勇者一行、第四階層へ降下する
ウヌオ=スニード(伝説の勇者)です。
ダンツォはしばらくその名で呼び続けます。
◇ ダンツォ
北方にある人狼族の里へ向かうため、出会ったばかりの冒険者――ウヌオさんと一緒にダンジョンの奥へ進む。
「まずは第四階層へおりるぞ」
「道はわかりますか?」
「悪いが、さっぱりわからない。ここは来た記憶がないからな。ただ、第四階層までおりられれば問題ない。たいていの道はおぼえてるし、上層と違って、道が入りくんでないから迷うこともない」
この目で見たことはないけど、第四階層は穴が広いから、道が枝分かれしてることが少ないって聞いたことがある。
「あの、この女性の方は? 魔導士っぽい格好してますけど」
「魔導士だぞ」
「はい、魔導士です」
連邦の役人には見えないけど、結構服装が似ている。冒険者って感じじゃないし、恋人だろうか。
「名前はルニーナ。役人だけど、連邦の魔導士じゃないから安心しろ。現に、今朝まで監獄にいたし、俺の脱獄仲間でもある」
「人聞きの悪いこと言わないでください。監獄に入れられたのも、脱獄したのも、あなたに巻きこまれただけです」
二人もあそこに捕まってたってことか。
「何をやって捕まったんですか?」
「連邦の船を沈めたんだっけ?」
「なんで私に聞くんですか。自分の胸に聞いてください」
船を沈めたって……。この人、かなりの大物だ。そういえば、さっきバターロさんが、ウヌオさんに助けられたって言ってたな。
――ん、どういうことだ? 一緒に捕まっていた人から助けられたってこと……?
だいぶ明るくなった。もう第二階層に入ってるな。壁や地面に草やコケが生えだすから、見た目でも判断がつく。
ウヌオさんの足どりが慎重になった。下層にのびる縦穴を探しているようだけど、時どき天井のほうも見上げている。
不思議とモンスターには出会わない。でも、なんとなく気配を感じる。近くに強力なモンスターがいるような気がする。
「近くに何かいませんか?」
「……そうか?」
「ええ、異様な気配を感じます」
「おどかさないでくださいよ」
ウヌオさんがしきりに辺りを警戒し、ルニーナさんもビクビクふるえている。
これから第四階層に行くっていうのに、このメンバーで大丈夫だろうか……。
◇
「待て」
急にウヌオさんが立ち止まった。
「エーテルの流れを感じる。近くに縦穴があるかもしれない」
さすがベテランの冒険者。そんなことまでわかるんだ。
下層へは縦穴を使っておりる人が多いらしい。縦穴はゆるくカーブしてるから、スベり落ちていくかたちになって、慣れてくると楽しいという話だ。
ウヌオさんの言葉通り、近くで大穴を発見した。大きさは三メートル近い。
「こんなのに落ちたら、ひとたまりもありませんね」
ルニーナさんが大穴をのぞきこむ。
「よし、ここから第四階層までいっきにおりるぞ」
「えっ!?」
ルニーナさんが驚く。高いところから飛びおりるのは大丈夫だけど、まだ第四階層へ行くこと自体に不安がある。
「どうして第四階層とわかるんですか?」
「穴を見ればだいたいわかる。このぐらいの大きさだと、第四階層のワームが地上に向かって掘り進めたものだからな」
確かに、ここまで大きいのは見たことない。第一階層で見かける縦穴なんか、腕が入るかどうかの大きさだし。
「さあ、行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください。ここをおりるんですか?」
「あっという間だぞ」
「あっという間なのはかまいませんけど、この穴、先が見えないですよね?」
「せいぜい二、三百メートルくらいだって」
「……せいぜいの基準がまったく理解できません」
二、三百メートルか……。ルニーナさんの気持ちはわかる。自分でもおじけづく深さだ。十メートルくらいなら、気軽に飛びおりられるけど。
「エーテルをシールドのようにまとえば、まったく痛くないし、むしろ楽しいぐらいだけどな」
「そんな芸当できませんよ!」
「そうか……。そうだったな」
ウヌオさんが考えこむ。魔導士はただでさえ身体能力が低いから、戦士である俺たちのようなことはできない。
「だったら、俺が代わりにシールドを張るから、一緒に下りるぞ。一メートルくらいなら、他人の体でも問題なく守れる。一時期、何度もやっていたから安心してくれ。相手はもう少し体の小さいやつだったけどな」
ルニーナさんがシブい表情をする。ウヌオさんの言葉を疑っているようだ。自分も疑った。他人を守れるシールドってなんだ。魔法だろうか。
「俺からもお願いします」
「……わかりました」
俺が頭をさげると、納得してくれた。ウヌオさんがルニーナさんを抱きかかえる。
「しっかりしがみついてろよ」
見てるだけでもドキドキするぐらい体が密着しているけど、それを気にしている様子はない。やっぱり、恋人同士なのだろうか。
「ダンツォ、お前は経験あるか?」
「いえ、穴をおりるのは初めてです」
「できるか?」
「はい、やれます」
「エーテルを全身にうすくまとう感じだ。油断してると服がやぶけたり、すり傷になるぞ。あと、着地の衝撃がかなり強い。着地部分に力を集中させ、全力で防御するんだ」
「わかりました」
着地は問題ない。高いところから飛びおりる時は、無意識にやってしまうぐらいだ。
「俺が先に行く。十秒たってから飛びこめ」
ウヌオさんが迷いなく穴に飛びこんだ。
「キャアアアア!」
二人の姿はすぐに見えなくなり、ルニーナさんの悲鳴が穴の中で反響している。
心の中でカウントする。十を数えてから、覚悟を決めて飛びこんだ。
穴の中は意外と明るかった。けれど、ヘビのようにうねっているので先が見えない。
どんどんとスピードがアップしていく。恐怖を感じるくらい速くなった。ただ、背中や足にこすれる感触があっても痛みはない。
十秒ほどで強い光が見えてきた。目のくらむほどのまぶしい光――それにつつまれた瞬間、いきなり空中に投げだされた。
目がくらんでいて前が見えない。体が回転している。ジタバタと手足を動かしても、どこにも当たらない。
そうだ、全力で防御しないと。でも、どこを?
落ちてる方向が地面なのはわかる。けれど、風景が回転してるから、目がまわってわけがわからない。ヘタしたら頭からつっこんでしまう。
死が頭をよぎって、思わず目をつむると、大きな腕に抱きとめられた。目を開けると、ウヌオさんの笑顔があった。
「まだまだ練習が必要だな」
地面におろされてから、現状を確認する。かたわらでルニーナさんが腰をぬかしていた。




