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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
22/49

勇者(囚人)、カーニバルを待ちわびる

     ◇ ルニーナ



 冷たいへいの中で、新しい朝をむかえてしまいました。監獄かんごく生活がまさかの二日目突入です。


 昨夜はバターロさんがベッドを使っていたので、ベンチに座ったまま寝ました。となりに彼がいたので、寝た心地ここちがしません。


 ――と言いたいところですが、気づいたら朝でした。一度も目がさめず、起きた時には彼に寄りかかっていました。こんな状況でも熟睡じゅくすいできる自分の精神力が怖いです。


 上に確認してくると言った看守かんしゅの方は、あれから戻ってきませんでした。いったいどこまで行ったのでしょう。冒険の旅にでも出発されたのでしょうか。


 夕食を運んできた別の看守の方にも頼んでみましたが、それきり音沙汰おとさたがありません。上司捜索のため、今もどこかを冒険している可能性もあるので、悪く言うこともできません。


 今朝けさ、新たな看守の方がささやかな朝食を運んできました。いったい看守って何人いらっしゃるんでしょう。昨日の方が行方不明だから、新たにやとわれたのでしょうか。


「今日は夜まで食事ぬきだ」


 新たな看守の方から、そう言い渡されました。当然ながら、囚人しゅうじんのみなさんは大反発です。しばらく罵声ばせいが飛びかっていたので、今回は頼みごとをする雰囲気じゃありませんでした。


 私は最悪の気分でしたが、彼は朝から上機嫌じょうきげんです。


 昨日、同室どうしつのバターロさんから、カーニバルがあると意味深いみしんなことを言われたからでしょうか。彼は子供のように目を輝かせながら、カーニバルの話をせがみました。


 けれど、バターロさんは期待をあおるばかりで、けむに巻き続けます。たぶん、たわいのないことです。いえ、たわいのないことであってください。お願いします。



     ◇



 それは昼頃のことでした。


 特にすることもないので、彼の鼻歌を聞きながら、小さな窓からわずかにのぞく空を見上げていたんですが、突然ドアが勢いよく開かれた音がひびきました。


 看守の方がやって来たようです。昨日の方がついに冒険から戻られたのではないか。そんなあわい期待をいだきました。


「大変だ!」


 けれど、あわてた様子の声が聞こえたかと思うと、すぐにバタンとドアをめる音がひびきました。


 何があったのでしょうか。監獄内が不気味なほど静まりかえります。


「どうした?」


 バターロさんが扉のそばで外に向かって呼びかけます。


「看守が呼ばれて出て行った。役人どもが騒いでいるみたいだ」


 どこからともなく、お友だちの声が返ってきます。


「何かあったのか?」


 彼がソワソワした様子で問いかけます。


「カーニバルが始まったのかもな」


 ニヤリと笑ったバターロさんが、彼の心をワンパターンにくすぐります。彼はもう完全にとりこになっています。


 数分後、今度は窓の外から大声が聞こえてきました。本当にカーニバルが始まったのでしょうか。


 ふと窓を見上げた彼が、高さ三メートル近くあるそこまで、軽くひとっ飛びしました。そして、鉄格子てつごうしをつかんで、腕の力だけでぶらさがりました。


 まるで、ふみ台の上に立っているかのように自然な体勢です。体に力が入っていません。どうなってるんですか。両手足を拘束こうそくされたまま、そんな身軽みがるに動かないでください。


 バターロさんもちょっと引いているじゃないですか。


「何か見えますか?」


「役人たちがあっちのほうへ向かってるな」


 彼は鉄格子に顔を押し当てて、左方向をのぞきこんでいます。


「向こうのほうで騒ぎが起こっている気もするが……。ダメだ、ここからじゃ何もわからない」


 彼がおりてきました。落ち着かない様子でせまい部屋を行ったり来たりしています。


「見に行ってこようかなあ……」


 彼がつぶやきます。どうやってですか。彼はここへ来た時にも、脱獄だつごくを口にしていましたが、どうするつもりなんでしょうか。


 扉は鉄製ですし、ぶ厚い石の壁に囲まれてます。窓のところを見れば、その厚さがわかります。その窓も頭さえ通りそうにない大きさです。


「兄さん、ここでおとなしく待ってな。カーニバルの行列は、いずれこっちにもやって来るさ」


「そうなのか」


 バターロさんはどっしりとかまえています。監獄で十年ぐらい生活していそうなほど貫禄かんろくがあります。尊敬しますが、こうはなりたくありません。


「兄さん。見たところ、レベル50ぐらいありそうだな」


「……どうだろうな」


 彼が思わせぶりに笑います。どうやら、レベルは内緒ないしょみたいですね。ちょっとだけ過大かだい評価です。


「どうだ、うちの組織に入らないか?」


「考えておくよ」

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