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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
21/49

冷血卿(魔導士)、反乱者たちを一蹴する

     ◇ ダンツォ



 先輩と一緒に裏通りを進んで、役所のほうへ向かった。敵と遭遇そうぐうすることはなく、その姿も見当たらなかった。


 役所の近くまでやって来ると、たたずんでいるフォルトさんを発見した。ちょうど役所の前辺りにいる。


「見てください! フォルトさんです」


「どうしてフォルトがあそこに……」


 フォルトさんは監獄かんごく襲撃のメンバーだったはずなのに。誰かと向かい合っているようだけど、ここからでは相手が見えない。


 近づいてみると、それは派手はでな格好をした魔導士だった。刺繍ししゅうのほどこされた紺色のローブ。その服装だけで地位ちいの高さがわかった。


「まちがいない。冷血卿れいけつきょうだ」


 あれがうわさの……。体格はないけど風格がある。そして、相手を見くだすような表情をしている。まあ、あいつのレベルが噂通りなら、フォルトさんよりも格上かくうえではあるけど。


 二人は大通りの中央で対峙たいじしたまま動かない。俺たちのように脇道からながめているのが二組いるけど、割って入ろうとする様子はない。


 息のつまるような張りつめた空気。見てるだけなのに、足がふるえてきた。


「君がリーダーのフォルトか?」


「知っていたとは驚きだな」


捕縛ほばく命令が出ている。君はおたずものなんだ」


「お前は冷血卿だろ?」


「かげでそう呼ばれているのは知っている。私はこれまで、従う者には恩恵おんけいを与え、刃向はむかう者には容赦ようしゃなく鉄槌てっついをくだしてきた。情に流されず、事務的かつ冷徹れいてつに実行してきた。それを『冷血』と呼ぶのなら、甘んじて受けようじゃないか」


 あいつは俺たちの中でも悪名あくみょう高い。勝手に作ったルールを押しつけてきて、それを俺たちが守らないと徹底てってい的に弾圧だんあつしてきた。血も涙もない野郎と評判だった。


「俺たちや人狼族の動向どうこうを探るため、北方ほっぽうへ向かったと聞いていたんだけどな」


「当初はその予定だったが、出発直前に、君たちが監獄を襲撃するという情報が舞いこんだ。それで急きょこちらを優先した。君たちの予定がくるわないために、下手へた芝居しばいを打ってから、数人でひそかに戻ってきたわけさ」


「俺たちはまんまとワナに引っかかったってことか」


「君たちがワナにかけるのに失敗しただけだ。まあ、部隊の大半はそのまま北方へ向かわせた。私の影武者も同行している。だから、ニセの情報をつかまされた君の部下をめるべきじゃない」


 そういうことか。最高の作戦だと思っていたのに。


「君は時間かせぎか? それとも、本気で私にいどむ気か?」


「……どっちであってほしい?」


 敵はイラつくぐらい余裕ぶっこいてるのに、フォルトさんの表情はさえない。やつはレベル70を軽く超えているらしいから、レベル50台なかばのフォルトさんでは太刀打たちうちできない。


「ここに残ったのは私だけじゃない。私を足止めしただけでは、お仲間の救出は成功しないんじゃないか?」


「……何が言いたい」


「仲間のことを思うなら、私に全力で挑みかかり、早く助けに行ってあげたほうがいい」


「心にもないことを」


 いくら挑発されても、フォルトさんに自分からしかける様子はない。実力差が身にしみてわかっているんだ。できれば、こんな姿を見たくなかった。


「君たちの組織はエスペロといったかな。レベル50超えは君をふくめてたった三名」


「よく調べてるじゃないか」


大一番おおいちばんを控えているのに、その一人をここで失うわけか」


「楽しそうだな。無感情の冷血野郎と聞いていたんだけどな」


極寒ごっかんの地では戦いぐらいしか、血わき肉おどることはないからな」


「戦闘狂ってわけか」


「戦闘嫌いはいたずらにレベルを上げたりしない。君たち冒険者も同類だろ?」



     ◇



「おい、こっちに来い!」


 その時、近くを通りかかった中心メンバーの一人に、背後から呼びかけられた。フォルトさんが気にかかったけど、そちらへ向かった。


「どうなっているんだ。仲間は助けられたのか?」


「冷血卿が現れて、それどころじゃない。今はフォルトがひきつけている」


「それは知っている」


「俺たちはあそこで見ていましたから」


「救出作戦を続けるか、撤退てったいするか。フォルトに判断をまかされたんだが……」


「それでどうするんですか?」


「……撤退だ。冷血卿だけじゃない。人数は少ないが、マスタークラスが複数いる。今はそれを仲間たちに伝えてまわっているところだ」


 ありがたいことに、連邦の魔導士は着ているローブでクラスがわかるそうだ。中にはハッタリもいるだろうから、うのみにはできないけど。


「南門の守りはかたい。東門から脱出するよう、指示を出しているが、そちらも時間の問題だな」


「待ってください。東門の外にも敵が待ちぶせていますよ」


「本当か?」


 中心メンバーが驚いた。


「ああ、さっき確認した」


「カゴの中の鳥ってわけか」


「どちらかの門を強行きょうこう突破とっぱするか、城壁じょうへきから飛びおりるしかないな」


 この街の城壁はかなり高い。十メートル以上あるだろうか。俺たち冒険者は、高いところから飛びおりるのは慣れてるけど、そこまであるとさすがに足がすくむ。



     ◇



「戦闘が始まったぞ!」


 役所の前で炎がほとばしった。フォルトさんと冷血卿との戦闘が始まったようだ。さっきまでいた場所に急いで戻った。


 すでに激しい戦いに発展していた。接近戦に持ちこもうと、フォルトさんが縦横じゅうおう無尽むじんにかけまわっている。一方の冷血卿は、それを阻止そししようと〈火炎〉の魔法を連発している。


 ダメだ。劣勢れっせいであるのはひと目でわかる。接近戦に持ちこむどころか、敵の攻撃をよけるのに手いっぱいで、逃げまわっているようにすら見える。


「あっ!」


 左半身に炎を受け、フォルトさんが片ひざをついた。息は荒く、顔は苦痛くつうにゆがんでいる。たった一度の攻撃で、ここまでダメージを受けるのか。


 同程度のレベルなら、全力でガードすれば敵の攻撃を相殺そうさいできるから、一撃を受けたぐらいで致命傷ちめいしょうにはならない。だけど、レベルの差が開きすぎていると、そうはいかない。


「助けなくていいんですか?」


「いや……、俺たちの出る幕じゃない」


 俺たちでは足手あしでまといになる。それはわかってるけど……。


「うおおおおお!」


 フォルトさんのさけび声がひびき渡った。炎につつまれたシルエットが両ヒザをついてから、路上ろじょうに倒れこんだ。


 あのフォルトさんが、こんなあっけなく……。ここまで圧倒されてしまうのか。文字通り、レベルが違う。


 冷血卿がもの足りないといった様子で周囲を見まわす。このままだと連れて行かれる。なんとかして助けないと。


 しかし、冷血卿は奇妙な行動に出た。路上のフォルトさんに目もくれず、役所のほうへ歩きだしたのだ。


「あいつ、フォルトさんを置いてどこかへ行きますよ」


「何がしたいんだ……?」


 門のそばまで行った冷血卿がこちらを振り向く。俺たちの存在に気づくと、挑発的な笑みを投げかけてきた。


「助けたければ、ご自由にってことか」


「俺、助けに行きます。ガマンできません」


「よせ、ダンツォ!」


 飛びだそうとすると、先輩に腕をつかまれた。


「フォルトのことは、俺にまかせろ。この街からどうやって脱出するか。お前はそれだけを考えろ」

次回から監獄にいるスニードたちの話です

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