ダンツォ(反乱者)、城門を襲撃する
◇ ダンツォ
救出作戦の内容はというと、まず二手に分かれたうちの片方が役所を襲撃する。役所にいる連中はたいしたことないし、そこ自体に用はない。
目的は監獄の警備に当たる魔導士の注意をひきつけること。そいつらが役所へ加勢に向かったところで、フォルトさん率いる主力が手うすになった監獄を襲撃して、仲間を救出するという寸法だ。
その間、自分は東門で門番たちの相手をする。そして、そこで逃走ルートを確保したまま、救出に成功した仲間の誘導や手助けを行う。
「長丁場になるかもしれない。ダンツォ、力をセーブをしていけ」
地上とダンジョンは勝手が違う。ダンジョンと同じノリで力を使うと、いざという時にエーテル切れを起こし、命取りになりかねない。
「そろそろだな」
先輩が空を見上げながら言った。
救出作戦の開始予定時刻がせまっている。東門そばの建物に身をひそめ、その時が来るのを待っていると、遠くでひと筋の煙がのぼっていることに気づく。
作戦開始の合図だ。
「狼煙が上がりました!」
「よし。ダンツォ、準備はいいか。出てきたところをたたくぞ」
遠くで雄たけびや悲鳴が上がる。攻撃が始まったんだ。そちらに気を取られていると、先輩にそでを引っぱられた。門番が異変に気づいて、外へ出てきたのだ。
魔導士は魔法による遠距離攻撃を得意とする反面、接近戦にはからっきし弱い。セオリー通り、敵の油断をついてひと息にたたく。
こちらへ背を向けた相手に、先輩が音もなく近づいていく。それをサポートするため、自分もあとに続いた。
ある程度接近したところで、先輩はいっきにつめ寄り、背後から飛びかかった。あざやかにしとめて、門番を取りおさえた。
「向こうにもいます!」
小屋からもう一人出てきた。まだ相手とは距離がある。だけど、すでに攻撃態勢を整えている。とっさに物かげに飛びこむと、敵の攻撃――〈火炎〉の魔法が視界に広がった。
先輩も建物のかげに逃げこんだ。ギリギリかわしたように見えたけど、片手をおさえながら表情をゆがめている。魔法がかすったんだ。
敵が右腕をかまえたまま、慎重な足どりで現れる。先輩のほうへ向かっていく。こっちには気づいていない。俺がやらないと。
先輩とアイコンタクトをかわす。俺が動きだしたと同時に、注意をひくために、先輩が敵の前におどり出た。
自分は全速力で敵に向かっていき、横っぱらに渾身のけりを入れた。エーテル特有のグニャッとした感触があった。
敵が地面をころがる。俺は馬乗りになって、さらに頭をなぐりつけた。体をガードするエーテルの感触がなくなったので、手をとめた。敵が失神した証拠だ。
「よくやった、ダンツォ」
先輩と一緒に敵をロープでしばりつけて、右手を布でグルグル巻きにする。魔導士は手のひらの刻印をふさがれると、魔法が使えなくなるからだ。
俺たちも連邦もいたずらに命を奪うことはしない。たとえそれが、どんなに憎い敵だろうと。連邦との間にはそういう暗黙のルールがある。
それに敵を捕虜にできれば、捕まっている仲間を解放させるための取引材料に利用できる。
◇
狼煙が上がってから、三十分ぐらいたった。
捕まえた門番二人は小屋に押しこんだ。今のところ、新手が現れる様子はない。あとは作戦の成功を祈りながら、ここを死守するだけだ。
「もう監獄の襲撃は始まっただろうか」
「ちょっと様子を見に行ってもいいですか?」
先輩に断ってから、役所が面する大通りへ向かうと、すぐに魔導士たちの姿が目に飛びこんだ。あわてて身を隠して、塀のかげから様子をうかがう。
魔導士たちがこちらへ来る様子はない。仲間たちの姿もない。監獄があるのは役所のさらに先だから、もうそちらへ向かったのだろうか。
その時、二度、三度と〈火炎〉の魔法がまたたいた。仲間らしき二人が、それから逃げるように大通りを横断していく。ちょうど役所の前あたりだ。
追撃の炎がほとばしった。百メートル近く離れていてもハッキリと見えるほど、威力がケタ外れだ。あんな魔法を使うやつがいるのか。先輩に知らせなきゃ。
「まだ役所の前で戦ってます」
「そうか……、苦戦してるのかもな」
「〈火炎〉の魔法が飛びかってました。あんなすさまじい炎は初めて見ましたよ」
「……妙だな。やつらの主力は北方へ向かったはずだが」
俺たちエスペロと人狼族が、北方で反乱を起こすというのは公然の秘密。それに対応するため、やつらが北方へ向けて出発したのが二日前だ。
俺たちはこの目でそれを確認した。それから、やつらがここに戻ってきた様子はないし、ブルアルバーロ付近で目撃したという報告が、今朝届いている。
「マスタークラスが一人、二人残ってたのかもな」
マスタークラスとはレベル50以上ということ。だいたい、ギルドマスターを任せられるレベルなので、そんな呼び名がついている。
レベル50以上ならフォルトさんと同等だ。ここを離れて加勢に行くべきか、先輩と話し合っていると、仲間の一人が近くの脇道から飛びだしてきた。
「おい、どうした!」
こちらに気づいた仲間がかけ寄ってくる。肩で息をしていて、かなり動揺している様子だ。
「ひとりなのか?」
「ああ、仲間とははぐれた。みんな散り散りになっちまった」
「何があったんだ?」
「冷血卿だ。冷血卿がここに残っていやがった」
「冷血卿が……?」
冷血卿――ミロの領主であり、連邦に五人いる将軍の一人で、五大将なんて呼ばれてる。こいつの手によって、どれだけの仲間が捕まったかわからない。
「冷血卿は北方へ向かったんじゃなかったんですか?」
「ああ、やつは北方へ向かった。だが、今はここにいる。もしかしたら、全部俺たちを誘いこむためのワナだったのかもな」
「そんな……。卑怯なマネを」
「まあ、卑怯なのはおたがい様だけどな」
ふいに先輩が東門を振り返る。
「まさか……」
そうつぶやいた後、門をくぐりぬけて、街の外の様子をうかがいだした。俺もそちらへ向かった。
「どうしました?」
「大当たりだ。外で待ちかまえているのがいる」
一緒になってのぞきこむ。岩かげに隠れている魔導士が二人いる。それ以外は発見できなかったけど、あの二人だけという確証はない。
「どうしますか?」
「仲間の救出どころじゃなくなったな。それどころか、俺たちがここから無事に脱出できるかも、あやしくなってきた。とにかく、このことを仲間たちに知らせよう」




