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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の復活編
3/49

勇者(冒険者)、スライムと遭遇する

     ◇ スニード



 食べ物をごちそうしてもらえることになった。彼女について行って砂浜をあとにする。


 ていうか、あんなところに放置しやがって。なに考えてんだ。海に流されたらどうするつもりだ。


 それより、ここはどこだ。


 世界中を旅してまわったが記憶にない――といっても、地上に出るのは食事と気分転換の時で、ダンジョンにもぐっている時間のほうが、圧倒的に長かったからな。


 海に用事がないから、港町に行くこと自体少なかったし、わからなくて当然か。


「ここはなんていう町だ?」


「ブルアルバーロ州にあるノルダピエードという町です」


「ブルアルバーロか……。町の名前は聞いたことないな。ブルアルバーロのどこら辺だ?」


「北の先端せんたんです」


 ブルアルバーロの街なら何度も行ったことがある。冒険者ギルドがあったから知り合いも多い。ただ、いつも地下を素通すどおりしてたからな。周辺のことはくわしくない。


 でも、どうしてブルアルバーロなんだ。石化させられた時は、はるか南にいたんだけどな。まさか、石像のまま捨てられ、海をただよい続けて、ここに流れ着いたなんてことはないよな。


 もしそうなら、一発、二発なぐるだけじゃ気が済まないな。


 さて、いったい何年石になってたかだ。正直、聞くのが怖い。あいつとのレベル差を考えると、数年単位になってもおかしくない。


 彼女が意外と早く見つけてくれたことを祈ろう。


「ちなみに、今は何年だ?」


「十五年です」


「十五年って……」


 俺の記憶では七百二十五年だったんだけどな。時をさかのぼったわけじゃないよな。


「ずいぶんと数字が小さくなったな」


「ああ……。新暦しんれきの十五年です。改暦かいれきが行われたんですよ。確か、旧暦きゅうれきは七百三十年が最後の年だったと思います」


 七百三十年が最後の年で、今が十五年ということは……二十年!? そんな長い間、俺は石化してたのか!?


「何十年も石化していたなんて言わないですよね?」


「……」


 言葉を失った。信じたくないが、彼女がウソをついているとは思えない。そうか、あいつは本気だったのか。


 じゃあ、なんだ。俺にとってはついさっきのことが、もう二十年も前のできごとになってるってわけか。


 笑えない。冗談だと言ってくれ。


 石化させられた時に、あいつに言われた言葉がよみがえる。全身が怒りにふるえた。


「そこ知り合いの家なんで、何かもらってきますね。ここで待っていてください」


 彼女はそう言って、近くの家に入っていった。



     ◇



 彼女のやさしさにふれ、気分が落ち着いてきた。まだ確定したわけじゃない。いや、彼女がウソつきだと言っているわけじゃないんだが。


 おとなしく待っている時、なにかが近くの草むらで動いた。気になって見に行くと、赤い水たまりが地をはっていた。そして、それは奥の草やぶへサッと姿を消した。


 見まちがいじゃない。明らかにスライムだった。


 もう一度姿を見せないか、しばらく待ってみる。スライムなんか、めずらしくもなんともないが、ダンジョンの外にいるとなると話は別だ。


「どうしたんですか?」


 いつの間にか、彼女が戻って来ていた。手に持った木皿きざらには、パンと魚の干物ひものがのっている。


「スライムがそこら辺をうろついていたんだ」


「はい……」


 さも当然といった顔をされる。石化していた二十年で、常識が変わったのか? 不思議に思って辺りを見まわすと、別のスライムを十数メートル先に見つけた。


「おい、あそこにもスライムがいるぞ」


「……そうですね」


 なんだ、その反応は。ダンジョンの外にモンスターがいるのは普通じゃないぞ。この町はスライムの飼育でもしているのか?


「この町ではめずらしくないんですよ」


「……そうなのか?」


「うちの町はスライムと共生きょうせいする方針なんです」


「……なんだって?」


 スライムと共生? なんのために?


 時代が変わったのか。俺の時代より、はるかに進んでる。町にいながらモンスターが狩れる。かけだしの冒険者や、レベルの低い子供にとってはありがたいことかもしれない。


 でも、スライムにどんな利益があるんだ。エーテルのうすい地上なんて、モンスターにとって息苦しいだけの場所だろ。


「じょ、冗談ですよ。に受けないでください」


「ん? 冗談?」


 意味がわからない。なんでそんな冗談言った? 別におもしろくないし、実際スライムは歩いているし。


「実は複雑な事情がありまして……。いつもスライムを駆除くじょしてくれていた連邦の方がですね、一身上いっしんじょうの都合で本国ほんごくに戻られているんです」


「……連邦の方って何だ?」


「連邦から派遣はけんされた役人の方です」


 連邦……? そんな国は俺の時代になかったぞ。


「それはともかく、スライムなんか、冒険者が進んで退治してくれるだろ?」


「ご存じないんですか? スライムは物理攻撃があまり通用しないんですよ」


「知ってるよ。でも、魔法をおぼえたての冒険者とか、そういうのがくさるほどいるだろ?」


「魔導士は引く手あまたですから、今どき冒険者なんてやりませんよ」


 言っている意味はわかったが、まったく話がのみこめない。


 たとえ魔法が使えなくとも、ルーキーの冒険者なら、スライムなんて素手すでで倒せるだろ。たった二十年でなにが起こった。天地がひっくり返ったのか。



     ◇



 俺は道ばたのスライムに目を向けた。


 地をはいつくばるゲル状のモンスター。中心に輝くかくが、透明な体を赤く染めている。どこからどう見ても、ただのスライムにしか見えない。


 とりあえず、この目で確かめよう。なにが変わったのかを。


「あぶないですよ! ヤケドしますよ!」


 ヤケドって……。大げさだな。スライムにビビりすぎだろ。


 それとも、こいつは俺の知っているスライムじゃないのか? 常人じょうじんじゃ手におえないぐらいのモンスターにパワーアップしたのか?


 限界まで気配を消し、静かに歩み寄る。逃げ足だけは速いから、高レベルの冒険者がスライムを狩るのは意外と難しい。


 目前まで近づいたところで、足もとのスライムを軽くけり上げる。エーテルの光が飛びちって、核である結晶が地面にころがった。


 なんだよ。やっぱり、ただのスライムじゃないか。ワクワクさせんなよ。

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