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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
34/49

勇者(反乱者一味)、昔を思いだす

     ◇ スニード



「ウヌオさん。今はどこら辺にいるんですか?」


 ふいにダンツォがたずねてきた。


「ブルアルバーロの領内には入ったんじゃないか」


「もうそんなに来ましたか」


「えっ! 今、ブルアルバーロにいるんですか?」


 ルニーナが食いついてきた。マズい、故郷が恋しくなってきたか。気持ちは痛いほどわかるが、今帰られたら困る。


「いるのは外海そとうみ側だけどな」


「そうですか……」


 あきらめたか。外海方面をめざしているのは事実だが、実際はどうかわからないんだよな。


 もう五、六時間は走ったか。出発は午後だったから、日が暮れているのはまちがいない。


 ダンジョン内では時間感覚が狂う。外に出たら、夜が明けていた。そんなことがしょっちゅうあった。時間はかんに頼るか、眠気ねむけで判断するしかない。


「おなかがすきましたね」


 エーテルは俺たちのエネルギー源だ。下層かそうならば、食事を取らなくても力があふれてくる。一日中動き続けることだって可能だ。


 とはいえ、眠くはなるし、いずれ体にガタがくる。お腹だって減る。三日ぐらい何も食べないと、体に異変が出てくる。決して、エーテルは万能じゃない。


 ただ、毎日地上に戻るのは意外と面倒だ。特に下層へいる時はなおさらで、自宅に戻るのに数時間かけたら、ダンジョン探索がほとんど移動時間になってしまう。


 そんな時に活躍するのがベースキャンプだ。それはたいてい第三階層に作られる。エーテルの濃度が高くて、ほどよく道が広いからだ。


 この辺りにそれがあった。もうなくなっているという考えが頭をチラついたが、記憶を頼りに探してみた。


「何か探しているんですか?」


「昔、この辺りにベースキャンプがあったんはずなんだが……」


「自分はかけだしのルーキーですから、よく知らないんですけど、ベースキャンプがどんどんなくなってるって、先輩方がなげいていました。あるところにはあるそうですけど、それも連邦が『管理』しているらしくて……」


 冒険者を敵視する連邦が、その拠点きょてんたるベースキャンプを野放のばなしにしておくわけないか。そもそも、ダンジョン全体を『管理』しようとしているわけだしな。


 それはわかっていたが、ほそぼそとしたものでも残っていてくれたら……。


 見おぼえのある穴を壁に見つける。人がなんとか通りぬけられる大きさだ。


「ここに入ってみよう」


「ずいぶんせまい穴ですね」


「モグラが気まぐれに掘ったんだろう。穴の先はたいてい広い空間につながっていて、ベースキャンプが作られることが多い。結界を使って、モンスターの侵入をふせぐのに都合がいいからな」



     ◇



 思った通り、穴をぬけると広々(ひろびろ)とした空間に出た。さらに、そこにはテーブルやベッドと思われる残骸ざんがい散乱さんらんしていた。


 まちがいない。ここにベースキャンプがあった。


「ベースキャンプの跡地あとちみたいですね」


「ああ」


「この場所に特別な思い出でもありました?」


 感傷かんしょうにふけっていたら、ルニーナが声をかけてきた。


「何度か来たことはあるんだが、そういうわけじゃない。ただ、俺はベースキャンプで生まれたからな」


「ダンジョンで生まれたってことですか?」


「ああ。両親がベースキャンプで料理屋をやっていた。記憶には残ってないが、三歳の頃まではそこで育ったらしい。なんでも、俺をおぶったまま地上へ仕入しいれに行ったり、モンスターと戦うこともあったらしい」


「それはまた、ワイルドな親御おやごさんですね」


 第三階層より下なら、山菜やキノコといった食材が調達できるが、さすがにそこへ連れて行くことはしなかったそうだ。


 ダンジョンで遊ばすわけにはいかないということで、三歳の時に地上で暮らす親戚しんせきのもとに預けられた。


 その後、八歳ぐらいからダンジョンへ入るようになって、十歳の頃にはダンジョンに入りびたっていた。


 時間的に地上よりもそっちにいるほうが長かったかな。朝から晩までアホみたいにモンスターと戦って、冒険者ギルドに登録したのは十二歳。最年少記録だと驚かれたっけ。


 楽しかったというのもある。だけど、一番の理由は第三階層で暮らしている両親のもとへ、早く自分の足で会いに行けるようになりたかったからだ。


 ふと笑い声が聞こえた気がした。


 ベースキャンプはライバルとも言える同業者が集まり、フラッと立ち寄ったよそ者も多い。だから、殺伐さつばつとした雰囲気があった。


 でも、楽しかった。あそこにいると落ち着いたんだ。



     ◇



「しかたない。いったん地上に戻ろう」


 時間のロスは大きいが、朝から何も食べてないし、ダンジョンで寝るわけにもいかない。そんなことをしたら、ルニーナの機嫌が悪くなるだろうし、いずれ愛想あいそをつかされる。


 昔はそこら辺でうたた寝することもあったけど、レベルがマイナスになってからはやってない。


 第一階層でも、起きたら毒をもらってたり、耳鳴りになっていたりするからな。いくらなんでもリスクが大きすぎる。


「何ごともなく地上に出れればいいんだが」


 連邦の魔導士と出会ったり、入口がふさがれている可能性もある。多少の戦闘は覚悟しないとな。


「ブルアルバーロなら極端きょくたんなことをやってませんよ。連邦の国ではありませんから」


「そうなのか?」


 ブルアルバーロの住人であるルニーナの確認を取る。


「連邦の国でないことは確かです」


 ノルダピエードとかいう町では、結界けっかいを張って『管理』をしていたようだが、極端でないことは確かか。


 一時間近くかかったが、なんとか地上に出れた。近くに小さな町があり、宿を取ることもできた。


「少しの間でもノルダピエードに帰れませんか?」


「ダンツォの用事が済んでからではダメか?」


「……わかりました」


 ルニーナは不満げな様子だったが納得してくれた。


 希望をかなえてやりたいが、今帰らせたら、ホームシックを起こして、今後の協力を拒否されるかもしれない。


 今はルニーナの善意ぜんいに頼っている状態で、強く出れる立場じゃない。見返りを与えなければならないが、お金で喜ぶとも思えない。


 それに、俺の弱みをにぎっているルニーナが、もし状態異常の魔法をおぼえたら……。下手したら奴隷どれいになりかねない。最大限に気を使わなければ。


「ダンツォ。お前たちの仲間に魔導士はいないのか?」


 見つかるかどうかはともかく、わりの魔導士を探しているところを見せよう。


「仲間にはいません。普段はギルドと契約している人に、お金を払ってやってもらってます。今は冒険者になる魔導士なんて、よほどのもの好きですよ。連邦の魔導士になったほうが出世しゅっせできますからね」


 これは難航なんこうしそうだな。無事にダンツォを送り届けたら、小銭こぜにをかせいで、それをルニーナに渡そう。連邦と戦っていく上では、どうしても白魔法を使える魔導士が必要だ。


 捨て犬のような目をルニーナに向ける。彼女はしかたがないとでも言いたげな様子で、軽くため息をついた。

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