄張りにうるさいと聞きますけど」
ルニーナが心配する。それは事実だ。だが、俺に聞かれても困る。
「大丈夫なんだろ?」
「たぶん、大丈夫だと思います。向こうにも話がいってると思うので」
ダンツォは歯切れが悪い。この様子だと、ダンツォ自身がここへ来るのは初めてかもな。まあ、問題ないだろう。いきなり襲いかかってくるような凶暴なやつらじゃない。
ひときわ広い場所に出た。里の入口があったのはここだ。ここには数えきれないほど来たから忘れるわけない。街と違って、ダンジョン内は変わらないな。
「人狼がいますよ」
横穴の前に人狼が立っている。
初めてできた冒険の仲間――人狼のグリゾと出会ったのはここだ。その時はまだ、あいつもあんな風に見張りをやらされていた。
待ち合わせるのも別れるのも、だいたいここだった。フラッと立ち寄った時には、見張りに里まで呼びに行ってもらったな。人間が里の中に入ると、怒りだすやつがいるそうだから。
◇
グリゾと出会ったのは十五歳ぐらいだった。その時はもうレベル50くらいあったから、ひとりで大陸中をかけまわっていた。
俺の冒険スタイルはとにかく走る。全ダンジョンのすみずみまで踏破する勢いで、走って走って走りまくった。
そして、モンスターを狩りまくる。そうすれば、体力を回復させられるし、レベルも上がる。レベルが上がれば、より深い階層へ行け、より強力なモンスターを狩れるようになる。
希少な鉱物や素材集めには興味がなかった。金をかせぐのは二の次で、その日の食事代と宿代さえ払えればいい。そんなスタンスだった。
普段通り、あてどなくダンジョンを進んでいたら、人狼族の縄張りに足をふみ入れてしまった。
そして、入口で見張りをしていたグリゾと出会った。
「人間、今すぐ引き返せ。ここより先は、我々人狼の縄張りだ」
グリゾが落ち着いた声で言った。身がまえるような人狼特有の姿勢を取っていたが、敵意は感じなかった。
「じゃあ、そっちへ行くよ」
俺はすぐ脇の道を進もうとした。
「ダメだ。その先も我らが縄張りだ」
「そっちへ行くと、お前らの里に出るのか?」
「里に出る道もあれば、出ない道もある」
「じゃあ、出ないほうの道を行くから通らせてくれ」
「人間、もの分かりが悪いな。ここより先は、すべて我々の縄張りだと言っているんだ。お前ら人間も、自らの縄張りを持っているだろう」
こういうことはめずらしくない。人間との間でも起こることだ。
『ここは俺たちの狩場だ。ここで狩りをしたければ利用料を払え』
そんな要求をしてくる、たちの悪い冒険者ギルドが結構あった。
「なに言ってるんだ。ダンジョンはみんなのものだろ?」
俺はダンジョンを私物化するやつが嫌いだったから、ケンカ腰で応じた。
『いかなる国もダンジョンを領有せず。いかなる個人もダンジョンを所有せず。それが世界の大原則だ』
小さい頃から、そう何度も両親に聞かされた。そのルールがあるからこそ、俺たちは自由に冒険をすることができるんだ。
まあ、人狼に言ってもムダだから、あえて言わなかったが。
「これは警告だ。さらに進めば、我々の仲間から手荒い歓迎を受けることになるぞ」
「縄張り縄張りって、お前は人間とか他の亜人の縄張りにいっさい入らないのか? 別に自分の縄張りにしようってわけじゃない。ただ通るだけなんだぞ」
「……」
「だったら、勝負して決めないか。これから俺は力のかぎり逃げ続ける。もしお前が俺に一度でもさわることができれば、そっちの勝ちだ。そうなったら、俺は二度と人狼の縄張りに立ち入らないと約束しよう」
「さわれなかったら?」
「この先のダンジョンを案内してくれ。お前と一緒なら、他の人狼に文句を言われないだろ? 何があるのか見てみたいんだ。お前らが隠したくなるような場所がどんな場所か」
「ふん、いいだろう。人間、我々をあなどったことを後悔させてやる」
グリゾは挑発に乗った。それだけ自分の足に自信があったんだろう。年齢的にもこっちのほうが下だったからな。
人狼は人間よりも身体能力が高い。同じレベルで足の速さをくらべたら、圧倒的に人狼が上だと言われている。
でも、俺は負ける気がしなかった。
「制限時間は三時間だ」
「そんな時間、必要ない。すぐに終わらせるからな」




