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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
18/49

勇者(囚人)、明日はカーニバルだと知る

     ◇ スニード



 監獄かんごくに入れられることになった。正式に処分が決まるまで、ここで囚人しゅうじん生活らしい。


「他の囚人はいるのか? それとも特別待遇(たいぐう)か?」


「他の囚人もいる。知り合いがいるかもしれないぞ」


 俺がレベル39と聞いて、偉そうな役人は頭をかかえていたが、ろうに入れておけば、恐れるほどでもないということか。


 思った通り、二階に連れて行かれた。ここはかつて、宿舎しゅくしゃの部屋があった場所だ。長い通路の両サイドに十部屋ほどがズラリとならんでいる。


 元々(もともと)要塞ようさいだった建物だから、昔から武骨ぶこつで窓も小さかった。監獄にいる気分だと言っているやつが結構いた。


 中が確認できるように、扉が鉄格子てつごうし付きになっていたり、さらに監獄らしくなったが、基本的に変わらないな。


 個々の部屋に囚人が二、三人で入れられている。一人でもせまいと感じられるくらいの広さなんだけどな。どうやら繁盛はんじょうしているようだ。


 ルニーナが一緒にいるからか、やたら注目された。鉄格子に張りついて、俺たちをずっと目で追っているやつが何人も出てきた。


 看守かんしゅが一番奥の部屋の前で立ち止まった。中には冒険者の格好かっこうした男が一人いる。髪はボサボサで、無精ぶしょうヒゲをはやしている。


「あの……、私はどうすれば?」


 看守が扉を開けると、ルニーナが不安げに問いかけた。


「お前も一緒に入れ」


「えっ……。ちょっと待ってください。私は証人として一緒にいるんであって、罪人ざいにんじゃないですよ。ほら、見ての通り、手かせだってはめていませんし」


「上からそうするように言われている」


「そんなわけありません。もう一度確認してきてください」


 確かにそんなわけないな。ここまでついて来ている時点でおかしいと思ってたけど。


「わかったわかった。確認してくるから、中に入って待ってろ」


「なんで危険人物あつかいするんですか!? 私、ただの田舎いなかの役人ですよ!?」


 もめてるな。こっちは正真しょうしん正銘しょうめいの罪人なので、おとなしく中に入った。ヒゲの男に軽く頭を下げると、相手は微笑を返してきた。


「少しの間でも、ここで待ってろ」


 ルニーナが強引ごういんに部屋の中へ押しこまれる。


「待ってください。じょ、冗談ですよね!?」


 必死の抵抗もむなしく、看守はカギを閉めてしまった。


「そもそも、おかしいですよね! 私、女ですよ! 性別が違うんですよ! それなのに、どうして同じ場所なんですか!」


 看守は聞く耳を持たずに立ち去っていく。さすがに、かわいそうになってきた。


 ただ、脱獄だつごくの時にはルニーナも連れて行きたい。あとでさがしに行くのは面倒だから、俺としてはここにいてくれたほうがありがたい。


「絶対に勘違いしてますよ!」


「うるせえぞ! このクソアマ!」


 他の囚人の怒号どごうが飛び、ルニーナは押し黙った。


「ほら、囚人のみなさんがお怒りだ。ここはあらくれもの巣窟そうくつだから、振るまいにはじゅうぶん気をつけたほうがいい」


 やさしく語りかけたが、ルニーナは目も合わせようとしない。こっちもおかんむりか。


「いっそのこと、今すぐ脱獄するか?」


「そんなことしたら、本当の罪人になっちゃうじゃないですか。大丈夫です。きっと誤解はすぐに解けますから」


 ルニーナがふくれっつらで答える。今後のことを考えると、機嫌を取っておきたいが、今はそっとしておいたほうが無難ぶなんか。



     ◇



 せまい部屋を見渡す。粗末そまつなベッドとベンチが一つずつある。なんだこれ。どうなってるんだ?


 ルニーナがここから出れたとしても、ヒゲの男がいるんだぞ。どっちかはベンチで寝ろってことか? ベッドは二人で寝れないこともないが……。


 しかたない。今日中に脱獄するしかなさそうだな。


 三メートル近い高さに小さな窓がある。これは昔からあったが、今はごていねいにも鉄格子がはめられている。もう一つ目線めせんの高さにあったと思ったが……、められたようだ。


 とりあえず、ひと安心だ。連中は魔法で拘束こうそくしようとするそぶりも見せなかった。レベルの高いやつも見当たらなかったし、ここから脱獄するのは、俺にとってはわけない。


 ただ、ここは逃げ場がない――わけでもないが、レベルの高い魔導士がいつ現れてもいいように、逃げられる準備をしておかないとな。


 ルニーナは扉の鉄格子に顔を張りつけ、通路をのぞきこんでいる。看守が戻ってくるのを、今か今かと待っているのだろう。


 ヒゲの男はベンチに座っている。俺と同じように、手かせと足かせをはめられている。拘束しないと危険ってことは、そこそこレベルが高いってことかな。


「兄さん、冒険者か?」


「ああ」


「俺とおそろいだな」


 ヒゲの男が手かせを見せびらかしながら笑う。


「そうだな」


「バターロだ。あんたは?」


「……ウヌオだ」


 本名は隠すことにした。連邦の役人にもそう名乗った。


 ルニーナによれば、俺は伝説になっているらしいし、もし有名だったら、弱点を知られていてもおかしくない。少なくとも、俺を石化させた『あいつ』はそれを知っている。


 ルニーナが勘ぐるような目をこちらに向けてきた。


 まだ偽名ぎめいを使っていることを説明していない。口止めしたとはいえ、すでに本名を名乗ってしまったからな。軽率けいそつだったかな。


 バターロのほうも似たような目つきをしていた。なんだ。俺のことを知っているのか? 


 しばらくして、肩すかしを食らったかのような表情をしてから、黙りこくってしまった。誰かと勘違いしてたのかもな。


「いくらなんでも遅すぎですよね。いったいどこまで確認しに行ったんでしょう」


 ルニーナがブツブツと不満をもらす。


「あの……、看守の人を呼んでもらいたいんですけど」


「この扉を破壊して呼びに行けってことか?」


「そんなムチャクチャな要求はしてません。大声で呼びかけてもらえれば結構です」


 さっき、他の囚人に怒鳴どなられたからビビってるのか。ここから呼びかけて聞こえるとも思えないが、それでルニーナの気がおさまるならやってやるか。


「おじょうちゃん、心配する必要はない。連中はいそがしくて手がはなせないのさ」


 唐突とうとつにバターロが言った。そんな雰囲気が確かにあった。広いフロアのわりに、やけに役人の数が少なかったし。


「何かあったのか?」


「まだ何もないさ。何かがあるとしたら、これからだ」


 バターロは何が起こるか知っていると言いたげだ。


「いやぁ、お二人さん。本当に良いタイミングで来たよ」


「……何があるんだ?」


「明日、街でカーニバルが行われるんだ」


 バターロが声をひそめながら言った。


 普通のカーニバルじゃないよな。暴動を起こして、みんなで脱走だっそうするとか、そんな感じの話か?


「へぇー。それは俺たちも見物けんぶつできるのか?」


「ああ。見物どころか、参加できるかもしれないぞ」


 偉そうな役人がイラついていたのはそいつが原因か。――となると、向こうに計画がバレているってことになるけどいいのか?


 とにかく、おもしろくなりそうだ。夜中のうちにぬけだそうかと考えてたけど、今日はここで夜を明かすか。

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