表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
23/49

勇者(囚人)、カーニバルを見に行くと決める

     ◇ ルニーナ



 それから数分ほど後のことでしょうか。


 遠くのほうから、怒声どせいや女性の悲鳴がたて続けに聞こえてきました。いよいよ外が騒がしくなってきました。ここにもやって来そうな勢いです。


「カーニバルが始まったみたいだぞ」


「そうだな」


 バターロさんが得意げに答えました。


 なんだか、ここにいたほうが安全な気がしてきました。もしかしたら、手違てちがいでここに入れられたことは、幸運だったのかもしれません。


「役所だ! 役所が襲撃されている!」


 すぐ外で上がった声がハッキリと耳に届きました。彼とバターロさんが満面まんめんの笑みで顔を見合わせます。


「ルニーナ、俺たちの仲間が戦ってるぞ」


 彼がうれしそうに語りかけてきます。


訂正ていせいしてください。私の仲間ではないですよね」


 細かいことを言うようですが、聞き捨てなりませんでした。


「それより、私たち大丈夫ですか? 巻きこまれたりしないですよね?」


「俺はすぐにでも巻きこんでもらいたいんだけどな」


 そう言った彼が小さな窓のところまでジャンプします。


「まだ近くまでは来ていないみたいだな」


「役所での用事が済んだら、こっちに来るだろう」


「冒険者どもはあっちだ!」


 その時、再び外から声が聞こえました。


「ったく、何が冒険者どもだよ」


 彼がイラッとした様子でつぶやいてから、下におりてきました。


「おもしろくなってきたな」


「私はまったくおもしろくありません」


「じゃあ、今すぐカーニバルに参加しに行くか?」


「何言っているんですか。安全な監獄かんごくでおとなしくしていましょうよ。第一、どうやってここから出る気ですか」


「でもなあ……」


「兄さん、そうあわてるな。いずれここも戦場になるぞ」


 戦場ってなんですか。物騒ぶっそうな言葉で、彼を刺激しげきしないでください。カーニバルの設定はどこに行ったんですか。


「だってさ。どうする?」


「なおさら、あわてなきゃダメですよね」


 やっぱり、考えをあらためました。こんなせまくて暗くて、不自由きわまりない場所が、安全なわけありません。


「バターロの仲間たちなんだよな?」


「そうなるかな」


「そうすると、あんたを助けに来るってわけか?」


「俺のためだけじゃないさ。ここに捕まっている仲間は山ほどいるからな」


 彼がベンチに腰をおろします。今にも走りだしていきそうな様子ですが、待つことに決めたようです。



     ◇



 それから三十分ほど経過したでしょうか。バターロさんの仲間の到着待ちです。でも、いっこうに現れません。


 さきほどまで胸がドキドキしていたのですが、だいぶ落ち着いてきました。彼も瞑想めいそうに入るぐらいヒマしています。


「なんか、静かになったな」


 彼の言う通り、少し前までは時おり大声が聞こえてきてたんですが、それもなくなりました。バターロさんの顔からも余裕がなくなりました。


「終わってないか? カーニバル」


 私もそう思います。無事にプログラムを終えて、もう解散したのではないでしょうか。


 彼が小さな窓から外を確認します。どんな景色けしきが見えるのか、少し気になってきました。


「……誰もいない。カーニバルがやって来ない」


 彼が元気のない声でボソッと言いました。


「あんたの仲間、ヤバいんじゃないのか?」


「……」


 バターロさんは黙りました。おりてきた彼が考えこみます。


「向こうが来ないなら、こっちから行くしかないな」


 もうツッコむ元気がないのでそっぽを向きました。すると、彼が両手をつないでいた手かせのくさりをいじり始めます。


 そして、それをパンでもちぎるように引きさいたかと思うと、手首にハマっていた部分も、そででもめくり上げるように引きはがしてしまったのです。


 床に落とされた手かせの残骸ざんがいを、私とバターロさんはあ然と見ていました。同様に足かせを外した彼は、それも床にほうり投げました。


「ちょっと下がってろ」


 彼が外側の壁の前に立って、後ろ手で私たちを下がらせます。まもなく、精神集中を始めました。ちょっと何する気ですか。やめてください。


 彼が身がまえます。本気です。右腕に力がこめられていきます。何をやろうとしているか、一瞬でわかりました。もっとかしこ脱獄だつごくの方法があるんじゃないですか?


 ほどなく、かまえた右のコブシが閃光せんこうを放ちました。


 私はとっさに目をつむりました。耳をつんざくような巨大な爆発音がした後、パラパラと砂や小石がくずれ落ちる音が、しばらくひびき続けました。


 恐る恐る目を開けると、部屋の中に土煙つちけむりが立ちこめていて、私はせきこんでしまいました。


 それが晴れると、彼がすがすがしい表情でこちらを振り向いています。その先には一メートル大の穴があり、そこからは街を見渡すことができました。


「よし、カーニバルを見に行くぞ」


「あ、ああ……」


 恥ずかしながら、今日初めて知りました。たとえぶ厚い石の壁だろうと、人間やろうと思えば、素手すでで破壊できるって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ