勇者(脱獄犯)、冒険者たちの苦境を知る
◇ スニード
やったぞ。ルニーナをなんとか説得できた。これで百人力だ。
現状、ダンジョンをひとりで進むのは危険すぎる。だが、ルニーナさえいれば下層まで行けるし、そこで結晶なり鉱石なりを取ってくれば、当面の資金を調達できる。
「それで、これからどうするんですか? いきなりゴルフポールドへ行くんですか?」
「とりあえず、ダンジョンをぬけて、安全な街へ行きたいな」
「安全な街というと……?」
「連邦の魔導士がいなくて、冒険者のたまり場になってる街がいいな」
「私、他の国のことはくわしくないんですけど、今どき、連邦に従っていない国なんてあるんでしょうか」
「そんな状況なのか。じゃあ、あいつらはなんなんだ?」
「そうそう、聞いたことあります。連邦に抵抗している冒険者ギルドがあるって」
「それだ! そいつらがいる街へ行こう」
「どこにいるのかなんて知りませんよ。風の噂を耳にしたくらいですから」
「さっきのやつらに聞いたほうが早いか……」
でも、魔導士がウジャウジャいる場所に戻るのもな。いちおう脱獄犯だし、あいつらがまだいるともかぎらない。失敗したかな。
その時、入口のほうから、足音と話し声が聞こえてきた。
◇
「誰か来るぞ」
ルニーナを岩かげに連れこみ、そちらの様子をうかがう。どうやら二人組だ。逆光でよく見えないが、ローブを着た魔導士のシルエットではない。
かすかに話し声が聞こえる。聞きおぼえがあった。現れたのは監獄で相部屋だった男――バターロだった。
「おい」
小声で呼びかけると、二人組が身がまえた。
「俺だ。監獄で一緒だったウヌオだ」
「おお、あんたも無事だったか」
「ああ、命からがらにな」
「バターロさん、この人たちは?」
一緒にいた少年が声を上げる。年齢は十五歳くらい。こんな子供も戦ってたのか。
「俺たちを監獄から救いだしてくれた恩人だ。かなりの冒険者だぞ。俺とはくらべものにならないくらいにな。こいつはダンツォだ」
「ウヌオだ」
「よろしくお願いします」
「聞くまでもないと思うが、カーニバルはどうなった?」
「俺たちの負けだ。完膚なきまでにたたきのめされた。俺が仲間と合流した時には、あとの祭りだった」
「リーダーのフォルトさんを始め、多くの仲間が捕まりました。街から脱出した仲間も逃げのびられたかどうか……」
ダンツォは声をふるわせている。
「はた目からも無謀な戦いに見えたが、最初から勝算はあったのか?」
「冷血卿が誤算だった。レベルが80近いという話だし、今回の襲撃はあいつの留守をねらって決行したのに」
「大通りで暴れまわっていたあいつか」
「本来なら、あいつは北方へ向かっているはずだったんです。まんまと踊らされました」
「助けに来た側が捕まるという皮肉なことになってしまったが、ウヌオのおかげで、最悪の結果だけはまぬがれた。ありがとう」
「ああ。それより、まだ事情がのみこめてないんだが、良かったらくわしく教えてくれないか。協力できることがあるかもしれない」
◇
二人から聞かされた話は衝撃的なものだった。
連邦は自らの領地で、ダンジョンの封鎖や、通行の規制をするなどしていて、それに反発した冒険者たちとの衝突が、大陸全土で巻き起こっているそうだ。
現在は冒険者側の劣勢で、多くの冒険者ギルドが解散に追いこまれ、残っているものも弱体化の一途をたどっているらしい。
「連邦は自らの手でダンジョンのすみずみまで『管理』する気だ」
「しかし、あれだけ広大なダンジョンを『管理』するって、途方もないことを始めたな。思い上がっているとしか思えないが」
「実際、うまく行っているから厄介だ。ダンジョンは地下でつながっているから、やつらの領地でなくとも影響が出てくるからな。聞くところによれば、地道に地図を作って、エーテルの流れを詳細に把握しているらしい。敵ながら頭が下がるよ」
俺の時代にも地図はあったが、主要なルートや狩場を記しただけで、全体の一割もカバーしていないシンプルなものだった。まあ、未知の場所が多いからこそ、冒険が楽しかったんだけどな。
「連邦のせいで、第二、第三階層のモンスターが特に減りました。エーテルが上から流れて来なくなったんです。しかも、うろついてるのがアンデッド系の魔法しかきかないモンスターが多くて、戦士系の冒険者がレベルを上げる場所が、どんどんと少なくなっています」
「あそこのダンジョンもスライムだらけだったな。あれは意図的なものだったってことか」
許せない。ますます見過ごせなくなった。大好きなダンジョンをメチャクチャにしやがって。
「しかし、連邦は何の得があって、そんな大がかりなことを始めたんだ? 冒険者への嫌がらせってわけじゃないよな」
「それも理由の一つかもしれませんよ。自分たちの戦力が相対的に上がるんですから」
「それはそうだが、モンスターが減少すれば、あいつらだって困るだろ?」
「一番の理由はあのリングを作るためだろう」
「……リング?」
「やつらはエーテルリングと呼んでいます。魔導士しか使えない、人工のエーテル結晶が付いているんです」
「人工のエーテル結晶……。来るところまで来たな」
そういえば、ノルダピエードのダンジョンに、エーテルを利用したライトがあったな。あれと同じようなものか。
「リングがあれば、結晶がなくても力を回復できる。つまり、あいつらはモンスターを狩る必要がないんだ」
そういうことか。あのレベル78の魔導士は、それがあるから全力で魔法をぶっぱなすことができたのか。おかしいと思った。
「そのリングとやらがあれば、地上でも力が使いたい放題ってわけか」
「そうです。作るのに結構な時間がかかるそうで、一部の連中しか使えないって話ですけどね」
「だから、やつらと地上で戦うのは得策じゃない。とはいえ、連中はめったにダンジョンにもぐらないけどな」
「それはどうやって作ってるんだ?」
「くわしくはわからないが、エーテルの精製とやつらは呼んでいる。魔法を使っているのは確かだ。第三階層あたりに施設を作るそうだ。それは大陸各地にあって一番有名なのがゴルフポールドにある。ダンジョンを『管理』してるのも、エーテル濃度の高い場所を作りだすためだ」
「それがあれば、モンスターがいなくなっても影響なしか……」
「ああ。リングのおかげで、連邦の魔導士とのレベル差が年々開いてきている。なにせ、あいつらは地上にいながらレベル上げができるからな」
地上でレベル上げか……。あきれて言葉が出ない。何の夢もないな。常識が完全にくつがえっちまった。
「フォルトさんは、俺たちの組織で唯一のレベル50超えだったのに、ああもあっさり負けるなんて……」
ダンツォはこの世の終わりって顔をしている。かけてやる言葉が見つからない。




