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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の復活編
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勇者(冒険者)、石化から目ざめる

新規登場人物

スニード:伝説の勇者

     ◇ スニード



 まぶたを開けると、青空が広がっていた。


 ……ん? 青空? なんで俺は外で寝ているんだっけ。


 ダンジョンでのうたた寝は日常茶飯事(さはんじ)だけど、地上の屋外おくがいで目がさめたことなんて記憶にない。


 背中の感触は砂だろうか。波の音としおの香りがする。海が近いな。


「大丈夫ですか?」


「……誰だ、お前?」


 かたわらに見知らぬ女がいた。俺の顔を不思議そうにのぞきこんでいる。


 年齢は十代後半。ひと目で魔導士とわかる格好をしている。あいつの仲間だろうか。もしかして、あの後、地上まで運ばれたのか?


 それとも、すべて夢だったのだろうか。むしろ、夢であってほしい。あいつが……親友だと思っていたあいつが、俺にあんなことするなんて信じたくない。


 人間にかぎれば、初めてできた仲間だったのにな。まあ、仲間というよりは、仕事上のパートナーって感じだったが。


 でも、あいつはなんで俺のことを石化したんだ。まったく目的が見えない。ただ単に俺を嫌っていて、目ざわりだったなんて話じゃないよな。


「私は田舎の役人です。あなたこそ誰ですか? 『伝説の勇者』さんですか?」


 なんだよ、『伝説の勇者』って。勇者と呼ばれるのは慣れてるけど。


「俺は伝説になっているのか?」


 そう言いながら、ゆっくりと体を起こす。思った通り、目の前に海が広がっている。体が思うように動かない。太陽がまぶしい。頭もボーッとする。最悪の気分だ。


「あなたが『伝説の勇者』かは知りませんけど、『伝説の勇者』の像と同じ格好をしていますね。まあ、その方は何十年も前にくなられたみたいですけど」


 何十年も前って……、俺のことを言っているんじゃないよな。まさか、本当にあいつ、俺をオブジェにしてたわけじゃないよな。


「その『伝説の勇者』ってやつの名前は?」


「『伝説の勇者』は『伝説の勇者』ですよ。名前は知りません」


 ダメだ。これじゃ話が進まない。別のアプローチをしよう。


「じゃあ、どうして俺はここに?」


「なにもおぼえていないんですか? 石化した状態で、この砂浜に倒れていたんですよ」


 石化した状態でか……。わけがわからない。そもそも、なんで地上にいるんだ。


 確か、あの時は第五階層にいたよな。まあ、ダンジョンで石化させられて、目ざめたら町に運ばれていた――なんてことは、若い頃にしょっちゅうあったか。


「そうすると、君が石化を解いてくれたわけか」


「そうです」


 この子は命の恩人か。失礼な態度を取ってしまった。


「ありがとう、恩に着るよ。今度、お礼をするから」


「いいですよ、お礼なんて」



     ◇



 いや、待てよ。油断するな、俺。愛想がいいからって、まどわされるな。下手したら、石像ライフに逆戻りだぞ。


 この子は魔導士だ。あいつの仲間で俺を管理していた――なんてこともありえる。ぬか喜びさせたところで、再び地獄の底につき落とすつもりかもしれない。


 女の服装をチェックする。新品同然で汚れひとつない。ローブはローブだが、あいつが着ていたものに似たところはないな。紋章も刺繍ししゅうされていない。


「見なれない格好だな」


「この前、うちの役所で採用された制服です。男と女でちょっと違うんですけど」


 制服ってなんだよ。ていうか、かわいいローブだな。デザインがこっているし、すそが短いから太ももがチラチラ見えてる。そんな格好で冒険するつもりかよ。


「あまり見ないでください」


 女が裾をおさえて太ももを隠す。誤解だ。いや、見てたのは事実だから、誤解でもないか。


 ふと女の右手が目にとまり、反射的にそれを取ってしまった。手のひらに五芒星ごぼうせいをかたどった赤い刻印こくいんが浮きでている。これは魔導士特有のものだ。


「なにするんですか」


 女が驚いた様子で手を引きはなした。


「キレイな手をしているな」


 そう言ってごまかした。ひとまず安心した。女がキレイな手をしていたからだ。


 この女は黒魔法を使わない。少なくとも使った経験がほとんどない。黒魔法を使えば、刻印の周辺が少しずつ黒ずんでいくからだ。


「白魔法が使えるんだ?」


「はい、未熟ながら」


「じゃあ、頭がいいんだ?」


「そんなことありませんけど」


 女は照れくさそうにした。


 白魔法は複雑な呪文をおぼえなければならない。だから、直感的に使える黒魔法のほうが簡単なんだそうだ。実際、〈治癒ちゆ〉の魔法が使えない魔導士とよく出会った。


 もういいか。疑いだしたらキリがない。ここに放置されてた理由が謎のままだが、魔法のことを考えてると、あいつのこと思いだす。


「冒険者って感じの格好をされていますけど、やっぱり冒険者の方なんですか?」


「そうだよ。最近は、冒険らしい冒険をしてなかったけどな。冒険か……、冒険をしていた頃がなつかしいな」


 遠い目で空を見上げる。急に体の力がぬけてきた。立ち上がる気力さえわかない。やっぱり、地上のエーテルはうすいな。


「腹が減った」


 腹の虫が鳴ったので、つい本音が出た。あんに要求していたからか、女は少しあきれた様子でこう言った。


「じゃあ、なにか食べるものを用意しますので、ついて来てください」


 ありがたい。なんて優しい子なんだ。とりあえず、腹を満たしてから、彼女へのお礼をどうにかしよう。


 それが済んだら、あいつをぶん殴りに行くか。

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