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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
33/49

勇者一行、コカトリスの出現で大混乱する

     ◇ ダンツォ



 正面からモンスターが近づいてくる。肌にピリピリとした感触が伝わる。頭の中がまっ白になって、ただ見守ることしかできなくなった。


 うっすらと姿が見えてきた。デカい。馬鹿デカい。初めてオーガと出会った時を、はるかに凌駕りょうがする威圧いあつ感。巨大モンスター――トロールが姿を現した。


 体長たいちょうが五メートルはある。全身毛むくじゃらで、顔のパーツは一つ一つが大きい。図体ずうたいがデカいだけあって動きはのろい。


 トロールと出会った時は一目散いちもくさんに逃げだすと、フォルトさんは言っていた。第四階層では最強クラスのモンスターらしい。


「うおおおお!」


 いきなりウヌオさんが大声を上げた。大きく目を見開き、口をポカンとあけたまま、表情がかたまっている。


 ……あれ? だけど、なぜかトロールでなく、あさっての方向を見ている。その視線を追ってみると――、別のモンスターがいた。


「見ろ……、コカちゃんがいる……」


 あれがコカトリス。高さ七、八メートルのところにある壁のっぱりに、悠然ゆうぜんとたたずんでいる。すでに俺らに気づいていて、するどい目つきをこちらへ注いでいる。


 体格はそれほど人間と変わらない。一見いっけんするとニワトリのようだけど、胴体と尻尾しっぽだけがヘビという奇妙な外見をしている。


「お前ら、落ち着け!」


 一番落ち着いていないウヌオさんがさけんだ。まばたき一つせずに、目がコカトリスに釘づけとなっている。トロールの接近に気づいてないんだ。


「そうだ! ルニーナ、〈バリア〉だ! 〈バリア〉を張れ!」


「前を見てください! 前にもっと危険そうなモンスターがいますよ!」


 ウヌオさんはトロールにチラッと目を向けたけど、たいした反応を見せず、すぐにコカトリスへ視線を戻した。スライムでも見るかのような無関心さだった。


「あいつはどうでもいい。今はコカちゃんに集中しろ」


 いや、どうでもよくないでしょ。トロールのほうが明らかに戦意せんいをむきだしにしてますよ。


「大丈夫だ、落ち着け。コカちゃんはケンカっぱやくない。刺激しなければ問題ないんだ」


 ウヌオさんが自分に言いきかせるように言った。頭が混乱して、うわごとを言っているようにも思える。


「ルニーナ、〈バリア〉を早く!」


 ルニーナさんが〈バリア〉の魔法を発動した。すると、ウヌオさんはかかげるように彼女をコカトリスへ向けた。


「ダンツォ、お前も後ろに隠れろ」


「やっぱり、盾にしてるじゃないですか! 男として恥ずかしくないんですか!?」


 我ながら情けなく思えたけど、石化するのは怖いので隠れさせてもらった。


 レベルの近い相手なら、片腕とか部分的なもので済むけど、レベルが離れてると、高確率でかかる上に、それが全身におよぶことが多い。


 右手にトロールがいるので生きた心地ここちがしない。ていうか、ゆっくりと歩み寄ってきているので、距離的にトロールのほうが近くなってる。


 ウヌオさんはいまだに完全無視だけど、本当にほうっておいていいのか。なにげなく話を向けてみよう。


「やっぱり、状態異常に一番気をつけるべきなんですか?」


「それはそうだろ」


 そうだろうか。気絶きぜつだって状態異常と変わらないと思う。でも、ここまで断言されると言い返せない。


 その時、コカトリスがビクッと上体じょうたいをそらすように背伸びをし、たけびを上げながらはねをバタつかせた。


「ヤバい! 気づかれたぞ!」


 いや、どう考えてもトロールを威嚇いかくしている。モンスター同士でも縄張なわばり争いがあるから、戦ってることはめずらしくない。


 こっちは眼中がんちゅうにないようだけど、ウヌオさんの反応は普通じゃない。〈バリア〉の後ろでおびえるように身をかがめていて、後ろから見るとかなりみっともない。


「早くどうにかしてください!」


 盾にされているルニーナさんが声を上げた。ウヌオさんの顔つきが変わった。何かを決意したように表情が引きしまり、彼女をやさしく地面におろした。


「よし、先手必勝!」


 身がまえたウヌオさんの手もとで、瞬間的に光がふくれ上がる。そして、コブシのような波動が、轟音ごうおんを立てながら、コカトリス目がけて飛んでいった。


 あんな攻撃見たことない。ウヌオさんはなにをしたんだ? ただ、コカトリスの姿は消えている。まさかこの距離で、しかも、一撃でコカトリスを……? 


 まるで魔法のようだ。フォルトさんに似た攻撃を見せてもらったことがあるけど、多少リーチが長くなる程度で、波動は飛んでいかなかった。何もかもがケタはずれだ。


 その時、視界のはしで何かが動いた。そうだ、トロールのことをすっかり忘れていた。こっちはまったくの無傷だ。


「ウヌオさん! トロールが!」


「ん? ああ、こいつは大丈夫だよ」


 ウヌオさんがのん気に背中を向けたまま言った。何が大丈夫なのかわからない。


「いやいや、もうコブシ振りかぶってますよ!」


 トロールの組んだ両手が、ウヌオさんの頭上ずじょう一直線いっちょくせんに振りおろされる。ウヌオさんが寸前すんぜんで気づく。だけど、防御態勢は取れていない。


 敵の攻撃がクリーンヒットした――と思ったけど、か、片手で受けとめてる!? しかも、棚から落ちてきたものをキャッチするぐらいの感じだ。


 ウヌオさんがムッとした表情でトロールを振り向くと、再び右手周辺にエーテルの光がまたたいた。


「この野郎、コカちゃんを刺激するんじゃねぇ!」


 巨大な波動がトロールの心臓をつらぬき、光のつぶが視界いっぱいにはじけ散った。



     ◇



 ウヌオさんはトロールの落とした結晶を拾い上げてから、腰をぬかしていたルニーナさんを立ち上がらせた。


「ほら、今後のためにしっかり補給してくれ」


餌付えづけされてる気分です」


 自分は二人のやり取りをぼう然と見守っていた。


「ダンツォ。ルニーナが済んだら、お前も補給しておけよ。走りっぱなしだったから疲れてるだろ?」


「はい……」


 戦ってはいないけど、八割ぐらいの力で走り続けていた。こんなペースでダンジョンを進むことはない。第四階層だから自然回復分が多いとはいえ、かなり消耗しょうもうしてる。


 ウヌオさんから結晶が投げ渡される。トロールの結晶はデカい。手のひらにおさまりきらない。これだけあれば、まる一日エーテルに困らないだろう。


「ウヌオさんは大丈夫ですか?」


「俺はいいよ。まだそんなに疲れてないから」


 あれだけの攻撃をしたのに疲れてないのか。まあ、攻撃よりも防御のほうがエーテルの消費が激しいし、見た目のインパクトほどではないのかもしれない。


「さっきの攻撃はなんなんですか?」


「俺のオリジナルだ。これがレベル39の力だぞ」


 いや、レベル39はこんなことできないし、トロールだって倒せない。冷血卿れいけつきょうとか、そのぐらいのレベルがあるとしか思えない。なぜ、ウソをついているのだろう。


 この人、いったい何者なんだ。

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