冷血卿(魔導士)、反乱者たちを一蹴する
◇ ダンツォ
先輩と一緒に裏通りを進んで、役所のほうへ向かった。敵と遭遇することはなく、その姿も見当たらなかった。
役所の近くまでやって来ると、たたずんでいるフォルトさんを発見した。ちょうど役所の前辺りにいる。
「見てください! フォルトさんです」
「どうしてフォルトがあそこに……」
フォルトさんは監獄襲撃のメンバーだったはずなのに。誰かと向かい合っているようだけど、ここからでは相手が見えない。
近づいてみると、それは派手な格好をした魔導士だった。刺繍のほどこされた紺色のローブ。その服装だけで地位の高さがわかった。
「まちがいない。冷血卿だ」
あれが噂の……。体格はないけど風格がある。そして、相手を見くだすような表情をしている。まあ、あいつのレベルが噂通りなら、フォルトさんよりも格上ではあるけど。
二人は大通りの中央で対峙したまま動かない。俺たちのように脇道からながめているのが二組いるけど、割って入ろうとする様子はない。
息のつまるような張りつめた空気。見てるだけなのに、足がふるえてきた。
「君がリーダーのフォルトか?」
「知っていたとは驚きだな」
「捕縛命令が出ている。君はお尋ね者なんだ」
「お前は冷血卿だろ?」
「かげでそう呼ばれているのは知っている。私はこれまで、従う者には恩恵を与え、刃向かう者には容赦なく鉄槌をくだしてきた。情に流されず、事務的かつ冷徹に実行してきた。それを『冷血』と呼ぶのなら、甘んじて受けようじゃないか」
あいつは俺たちの中でも悪名高い。勝手に作ったルールを押しつけてきて、それを俺たちが守らないと徹底的に弾圧してきた。血も涙もない野郎と評判だった。
「俺たちや人狼族の動向を探るため、北方へ向かったと聞いていたんだけどな」
「当初はその予定だったが、出発直前に、君たちが監獄を襲撃するという情報が舞いこんだ。それで急きょこちらを優先した。君たちの予定がくるわないために、下手な芝居を打ってから、数人でひそかに戻ってきたわけさ」
「俺たちはまんまとワナに引っかかったってことか」
「君たちがワナにかけるのに失敗しただけだ。まあ、部隊の大半はそのまま北方へ向かわせた。私の影武者も同行している。だから、ニセの情報をつかまされた君の部下を責めるべきじゃない」
そういうことか。最高の作戦だと思っていたのに。
「君は時間かせぎか? それとも、本気で私に挑む気か?」
「……どっちであってほしい?」
敵はイラつくぐらい余裕ぶっこいてるのに、フォルトさんの表情はさえない。やつはレベル70を軽く超えているらしいから、レベル50台なかばのフォルトさんでは太刀打ちできない。
「ここに残ったのは私だけじゃない。私を足止めしただけでは、お仲間の救出は成功しないんじゃないか?」
「……何が言いたい」
「仲間のことを思うなら、私に全力で挑みかかり、早く助けに行ってあげたほうがいい」
「心にもないことを」
いくら挑発されても、フォルトさんに自分からしかける様子はない。実力差が身にしみてわかっているんだ。できれば、こんな姿を見たくなかった。
「君たちの組織はエスペロといったかな。レベル50超えは君をふくめてたった三名」
「よく調べてるじゃないか」
「大一番を控えているのに、その一人をここで失うわけか」
「楽しそうだな。無感情の冷血野郎と聞いていたんだけどな」
「極寒の地では戦いぐらいしか、血わき肉おどることはないからな」
「戦闘狂ってわけか」
「戦闘嫌いはいたずらにレベルを上げたりしない。君たち冒険者も同類だろ?」
◇
「おい、こっちに来い!」
その時、近くを通りかかった中心メンバーの一人に、背後から呼びかけられた。フォルトさんが気にかかったけど、そちらへ向かった。
「どうなっているんだ。仲間は助けられたのか?」
「冷血卿が現れて、それどころじゃない。今はフォルトがひきつけている」
「それは知っている」
「俺たちはあそこで見ていましたから」
「救出作戦を続けるか、撤退するか。フォルトに判断をまかされたんだが……」
「それでどうするんですか?」
「……撤退だ。冷血卿だけじゃない。人数は少ないが、マスタークラスが複数いる。今はそれを仲間たちに伝えてまわっているところだ」
ありがたいことに、連邦の魔導士は着ているローブでクラスがわかるそうだ。中にはハッタリもいるだろうから、うのみにはできないけど。
「南門の守りはかたい。東門から脱出するよう、指示を出しているが、そちらも時間の問題だな」
「待ってください。東門の外にも敵が待ちぶせていますよ」
「本当か?」
中心メンバーが驚いた。
「ああ、さっき確認した」
「カゴの中の鳥ってわけか」
「どちらかの門を強行突破するか、城壁から飛びおりるしかないな」
この街の城壁はかなり高い。十メートル以上あるだろうか。俺たち冒険者は、高いところから飛びおりるのは慣れてるけど、そこまであるとさすがに足がすくむ。
◇
「戦闘が始まったぞ!」
役所の前で炎がほとばしった。フォルトさんと冷血卿との戦闘が始まったようだ。さっきまでいた場所に急いで戻った。
すでに激しい戦いに発展していた。接近戦に持ちこもうと、フォルトさんが縦横無尽にかけまわっている。一方の冷血卿は、それを阻止しようと〈火炎〉の魔法を連発している。
ダメだ。劣勢であるのはひと目でわかる。接近戦に持ちこむどころか、敵の攻撃をよけるのに手いっぱいで、逃げまわっているようにすら見える。
「あっ!」
左半身に炎を受け、フォルトさんが片ひざをついた。息は荒く、顔は苦痛にゆがんでいる。たった一度の攻撃で、ここまでダメージを受けるのか。
同程度のレベルなら、全力でガードすれば敵の攻撃を相殺できるから、一撃を受けたぐらいで致命傷にはならない。だけど、レベルの差が開きすぎていると、そうはいかない。
「助けなくていいんですか?」
「いや……、俺たちの出る幕じゃない」
俺たちでは足手まといになる。それはわかってるけど……。
「うおおおおお!」
フォルトさんのさけび声がひびき渡った。炎につつまれたシルエットが両ヒザをついてから、路上に倒れこんだ。
あのフォルトさんが、こんなあっけなく……。ここまで圧倒されてしまうのか。文字通り、レベルが違う。
冷血卿がもの足りないといった様子で周囲を見まわす。このままだと連れて行かれる。なんとかして助けないと。
しかし、冷血卿は奇妙な行動に出た。路上のフォルトさんに目もくれず、役所のほうへ歩きだしたのだ。
「あいつ、フォルトさんを置いてどこかへ行きますよ」
「何がしたいんだ……?」
門のそばまで行った冷血卿がこちらを振り向く。俺たちの存在に気づくと、挑発的な笑みを投げかけてきた。
「助けたければ、ご自由にってことか」
「俺、助けに行きます。ガマンできません」
「よせ、ダンツォ!」
飛びだそうとすると、先輩に腕をつかまれた。
「フォルトのことは、俺にまかせろ。この街からどうやって脱出するか。お前はそれだけを考えろ」
次回から監獄にいるスニードたちの話です




