勇者(脱獄犯)、冷血卿のレベルをチェックする
◇ スニード
「足もとに一人ころがってるな」
やつの前方――ちょうど大通りのまん中に、冒険者の格好をした男が倒れている。
「気絶しているんでしょうか」
「パッと見、ケガはしてないから、魔法でやられただけか。ていうか、あいつはなんで、あんな目立つ場所でつっ立ったままなんだ?」
あれじゃあ、相手が近づいてこないと攻撃できないし、どこからでも攻撃してくださいと言っているようなものじゃないか。
――そうか。あの倒れている男は釣りエサか。どうぞ、ご自由に助けてくださいってことか。悪趣味だな。あいつ、相当性格が悪いだろ。
「あの魔法を受けたら、どうなるんでしょうか」
「まともに食らったら、全身が焼けるように熱くなる。そして、まちがいなく失神する。でも、死んだりしないから安心しろ。それが魔法ってもんさ」
「じゃあ、炎が大きいだけで、スライムが吐くものと変わらないってことですね」
モンスターの吐く炎も、魔法で発現された炎も、実際の炎とは根本的に違う。しょせん、まがい物だ。そうでなければ、冒険なんてあぶなっかしくてやってられない。
「ただ、相手が人間だと、失神した後に何をされるかわからないけどな」
「ダンジョンで失神したら、どうなるんですか?」
「やさしい冒険者に出会えば、地上やベースキャンプまで運んでくれる。やさしくない冒険者に出会えば、身ぐるみをはがされ、目覚めるまで放置される。ダンジョンはエーテルの影響で暖かいから、凍死の心配はないぞ」
「冒険者も大変なんですね……」
モンスターは気絶した人間に興味を示さない。悲しいことだが、ダンジョンではモンスターより同業者のほうが厄介だ。
門柱の上の魔導士が攻撃の手をとめた。そして、獲物を誘いこむかのように、両手をさげて無防備な様子を見せる。
「レベルが高いと、あんな魔法が使えるんですね……」
「やっぱり、あいつ普通じゃないな」
「私にもわかります」
「いや、そうじゃない」
魔法の威力を見るかぎり、あいつは第五階層をうろついているレベル。めずらしいといえばめずらしいが、『神獣』と毎日のように戦っていた俺からすれば、かわいいものだ。
ただ、ここはエーテルのうすい地上だ。第五階層のノリで魔法をぶっぱなせば、あっという間に力を使いきる。あいつがそれをわかってないとは、とうてい思えない。
そうすると、手加減してあの威力ってことになるが、仮にそうだとするとレベルの見当がつかない。
「ちょっとレベルを計ってみてくれないか?」
「またそんな危険なことを。使われた側はわかるんですよね? 気づかれちゃったら、どうするんですか?」
「大丈夫、大丈夫。魔導士は足が遅いから、お前をおぶってでも、楽勝で逃げきれる」
ルニーナは沈黙したまま、そっぽを向いた。まあ、気持ちはわかる。俺もできるならあいつと関わり合いたくない。
「しかたない。このコブシで確かめるしかないか」
「わかりましたよ!」
観念したルニーナが、ブツブツと呪文をとなえだす。いちおう、攻撃に備えておこう。この状況なら、あいつは多少の魔法を使われても気にしないと思うが。
ルニーナの顔つきが変わった。目を大きく見開いている。
「いくつだ?」
「スゴいです……。レベル78です」
「レベル78……。レベル78と言われれば、レベル78だな」
後だしだけど、だいたいレベル80くらいだと予想していた。ほぼ正解だったわけだが、それは全力で魔法を使っていると仮定してのことだ。
結局、あいつはそうしていたわけだ。イカれてるとしか思えない。あんなことしてたら、三分で力を使い果たすぞ。後先を考えてないのか?
「あいつをぶっ倒したら、形勢逆転するかなあ」
「何言っているんですか。私の言ったこと信用してないんですか?」
「そういうわけじゃないが」
「78っていったら、39のちょうど二倍ですよ」
「はは、確かにちょうど二倍だな」
まあ、レベル39でレベル78に挑むのは無謀きわまりない。鼻歌まじりに一蹴されるだろう。
「笑いごとじゃないです」
ルニーナに強い調子でたしなめられた。でも、俺はただのレベル39じゃないからなあ。
まあ、実際笑いごとじゃないのも事実だ。あいつに〈石化〉の魔法を使われたりしたら、また十年コースで石像になりかねない。
「俺もできるなら戦いたくないが……」
ハッキリ言って、あいつだけならどうにかなる。地上なら、全力で戦えるのはせいぜい三分だが、それだけあれば決着をつけられる。
〈火炎〉の魔法がお気に入りみたいだし、いきなり〈石化〉の魔法を使ってきたりしないはずだ。そんなひねくれたことをするのはリッチぐらいだ。
問題はあいつを倒した後だ。あいつと同等のやつがもう一人いるかもしれないし、力を使い果たしていたら、レベル20や30の魔導士でも危険だ。
◇
近くから足音が聞こえてきた。そちらを振り向くと、二人組の役人が生け垣ごしに見えた。こちらへ歩いて来る。
「静かにしろ」
ルニーナの頭をおさえて身をかがめる。二人組はすぐ脇を通りすぎて、例の魔導士のもとへ小走りで向かった。
「行きました?」
「ああ」
「あっ、あの人が動きだしましたよ」
「ハンティングにお出かけか」
やつが門柱から飛びおりる。そして、さっきの二人組と会話を始めた。周囲を警戒する様子はない。もうカーニバルは終了したということか。
「どうしますか? こっちに来るかもしれませんよ」
「そろそろ潮時か」
もう勝負は決している。近くで戦闘をしている気配はない。このままだと包囲されかねないな。俺にとってはかなり危険な状態だ。
「よし、この街を離れよう」
「あっ!」
ルニーナが大通りの向こう側を指さす。役人に追われた冒険者風の男二人が、脇道を進んでこちらへやって来る。
「このままだと鉢合わせますよ」
タイミング悪く、大通りへの出口のところに、ちょうどやつが向かっている。
あせりながら辺りを見まわす。ほうっておけないな。
「逃げる準備をしておけ。あいつらを助けたら、すぐに行くぞ」
「あぶないですよ」
「ちょっかいを出すだけだよ」
タイミングを見計らう。心臓がバクバクいっている。やつが冒険者のいる脇道の前に差しかかった時、生け垣を飛び越えて大通りに出た。
「おい! こっちだ!」
大声を張り上げると、やつが振り向いた。すかさず身がまえて、右腕を振りぬく。
本気でやると顔をおぼえられそうなので、風を巻き起こす程度にした。やつは顔の前へ両腕をかざし、あ然としている。
追われていた冒険者が脇を通りぬけていく。それを確認してから、ルニーナのところへ戻った。




