勇者一行、モンスターの気配を察知する
◇ ダンツォ
「ちょっと待ってください。もう少しゆっくり行ってください」
ルニーナさんが遅れ始めていた。もうヘトヘトのようで、足がフラついている。
まだ三分の一も来ていない。こんな調子で大丈夫だろうか。レベル6ならしかたないけど、ウヌオさんはどうして彼女を連れてきたんだろう。
「これでもゆっくり行っているんだ。このペースだと何日かかるかわからない」
白魔法を使える魔導士が一緒にいるのはありがたいけど、ルニーナさんは置いていったほうがいいんじゃないだろうか。モンスターや連邦の魔導士と戦闘になる可能性は高いし。
「ダンツォ。どのくらいで向こうに着きたいんだ?」
「反乱を起こすのが六日後の予定でしたから、遅くとも三日以内には。仲間のところへ報告に戻る時間もほしいですし」
「三日って……、そんなにかかるんですか?」
「人狼族の里はブルアルバーロのはるか先にあるからな」
「……そうでしたね」
ルニーナさんが言葉を失う。やっぱり、彼女には無理だ。
「まあ、走っていけば、ここからでも一日で行けるけどな」
「えっ……、走っても一日では無理だと思います」
アルト城から人狼族の里までは三百キロぐらいある。いくらレベルが高くても一日では……。
「ああ……。そうだな、一日では無理だな」
しばらく考えこんでいたウヌオさんが、こんな話をきりだした。
「俺がかかえて運ぼう。前がいい? それとも後ろがいい?」
それならいけるかもしれない。だけど、ウヌオさんの両手がふさがるし、体力は持つのだろうか。冒険者は仲間を運ぶのに慣れてるから心配いらないか。
「……じゃあ、前でお願いします」
ルニーナさんが悩んだすえに答える。ウヌオさんがさっそく抱きかかえると、彼女はさっきと違って顔を赤らめている。
「やっぱり、恥ずかしいですね」
「誰も見てないからガマンしろ」
この二人の関係が気になる。かなり仲がいいんだけど、恋人同士には見えないんだよなあ。不思議だ。
「この状態で〈バリア〉の魔法を使えるか、確認しておこう」
「右手があいていれば大丈夫ですよ」
ルニーナさんが〈バリア〉の魔法を使う。ウヌオさんが安心した様子を見せた。
そうか。ウヌオさんは第四階層を進むにはレベルが低いから、状態異常の攻撃を警戒しているのか。あれはレベル差があると、かなりの確率でかかるからな。
やっとルニーナさんを連れてきた理由がわかった。
「よし、行くか」
「本当にシールドみたいにあつかわれそうでイヤなんですけど」
「そんなあつかいしないって。チョウよ花よと大切にするさ」
◇
俺たちは再び走りだした。
人間を抱きかかえているとは思えないほど、ウヌオさんの足どりは軽快。自分としてはややオーバーペースで、置いていかれそうなくらいだ。
「向こうにデカいのがいるな。こっちへ行こう」
開けた場所に出てから、ウヌオさんが進路を変えた。
「見えないところでもわかるんですか」
「遠くのモンスターでも気配で察知できるよ」
「上のほうばかりを気にしているのは理由があるんですか?」
ルニーナさんが指摘した。言われてみると、ウヌオさんはさっきから上のほうをしきりに警戒している。
「コカちゃんは高いところの出っぱりやくぼみにいるんだ」
「コカちゃんって、コカトリスのことですか?」
「知ってるのか。あいつは石化光線を放つから気をつけろ」
噂に聞いたことある。ただ、レベルもそこそこで、そこまで危険ではないと聞いたけど。第四階層のモンスターなら、トロールやベヒーモスの名前のほうが耳にする。
せまい道に入ってから、ウヌオさんが走るスピードをゆるめた。音を上げてる場合じゃないんだけど、ついて行くだけでも大変だったのでありがたかった。
「待て」
ほどなく、ウヌオさんがほぼ歩いている状態まで速度を落とした。張りつめた表情で前方を見すえている。
「デカいのがいる」
ここは道が細いから、よけて通れそうにない。
「戻りますか?」
「いや、戻るとかなり遠回りになる。ルートもはっきりしない」
だけど、自分たちで戦えるのだろうか。第四階層のモンスターはレベル50が当たり前だ。ウヌオさんはともかく、自分は戦力にすらなれそうにない。
「戦うってことですか?」
「ああ。逃げられるのなら逃げたいが」
ウヌオさんが立ち止まって左右を見まわす。
「いくつかまじってる感じだな」
複数いるってことか。自分もさっきから気配だけは感じている。それでも目の届く範囲にいないってことは、相当デカいってことだ。
「二人とも覚悟はいいか?」
「……本当に戦うんですか?」
ルニーナさんが不安げに言った。
「自分は何をすればいいですか?」
「戦闘はまかせろ。俺の後ろに隠れていればいい。ただ、俺にもしものことがあったら、安全な場所まで連れて行って、ルニーナに魔法で治療させてくれ」
「……わかりました」
「それなら、私はさらに安全な場所にいていいんですね?」
「いや、お前はこのまま〈バリア〉の魔法を展開しててくれ」
「それって一番危険なポジションですよね!?」
「心配するな。第四階層では〈バリア〉の魔法を使い続けても、あっという間に回復する。魔法が使えなくなることはない」
「そんな心配してませんよ!」
なんかもめてるけど、自分はウヌオさんの言葉に甘えよう。
でも、ルニーナさんを抱きかかえたまま、どうやって戦うつもりだろう。攻撃する時におろすんだろうけど、そんなハンデをつけた状態で、すばやいモンスターに対応できるのだろうか。




