勇者(脱獄犯)、カーニバルの会場へ向かう
◇ スニード
脱獄することに決めた。もうここには用がないし、このままだとカーニバルに乗り遅れる。あっ気に取られていたルニーナを抱きかかえようとする。
「えっ、えっ!?」
多少抵抗されたが、かまわず続けた。ルニーナにはついて来てもらわないと困る。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
なぜか、バターロに引きとめられた。
「他の仲間も助けたいんだがいいか?」
そういえば、仲間が山ほど捕まっていると言ってたな。ここにあけた穴では、俺たちしか逃げられないか。
大勢で脱獄したほうが、俺だって逃げやすくなる。やらない手はないな。さっきの半分以下の力で通路側の壁を破壊した。
「本当にスゴいな。こんなことができるやつは初めて見た」
「さすがに全部の壁を壊すのは面倒だ。カギを探して来てくれないか?」
「わかった」
役人や看守と遭遇したくないので、バターロに行ってもらう。カーニバルに参加しているのか、連中の姿はなく、無事にカギを発見したようだ。
バターロが扉のカギを順々に開けていく。全部開けるのは時間がかかりそうだな。もう行ってもいいかな。
「ありがてえ」
「こっちも開けてくれ!」
解放された囚人が次々とフロアを出て行く。騒ぎになってきた。一階にいる連中が気づいたかもしれない。
バターロが他の仲間にカギを預け、こちらへやって来た。
「別のフロアにいる仲間も助けてくる」
「俺はカーニバルの見物に行くよ」
「わかった。俺たちもすぐにかけつける」
バターロと別れた。これだけの人数がいれば、一階の役人たちも怖くないだろう。俺は怖いので別ルートから行く。
ルニーナのところへ戻ると、おとなしくベンチに座っていた。なかなかの精神力だ。こんな状況でも平常心をたもっている。
「俺たちも行くぞ」
何も言わなかったが、行きたくないといった顔をしている。
ただ、ルニーナの意思なんかどうでもいい。問答無用に連れて行く。これから魔導士だらけのカーニバルに参加するんだからな。
もう一度、ルニーナを抱きかかえようとする。
「わ、私はここで待ってますよ。意外と安全そうですし、外で何が起きているのかわからないから不安ですし。それと、今後のために、壁に穴があいた環境に慣れておきたいですから」
「何言ってるんだ。こんなところにいるほうがあぶないだろ?」
「それはそうですけど……、外は外で危険ですよね?」
「大丈夫だよ。俺が絶対に守るから安心しろ」
「……まあ、そこまで言うなら」
実は、俺もお前に守ってもらいたいんだけどな。それはその時が来てから頼もう。
ルニーナを抱きかかえて、さっきあけた穴から外へ出ようとする。
「ちょっと待ってください!」
「なんだ、自分でおりられるか?」
「そうじゃありません。よりによって、どうして飛びおりるんですか。他のみなさんと一緒に、階段を使って下におりましょうよ」
「下には役人がいるからな。それに、こっちのほうが断然早いだろ?」
「ここは二階ですよね。いえ、普通の二階よりも高いです。三階くらいあります」
「二階も三階も四階も変わらないって」
高低差数百メートルあるダンジョンを渡り歩いてきた。このぐらいなら、階段を一段おりるのと変わらない。
「怖かったら目をつむってろ」
さっさとおりれば、文句は出ないだろう。ちょうどいい位置に塀がある。あそこを足場に、いっきに敷地の外へ出よう。
◇
「ほら、もう地面に着いたぞ」
難なく敷地の外に着地し、目をつむっていたルニーナを地面におろす。
「これで私も脱獄犯ですか……」
へこんでいるルニーナはほうっておいて、辺りを見まわす。こっちは監獄の裏手か。なんとなく見おぼえがある道だ。
近くに役人は見当たらない。妙に静かだ。ただ、監獄の向こう側は騒がしい。あいつらはうまくやっているのだろうか。
とにかく、カーニバルを見に行こう。あっちのほうが一大事だ。方角だけはわかっている。ルニーナの手を引いて、大通りのほうへ向かった。
「どこへ行くんですか!」
「カーニバルの会場だよ」
「あぶないですよ!」
ルニーナの言葉に耳を貸さず、大通りへ出た。
騒ぎになっていた方向を見る。人通りはないが、遠くに人影が見える。反対側を見ると、結構な人だかりができていたが、避難してきた住人という感じだ。
とりあえず、行ってみよう。
向かっている途中、前方で巨大な炎が上がった。〈火炎〉の魔法だ。まだカーニバルは終わってない。
「今の魔法じゃないですか!」
「わかってるよ!」
遠目からでも並の魔法でないことはわかった。ある程度接近したところで脇道へ入る。すると、役人の後ろ姿が目に入り、とっさに近くの民家へ逃げこんだ。
「不法侵入ですよ」
「それもわかってる」
建物と塀の間を慎重に進んで、炎が上がったほうへ向かう。別の方向から大声が聞こえたが、よく聞き取れなかった。
小道を一本渡って別の民家へ入った時、視界のはしで炎をとらえた。その出どころへ目を向けると、デカい建物をバックにして、門柱の上にたたずむ魔導士がいる。
その魔導士は役人たちと異なるローブを着ていて、大通りのほうへ向かって、狂ったように〈火炎〉の魔法を乱発していた。
ここからではそいつ以外の状況がわからない。場所を移動して、生け垣と塀のすき間から様子をうかがった。
「スゴい魔法ですね」
「ああ、地上ではめったにお目にかかれないレベルだ」
冒険者側が劣勢なのはあいつが原因かな。俺ですら危険を感じる。今まで連邦を甘く見てたが、デカい顔をしているのはダテじゃないな。




