勇者(脱獄犯)、ルニーナにすべてを告白する
◇ ルニーナ
「理由を話したら、ついて来てくれるか?」
「はい……。いえ、まちがえました。理由を聞いてから考えます」
真剣な表情だったので、口がすべりました。
彼がため息をつきます。そこまで言いたくないのでしょうか。見てるだけで、息がつまりそうです。
「実はな。俺ってさあ……、レベルが高いだろ?」
「はい……」
――ん? なんですか? ここまで引っぱって自慢ですか?
「確か、39でしたよね?」
「いや、39じゃないんだ」
「この間、私がこっそり計った時には39でしたよ」
「そう見えたかもしれないが、実際は違うんだ。だったら、ここでもう一度計ってみてくれ」
私の見まちがえだと言うんでしょうか。レベル39と表示されたのをハッキリおぼえていますが、本人がそこまで言うなら、計り直すしかありません。
〈解析〉の魔法を使用してから数秒後、思った通り、空中に39という数値が浮かび上がりました。
「やっぱり39ですよ。どこからどう見ても39です」
「39っていうのは合ってるんだが、それの前に棒が付いてないか?」
「棒……? はい、付いてます! 棒が付いてます!」
確かに棒が付いています。なんですか、この棒。今まで見たことがありません。でも、もしかしたら毎回表示されてたかも……。ダメです、確信が持てません。
「俺のレベルはマイナス39なんだ」
「……マイナス? マイナスってどういうことですか?」
「マイナスっていうのは……、例えば、こっちがプラスだとすると、こっちがマイナスだ」
彼がジェスチャーで説明します。ちなみに、最初のこっちが右手で、次のこっちが左手でした。
「マイナスの意味はわかりますよ!」
すかさずツッコみます。説明が難しいのはわかりますけど、かえってわかりにくいです。
「私が聞きたいのは、レベルがマイナスになる理屈です」
「第五階層にいる『神獣』を倒すと、褒美として一つ願いをかなえてもらえるのを知ってるか?」
「はい」
有名な話です。財宝だとか金貨だとか、物をもらうことはできないそうですが、かなり無茶な願いでもかなえてもらえるそうです。
「その時、レベル99を超えられるようにしてもらったんだ。それからレベルを上げ続けたんだけど、130くらいの時に減り始めるようになって、よく見たらマイナスになっていた」
「……」
言葉がありません。『神獣』を倒したことすら、サラッと言ってますし。本当に『伝説の勇者』ってことですか?
確か、レベル99が人類の限界と言われています。それに到達する人すらほとんどいないのに、それすら超えているって……。想像ができません。
でも、それだけレベルが高いとなると、壁を壊したことや、城壁を飛びこえたことも説明がつきますか。
「本題はここからなんだが……、レベルがマイナスになってから、状態異常の攻撃に百発百中でかかるようになったんだ。そこら辺にいるトードの毒にもな。なにせ、レベルがマイナスだから、レベル1のモンスターより低いあつかいなんだ」
確か、トードは第一階層にいる低レベルのモンスターで、毒液を吐くそうです。毒をもらうと気分が悪くなって、体力の消耗が早くなります。
納得がいきました。彼の言葉を信じない理由はありません。
バケモノじみて強いのに、ダンジョンへ入ることに慎重だったり、連邦の魔導士をしつように警戒したり。これまでの彼のあやしい行動に説明がつきます。
「つまり、私に一緒に来てほしい理由は……?」
「ストレートに言えば、魔法でバリアを張れる仲間がほしいんだ。マヒしたり、石化した時に、白魔法で治療してもらえたら、さらに助かる」
私のような魔導士が必要不可欠な存在ということですか。もし今の話が本当なら、そういう仲間がほしくなるのは当たり前ですね。
「ちょ、ちょっと待ってください。まさか、あなたは本当に『伝説の勇者』ってことですか……?」
「ああ。もちろん、昔は『伝説』なんて言葉が頭についていなかったけどな。この二十年間、石化させらていたんだ」
つまり、あの広場にあった石像は彼自身で、言わば、さらし者にされてたってことですか。ヒドい話です。心の底から同情します。
「……石になられていた時は、どんな感じだったんですか?」
「うん、まあ……、石化時の意識はないから、二十年前が昨日のことのように一瞬だったかな」
「事情はわかりましたけど、私には無理ですよ。そんな人のサポートをするなんて。だって私、レベル6ですよ?」
「5じゃなかったか?」
「あの日、6に上がったんです」
「大丈夫だよ。お前のことは、俺が絶対に守るから。モンスターなんて、これっぽっちも怖くない。怖いのは状態異常だけだ」
「……今まではどうされてたんですか?」
「昔は魔導士の仲間がいた。でも、もうそいつには頼れない」
彼がとたんに暗い顔をして、地面に目を落としました。怒りをおさえているような感じも受けます。
「代わりの魔導士が見つかるまででいいんだ」
助けてあげたい気持ちはあります。なんだかんだで、彼には助けてもらい……、いやいや、原因を作ったのは全部彼ですね。私は迷惑をかけられたほうでした。
それに、私にその役目がつとまるんでしょうか。〈バリア〉の魔法はあらゆる攻撃を効率的に防御できます。防御力の低い魔導士の特権とも言える魔法です。
難しい魔法ではないので、しっかりおぼえてますけど、実戦で使用した経験はありません。
「今の俺にとっては、第二階層にいるモンスターですら危険な存在なんだ。トードに食らった毒は治らないし、バットの金切り声で耳は聞こえなくなるし、スネークにかまれたら全身マヒだし……」
顔面を両手でおおいながら、たたみかけてきました。指のすき間から、こっそりこちらの反応を見ています。なんか、わざとらしいので冷めてきました。
やっぱり、やめようかなあ……。
「全身マヒの怖さは石化とひと味もふた味も違うんだ。意識だけはあるから、もしひとりでダンジョンに取り残されたりしたら……」
「わかりましたよ! 代わりの人が見つかるまでですよ」
「……本当か?」
「でも、お礼はきっちりもらいますよ。タダ働きは嫌ですからね。私だって生活があるんですから。きっと役人は辞めさせられると思いますし」
「わかってるよ」
「どんなものがもらえるのか、具体的に教えてください」
「じゃあ、国を一つ」
たぶん、ふざけると思いました
「いりません。私には重すぎます。ヤギが背負えるぐらいのものにしてください」
「……なんでヤギ?」
「ヤギに背負わせて持ち帰るんです」
「そうか。だったら、ヤギが背負える重量のものを、なんでもプレゼントするよ」
「わかりました。あと、代わりの方が見つかったら、ちゃんとノルダピエードまで送り届けてくださいね」




