勇者(囚人)、カーニバルを待ちわびる
◇ ルニーナ
冷たい塀の中で、新しい朝を迎えてしまいました。監獄生活がまさかの二日目突入です。
昨夜はバターロさんがベッドを使っていたので、ベンチに座ったまま寝ました。となりに彼がいたので、寝た心地がしません。
――と言いたいところですが、気づいたら朝でした。一度も目がさめず、起きた時には彼に寄りかかっていました。こんな状況でも熟睡できる自分の精神力が怖いです。
上に確認してくると言った看守の方は、あれから戻ってきませんでした。いったいどこまで行ったのでしょう。冒険の旅にでも出発されたのでしょうか。
夕食を運んできた別の看守の方にも頼んでみましたが、それきり音沙汰がありません。上司捜索のため、今もどこかを冒険している可能性もあるので、悪く言うこともできません。
今朝、新たな看守の方がささやかな朝食を運んできました。いったい看守って何人いらっしゃるんでしょう。昨日の方が行方不明だから、新たに雇われたのでしょうか。
「今日は夜まで食事ぬきだ」
新たな看守の方から、そう言い渡されました。当然ながら、囚人のみなさんは大反発です。しばらく罵声が飛びかっていたので、今回は頼みごとをする雰囲気じゃありませんでした。
私は最悪の気分でしたが、彼は朝から上機嫌です。
昨日、同室のバターロさんから、カーニバルがあると意味深なことを言われたからでしょうか。彼は子供のように目を輝かせながら、カーニバルの話をせがみました。
けれど、バターロさんは期待をあおるばかりで、煙に巻き続けます。たぶん、たわいのないことです。いえ、たわいのないことであってください。お願いします。
◇
それは昼頃のことでした。
特にすることもないので、彼の鼻歌を聞きながら、小さな窓からわずかにのぞく空を見上げていたんですが、突然ドアが勢いよく開かれた音がひびきました。
看守の方がやって来たようです。昨日の方がついに冒険から戻られたのではないか。そんなあわい期待をいだきました。
「大変だ!」
けれど、あわてた様子の声が聞こえたかと思うと、すぐにバタンとドアを閉める音がひびきました。
何があったのでしょうか。監獄内が不気味なほど静まりかえります。
「どうした?」
バターロさんが扉のそばで外に向かって呼びかけます。
「看守が呼ばれて出て行った。役人どもが騒いでいるみたいだ」
どこからともなく、お友だちの声が返ってきます。
「何かあったのか?」
彼がソワソワした様子で問いかけます。
「カーニバルが始まったのかもな」
ニヤリと笑ったバターロさんが、彼の心をワンパターンにくすぐります。彼はもう完全にとりこになっています。
数分後、今度は窓の外から大声が聞こえてきました。本当にカーニバルが始まったのでしょうか。
ふと窓を見上げた彼が、高さ三メートル近くあるそこまで、軽くひとっ飛びしました。そして、鉄格子をつかんで、腕の力だけでぶらさがりました。
まるで、ふみ台の上に立っているかのように自然な体勢です。体に力が入っていません。どうなってるんですか。両手足を拘束されたまま、そんな身軽に動かないでください。
バターロさんもちょっと引いているじゃないですか。
「何か見えますか?」
「役人たちがあっちのほうへ向かってるな」
彼は鉄格子に顔を押し当てて、左方向をのぞきこんでいます。
「向こうのほうで騒ぎが起こっている気もするが……。ダメだ、ここからじゃ何もわからない」
彼がおりてきました。落ち着かない様子でせまい部屋を行ったり来たりしています。
「見に行ってこようかなあ……」
彼がつぶやきます。どうやってですか。彼はここへ来た時にも、脱獄を口にしていましたが、どうするつもりなんでしょうか。
扉は鉄製ですし、ぶ厚い石の壁に囲まれてます。窓のところを見れば、その厚さがわかります。その窓も頭さえ通りそうにない大きさです。
「兄さん、ここでおとなしく待ってな。カーニバルの行列は、いずれこっちにもやって来るさ」
「そうなのか」
バターロさんはどっしりとかまえています。監獄で十年ぐらい生活していそうなほど貫禄があります。尊敬しますが、こうはなりたくありません。
「兄さん。見たところ、レベル50ぐらいありそうだな」
「……どうだろうな」
彼が思わせぶりに笑います。どうやら、レベルは内緒みたいですね。ちょっとだけ過大評価です。
「どうだ、うちの組織に入らないか?」
「考えておくよ」




